旅芸人一座
いつも誤字脱字報告ありがとうございます。
日の本某所
「故あって我はしばし城を空ける。皆の者しばしの間頼んだぞ」
「「「「「ハハーッ。お任せあれ」」」」」
小規模であるが実力があると思われる旅芸人の一座は海路から若狭へ入り琵琶湖を渡り近江国浅井領へと差し掛かる。
道中小谷城下で目につき城から呼び出された際に披露した旅芸人一座の女子達の舞はその地を治める浅井家の者達の心を虜にした。
実際には今で言う女形と呼ばれる男性が混ざっており、遠巻きに警護する者達以外は女子は1人しかいなかったのだが。
女達の中心に立つ美人女旅芸人は、美しい音色で琵琶を弾きながら周囲に目をやる。
だらしなく鼻の下を伸ばす浅井久政は明らかな愚将であり噂通りだと苦笑するが、美男子と有名な浅井長政には心底がっかりした。
心の中で「何が美男子じゃ」と悪態をつきながら武人としての雰囲気と誠実さは見受けられるが丸い大福餅みたいな白く丸顔の浅井長政に失望する。
人の噂は信用してはいけないと言うのは本当だったと目の当たりにして思う。
やはり自身の目で確かめなければと思いつつもし我が愛しの婿殿が浅井長政のような顔であったらどうしようかと頭が痛くなる。
自身は神仏に身を捧げており神の化身とも呼ばれ崇められる存在なので生涯不犯純血を貫く覚悟であったが、恋文と贈り物をしてくる謎多き者を愛おしく思っていた。
そして秘密である自身が女子であることを何故か知っている。
家臣団でも上位の信頼できる数人の者でしか知らぬ事実を知っている時点で謎多き者は神仏に関係する何かを感じるのだ。
贈り物や文の主は、尊敬しつつ人間として大好きだという思いを伝えていたのだが美人女旅芸人はそれを自身の心の中でどんどんと育てあげてそれを恋、愛、婚姻、祝言に発展させていた。
誰よりも美人であり気高い女旅芸人は相手を見下し過ぎて踏ん反り返ってしまう程高貴であったが、実際は幼少の頃より内部の敵との戦いに明け暮れ、その後は因縁の宿敵と戦う日々であった。
目の保養として見た目の綺麗な男子は家臣として側に置くが色恋は諦めていたので恋愛に全く免疫がないのである。
「ハァ◯◯はやく会いたいのじゃ」と常日頃思っていたが宿敵との因縁にやっと終止符がついた頃にやっと配下の者達が◯◯の正体を突き止めたのである。
そして愛してやまないその者も神の化身と呼ばれて称えられている言うと言うではないか。
美人女旅芸人は歓喜して小躍りしながら「神仏と神仏が関係を持つなら誰も文句は言えんはずじゃ。年齢などは愛の前に関係ない。待っておれよ婿殿。妾が今向かうぞ」と普段は我の一人称を、地であった妾に戻してしまうほど興奮して目を輝かせたのであった。
そして行動に移して今に至るのだが、愛しいと思う者以外には通常の美人女旅芸人通りの性格の為、人を見る目は厳しいのである。
小谷城に置いて美人女旅芸人は顔は満面の笑みで皆を魅了したが、身内は美人女旅芸人が顔は笑っていても目が笑ってないことに気がついており震え上がったのであった。
愚かなことに、浅井久政にその晩寝所に誘われたので美人女旅芸人は部下である美形の女形に身代わりを任せた。
浅井久政を部下の美形女形がどうあしらったかの報告は耳汚しになる可能性があるので丁寧に断ったのは言うまでもない。
一座の偽装の為に唯一連れてきた幼い子供の与六はそのやりとりを聞き放心していたのは良い人生経験だったのではないだろうか。
その後、旅芸人一座は美濃国を抜けて尾張国を目指すか、伊勢国を抜けて海路で尾張国を目指すかを悩んだが、多少の混乱があるかもしれないが、安全な美濃国を通り尾張国を目指す道のりを選択した。
岐阜城織田信長目線
自他が認める天才であり、稲葉山城を手に入れたことにより美濃国の中心を抑えその後、残りの敵対勢力の討伐も完了してその名を全国に轟かせることに成功した儂であるが実は得手、不得手はある。
大大名や寺社仏閣勢力と戦うことすらも辞さない我等であるが、できることならば貢ぎ物や人質を送ってでも戦いたくないのが甲斐国の武田信玄と越後国の関東管領軍神上杉輝虎だ。
川中島の戦いは全国の大名が知る戦いであり後世の学者は両家が得た利益を比べて武田信玄の方が優勢だったと言う者もいるが、戦い自体においては圧倒的に軍神上杉輝虎と上杉軍が無双した為、戦国時代最強大名は関東管領軍神上杉輝虎だと誰もが知ることになったのである。
武田信玄は戦いたくない嫌な相手であるが、上杉輝虎ははそれ以上に恐ろしき存在であり人外の存在だと儂も認めている。
ただ愚かにも上杉輝虎は不犯を貫いており、後継を決めていないとの噂を聞いたため、儂は人質の意味もこめるが我が子を養子に貰ってくださいませんかと文と貢ぎ物を送ったことがある。
武田信玄に関しては屈辱的ではあるが今は織田家が下の立場での同盟を結んでいる。
しかし儂は武田家が将来的に敵になることを流石にわかっていた。
しかし上杉輝虎は義の人であり、誠意を尽くせばあちらから裏切ることは決してない。
儂は茶筅丸以外の子なら誰を差し出しても良いので何とか上杉家と縁を結びたいと心底願うのであった。




