永禄9年
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永禄9年岐阜城
新年となり俺は去年の成果を持ち岐阜城へ登城していたが少し複雑な気分であった。
今回俺が持参したものは竹中半兵衛に研究させていた小麦とパン酵母によって作成した令和の世のような柔らかいフランスパンと、並行して研究させていたビール大麦、天王寺屋を通じて輸入して量産することに成功したホップを利用して完成させたビールである。
俺はビールは日本人にとってなくてはならない飲み物であると認識しているが、まだ身体の成長が追いつかない為、目の前にあるにも関わらずビールが飲めないのである。
俺は血の涙を流しながらビールの樽を岐阜城に持ち込んだのであった。
新年の祝いの挨拶の際に権六と慶次郎がビールの樽を担ぐ姿に皆が舌をまく。
「父上、新年明けましておめでとうございまする。此度父上に献上したく二つの品を用意致しました」
「で、あるか」
「南蛮で主に飲まれているビールという酒と、南蛮において米の代わりに食べられているパンを更に美味くした品にございます」
俺は雪に埋めてきんきんに冷やした銅で作ったジョッキにビールを注ぎ、この時代はまだパン酵母が普及していない為、世界一柔らかく美味いパンを皆に振る舞う。
パンには牛の乳で作ったチーズと季節の野菜、猪の肉で作ったベーコンを挟み自家製マヨネーズをたっぷりと塗って仕上げてある。
「美味い、美味すぎる」
フランスパンのサンドイッチを食べた父信長はその美味さに悶絶し、ビールの炭酸にかなり衝撃を受けているようであった。
フランスパンのサンドイッチのあまりの美味さに感動した権六が俺に頬擦りをしてくるが髭がちくちく痛いので勘弁して欲しい。
この時代炭酸飲料などないので驚くのは無理もないが、父信長が「この飲み物は熱田の黄金酒と名付ける」と宣言した際には俺も驚いた。
俺は最上級の品質の物のみ熱田の黄金酒として他の物は尾張名古屋産ビールと命名した。
酒造りは皆が喜んでくれる為、やりがいがあり次はワインやミードなど長期保存が可能な酒に手をだしてみたいと思う。
葡萄の木はヨーロッパから宣教師や南蛮船がどんどん持ち出しているので天王寺屋に頼めば手に入るはずであり、甲斐国には甲州が自生していたはずである。
伊賀者に頼んで回収してきても良いが、三ツ者やこの時期どこにいたか定かではない加藤段蔵あたりと出会うと厄介な為、正攻法で買い付けた方が良さそうである。
服部半蔵いわく、所在不明の加藤段蔵と箱根の風魔小太郎は忍の中でも別格であり相手にするには骨が折れると言う。
加藤段蔵こと鳶加藤は幻術使いと呼ばれている為、けしや毒などを使う可能性が高くできれば敵としても味方としても関わりたくない曲者である。
ミード用の蜂蜜はお馴染みの巣箱を作り楽しく養蜂だ。
名古屋城外は服部半蔵配下の伊賀者達に養蜂を任せ、名古屋城内は蜂蜜大好き熊のゲフンゲフン滝川葵にやらせよう。
葵に養蜂を任せることを話すと目を輝かせて何故か巣箱を屋根裏に持ち込もうとしたので俺は直感的に嫌な予感がしたのでそれは全力で阻止した。
蜂蜜は蜜を採取する花により味が変わるので色々試したいが、すみれなどの安定して味が良いのも良いが、植物自体が強く様々な用途に使える菜の花と菊の花を増やしてみたいと考える。
菜の花は道端や川辺などなど何処にでもしぶとく根付き、花や茎は食用の野菜として活用でき抗酸化作用や免疫力の向上、抗癌作用があるだけでなく、胃腸を刺激して食欲増進作用や解毒作用や殺菌作用もある。
しかし俺は更にその先の菜種油を食用に多く確保したいと考える。
椿油や動物性油脂、魚油や鯨油など様々な種類、方面の油を収集しているが最終目標は黒水である。
油は油座など今すぐ相手にするのが面倒臭い勢力がある為、あくまで楽市楽座の織田家領内のみで流通させる。
何か文句を言ってきた場合には武藤喜兵衛と竹中半兵衛の笑顔が黒い両名に丁寧におもてなしをさせてもらうだけである。
佐吉などはやはり文官タイプで算術などは他の者より優れているが、腹芸は出来そうにないようだ。
菊に関しては、食用菊を中心に育てるつもりであり菊自体もよもぎなどと同じように繁殖力が強いので比較的に育てやすい。
菊自体にも菜の花と似たような効能やさらには紫菊花によるが抗糖化作用があり父信長などがかかっていたとされる成人病の予防改善に繋げられる。
菊が食されるようになったのは江戸時代以降の為、まずは古代中国から飲まれているような菊茶、漢方などへの加工からお浸しなど実用的な食べ方、花本体の美しさを生かす天ぷらやお吸い物などに使用して祝いの席や茶会などに利用しても良いかもしれない。
食用菊に関しては名古屋城に新年の挨拶に来ているだろう天王寺屋に天ぷらやお吸い物で振る舞えば喜んで上方で広めてくれるであろう。
俺は全体の挨拶の後に通された帰蝶姫達女子衆にビールとサンドイッチを振る舞い歓喜された後、帰蝶姫に「奇妙丸の弟である其方も我が子ぞ」と抱きしめられた。
母吉乃は活発なタイプの美人であるが帰蝶姫は内なる強さを感じる凛とした美人である。
俺は今後養蜂を始めたいと考えていること、その為に菜の花や食用菊を増やしていこうと考えていること、それらが薬にもなり若さを保ち美容に良いことを説明すると父信長を思わせる程の強い圧を受ける。
「妾は其方のもう1人の母である。違うか」
「はい、勿論でございます」
俺は壊れた人形のようにこくこく頷く。
「なら妾の言いたいことは皆まで言わずとも聡い其方ならわかろう」
「かしこまりました。母上様の為でしたら定期的にそれらを岐阜城へ届けさせまする」
「オホホホホ、わかれば良いのです」
こうして定期的に蜂蜜や食用菊などを岐阜城へ献上することになった俺は女子の甘味と若さと美容に対する執念は恐ろしいと震えあがるのであった。




