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バカ殿様に転生しました。  作者: 吉良山猫
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遺書

いつも誤字脱字修正ありがとうございます。

某国某所


自身の密告によりお家取り潰しになり、新たに断絶した名家の名を継いだ小柄だが筋肉質な男は兄とその主君の墓に手を合わせることが日課になっている。


年の離れた兄は三郎兵衛の父のような存在であり、強く気高い憧れの存在であった。


そしてその兄が傅役を勤めた主君のことを人と会うたびに「若君はお館様以上の器の持ち主じゃ。正に天才とは若君の為にある言葉ぞ」と常日頃から自慢して周囲に漏らしていた。


しかしそれが災いしてか、自身の父との関係もあり誰よりも疑い深く人を信じられないお館様の耳に兄が語る話が入ってしまった。


それ以来お館様は兄を政治の中央から遠ざけて冷遇した為、兄だけでなく兄の主君も立場が悪くなっていた。


三郎兵衛は兄以上にお館様を慕っていた為に視野が狭くなり、騙されているとは気づかずに黒幕達の都合の良いように密告を行い結果として兄とその主君を死に追いやってしまった。


本来であればありえない話だが、兄の主君の従兄弟にお館様の寵臣であり実の弟であるお主が兄の罪を密告することより家中に無駄な混乱を起こさず全てが丸く収まり、兄もその主君も命だけは助けられるであろうと言う甘言に騙されてしまったのである。


最初は自身は正しいことをしただけであり、兄とその主君が愚かだと思っていた…兄の遺書を見つけるまでは。


三郎兵衛は兄の遺書を菩提寺の住職より渡され読んだ瞬間に崩れ落ちて号泣した。


自身は何もわかっていなかった、愚かにも騙されて踊らされた傀儡であったと悟ったのだ。


黒幕に関しても兄はわかっていたようでこと細かく記されていた。


最終的にわかっていながら罪を一身に背負い、いずれ今回のことがなくとも主君が廃される予感を感じていた兄は今回の件を利用して主君の為にうてる手をうっていたらしい。


そしてその遺書には「この手紙を読んでいると言うことは儂はもうこの世にいないであろう。しかし儂は加藤段蔵と約束をかわした。まだ儂を兄と思い信じる気持ちがあるならば熱田神宮へ行け」とあった。


新月の夜に、三郎兵衛は主家を出奔して家族と共に熱田神宮を目指した。


実は彼の配下の赤備えが一族をつれこっそりとついてきていることも知らずに。


熱田神宮への道中「兄上すまない、若様すまない、全て愚かな儂のせいで…許してくれとは言えぬ。ただすまない」


三郎兵衛は日々後悔し、自身の罪を悔い涙したのであった。


三郎兵衛は信濃を抜けて天竜川を渡り、木曽川を降り熱田神宮を目指した。


途中で配下の者達がついて来ていることに気が付いた三郎兵衛は謀叛の罪に問われる前に帰れと言い聞かせたのだが、同行叶わぬならここで腹を切ると皆が言うので仕方なく一緒に連れて行く。


その人数は驚くことに武者は50騎を超えており、特に忠誠心が強く屈強な者達とその家族であった。


其の疾きこと風の如く

其の徐かなること林の如く

侵掠すること火の如く

動かざること山の如し

知り難きこと陰の如く

動くこと雷霆のの如し

郷を掠めて衆を分かち

知を廓めて利を分かち

権を懸けて而して動く


孫子の兵法の中で有名な言葉である風林火山を旗印として使っているのが甲斐の虎武田信玄であり、人々は武田四名臣をその旗の1文字に例えて馬場信春は風、内藤昌豊は林、山県昌景は火、高坂昌信は山であると認識している。


人は城と考えるのであれば風林火山の火を失ったことになる武田家には綻びが生じたこととなる。


そして皆は駆けて、駆けてすでに満身創痍だ、自身の心に襲いくる罵声と後悔、それでも三郎兵衛達は馬を駆け熱田神宮に辿りついた。


家族達は木曽川を降る際に舟に乗り換えている為、最後まで駆けたのは騎馬武者のみである。


家族と別行動の後にほとんど睡眠、食事、休息を取らずに駆け抜けてきた彼等は道中野武士の類や落武者狩りの村人などに襲われていたが、流石は最強の赤備え誰1人として欠けることはなかったのである。


熱田神宮ではとある女性が供の者達と味噌汁と握り飯を持って門より現れる。


「ま、まさか嶺松院様、生きておられたのか」


そう、その場にいたのは夫亡き後に出家して川に身投げして死んだはずの嶺松院とその娘だったのだ。


「飯富殿久しぶりですね。今更どの面を下げて妾の前に現れたのですか」


「くっ、それは…申し訳ありませぬ。某が愚かであり申した。望むならこの首差し出しまする」


「で、あるか」

「貴方様はいったい」

「山県三郎兵衛昌景だな。私は織田茶筅丸だ。お主のことは加藤段蔵と太郎殿からきいておる」

「ではあなた様が熱田大神の加護を受けし神童」

「で、ある」


首を斬られても構わぬと嶺松院の前で刀を前に起き土下座をしていた三郎兵衛は一歩、二歩後ろに下がる。


「嶺松院殿、私に免じてこの者を許してはもらえぬか」

「すこし文句を言いたかっただけです。それに此度のことには兄今川氏真や祖父武田信虎、親族の穴山信君、跡部勝資、義父が関わっていたので三郎兵衛だけを責められません。真実は全て聞きましたので」

「で、ありますか」

「それに三郎兵衛は虎昌と太郎様の為に熱田まで来てくれました。だから許します」

「ここまで道中大変だったでしょう。段蔵から此方に向かっていることは聞いていました。熱い味噌汁と梅干しと鮭の握り飯、沢庵を食べてまずは身体を休めなさい」


それを聞いた山県三郎兵衛昌景と付き従ってきた赤備え達は人目を憚らずに号泣するのであった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 荒木村重なんかどれほど悪人に書かれるのか、恐ろしいようです。
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