祝言
いつも誤字脱字訂正ありがとうございます。
永禄8年夏名古屋城
関東管領上杉輝虎一行が名古屋城にきてから2ヶ月が過ぎた。
上杉輝虎こと上杉虎千代は名古屋城内に建てられた毘沙門堂で日々の日課である祈りを捧げ瞑想をしている。
毘沙門天像はそれは見事なもので多方面に才能を発揮する織田茶筅丸が虎千代の為に檜の木から掘り上げ、黒塗りした物を漆で塗り固めた至極の逸品である。
そしてカッと目を見開くと何かを悟ったような顔となり茶筅丸の元へ向かう。
「婿殿話がある。今良いか?」
「勿論です虎千代、如何致しましたか」
「妾の腹に2人のややこを授かった」
「それは誠ですか」
「うむ、間違いない。毘沙門天の声が聞こえたからな」
「で、ありますか」
俺は虎千代の身体を優しく抱き締めて額に接吻をして顔を緩める。
俺は主だった家臣達を集めて虎千代懐妊の報告をすると皆が喜びに湧き上がる。
伊賀忍軍や滝川忍軍、戸隠忍軍、前田忍軍、軒猿などが名古屋城、名古屋城下に結界をはり家臣団には箝口令をしいていた為、俺に女子の影があることに気付かれたとしても相手が関東管領上杉輝虎であることは父信長や周辺諸国にも漏れていない。
虎千代との約束で武家として側室を娶るのは構わぬが虎千代が正室で1番であること、2人の間に子が産まれた場合優先的に上杉家の跡継ぎにすること、武田信玄などにみられるような男色は決して認めないことなどの取り決めがある。
なので俺が頭を悩ますのは父信長に俺はどこまで正直に話したら良いのかなのだ。
俺は二男なので俺の子が上杉家を継ぐことには何も問題はないと思う。
史実で俺が養子入りした源氏の名家である北畠家の家督にも興味がない為、歴史通りに事が進んだとしても正室がいる俺は丁寧にお断りして他の兄弟に譲るつもりでもある。
もしそれが原因で父信長の怒りを買って追放されようとも、名古屋城と名古屋城下は惜しいが越後国に身を寄せるか、俺に着いてきてくれるであろう家臣団と全戦力を率いて島津家に征服されて属国になる前の琉球王国を平定して琉球王を名乗るのもありだと思っている。
熱田大神とは何処にいても繋がりは消えることは無いので本当に窮地に陥ったら是非に及ばずだ。
虎千代の素性は黙っていればすぐにはばれないであろうし、見た目は二十歳の女子なので誤魔化せる自信はある。
本当のことを言うべきか言わぬべきかと悩んだが、織田家と武田信玄との現状での関係がある為、地方に逃れた中流の公家の娘と恋に落ち内々に祝言を上げ子に恵まれたが1人子の妻の実家をその子が継がなくてはならないことを父信長に初めて伝えた。
父信長は、「我が子の中でも1番成長が早かったがまさか、いや熱田大神の加護を受けし茶筅丸ならばあるいは」と混乱しながらも茶筅丸が公家の娘と恋愛をして子を成したことを受け入れ喜んだ。
俺と公家の娘の名を借りた虎千代の祝言は、名古屋城にて織田家中の主だった者達を集めて行われた。
嫡男の奇妙丸の先を越す形になってしまったが、この歳で150センチを超える俺の身体かなせる技の為、許して欲しい。
虎千代は神威も覇気も抑えてしおらしい女子を演じているが、女同士で祝言前に話をしている帰蝶改め、濃姫義母上と虎千代の背後に蝮と龍が見えるのは気のせいであろうか。
普段どちらかと言うと高圧的で俺様の父信長の顔色もあまり良くない。
「茶筅丸よ、家臣達が儂達をそっくりな親子だと噂しているのは存じているか」
「いえ、存じておりませぬが顔のことでございましょうか」
「外見が似ておるのは親子ならばこそで言わずもがなじゃ。仕草や言動、政治的か考えまでもがそっくりだと言われているが、女子の好みまで似てしまうとは是非におよばず」
父信長は心底残念な者を見るように俺を眺めながら溜め息をつく。
「表向きは笑顔で話をしている濃姫とお主の嫁だが、背景に毒蛇と龍がみえよう」
「ち、父上…私だけでなく父上にも同じ恐ろしき何かが見えていたのでございますね」
「で、ある。世の中腹の黒い女子ほど恐ろしきものはあるまい」
「父上のおっしゃるとおりかと」
「しかしよりによって何故あのように強そうな者を妻に選んだのじゃ。外見は美しいが内面は権六より強く恐ろしいものを感じるぞ」
俺は父信長の鋭い指摘に絶句する。
何故なら父信長の申す通り史実では権六こと柴田勝家は手取川の戦いにおいて羽柴秀吉の裏切り行為があったにせよ上杉謙信にこてんぱてんにのされているからである。
なので権六は何かを感じ取ったのか父信長以上に終始顔色が悪い。
全てを知っているのか虎千代は終始上機嫌であり、祝言が無事終わった後に父信長の肩を組み絡んでいる。
「虎千代、そんなに飲み過ぎではお腹の子に悪いのではないか」
「案ずるな婿殿。今日だけじゃ。しかし其方の父親は本当に其方に瓜二つじゃな。からかいがいがある」
「是非に及ばすです」
こうして無事祝言が終わるのであった。




