不安
本編その4
「ジロジロ見ないでください」
「お前は背中に目でもついてんのかよ」
風呂を堪能したルージュは、現在リビングにて絶賛お着替え中だ。事の経緯は簡単で、俺用にサイズを合わせてもらった服を間違えて着たルージュに、俺が自分用の服を着ろ、と言ったのだ。それでなぜだかルージュはリビングで着替え始め、俺は「着替えを見るのはやめてください」と言われ、海を眺めさせられているのだ。普通に脱衣所で着替えろよ。
………はぁ。ハム太の奴、今頃はたらふく飯食って寝てんだろうなぁ。
俺の相棒、ハムスターのハム太。いつもなら俺の帽子の中に入って一緒に旅をしているんだが、今回に限っては特例で、俺の飛行艇に留守番中。この島に来る途中でコクピットの中から見えた魚市場の景色に、ハム太の魚恐怖症が反応したらしい。俺がこの島に着いて飛行艇を降りたときには、もうすっかり運転席でくつろぎモードだった。
なんか、アイツが羨ましいぜ。
夕日の落ち始めた大海原。その大自然な絶景を眺めながら、俺は感傷に浸った。
「………フレアさん!」
「うおっ、なんだよ今度は」
「何度読んでも反応が無いから、わざわざ耳元まで来てあげたんです」
「………ああ、そう」
海を眺める。海に反射している光をモロに食らって、目がチカチカした。
「……フレアさん、私、やっぱり邪魔でしたか?」
今日まで一度も聞いたことのない、弱々しいルージュの声。俺がわざと死んだフリをした時とは、また違う声音だ。不安というか、自信がないというか、とにかくそんな感じの声。
「どうした、急に。まさかお前、もうホームシックか?」
「そんなことないです! ただ、お風呂に入っている時、フレアさんにはたくさん迷惑をかけてしまっているなって、そう、思って」
なんだよ、そんな事かよ。だだのクソガキだと思っていたが案外、根はいい奴なんだな。まだこんなちっこいガキが、こうやって自分から1日を振り返って反省するなんて、当たり前のように見えて意外と出来ないことだ。俺なんて、中学卒業前にやっと意識し出した程度だ。
それに、コイツと初めて会った時、コイツは色んな動物達と触れ合い、仲良くしていた。その理由、何となく分かったな。
「そう落ち込むな」
反省したように下を向いていたルージュの頭を撫でてやる。すげーツヤツヤだ、どんなシャンプー使ったんだ。
「お前を邪魔だと思ってたら、俺はお前を旅になんか連れてってない。んだから心配すんな。それにそんな、辛そうな顔すんな」
「う、うわぁぁ〜ん!」
「うわっ、泣き出しやがった!」
ボロボロと泣き出し、ルージュは俺に引っ付く。
じわじわと腹のあたりが湿っていく感覚。あ〜あ、してやられた。
………けど、今回くらいはいいか。
泣いているルージュを適当に泣き止むまで待ってやる。その時間に比例して、俺の服は湿り気を帯びていく。
純粋なガキだなぁ。って、一つ言わなきゃいけないことがあるんだった。
「お前の面倒見るのダルいって思ったらそこら辺に置いて帰るかもしれないから、そこ頼むね」
「悪い冗談は止めてください!」
その5へ続く!




