天王寺屋
いつも誤字脱字修正ありがとうございます。千利休は有名すぎるので万人にわかりやすくあえて千利休表記にしています。
俺は今回の捕鯨において大量に手に入れた鯨肉の干し肉、ベーコン、塩漬け肉などの3割ほどを岐阜城へ送り、残りはベーコンに関しては美食としての需要も高かった為、販売することにした。
干し肉はくず肉や需要の少ない部位の内臓なども含まれるが、領民達が安い値段でタンパク質が接種できるよう安い値で売り捌いた。
塩漬け肉は武田家など領地に海を持たぬ内地の国への輸出品である。
内地では塩も貴重品となる為、このような塩辛い塩漬け肉の需要も高いのである。
武田家は甲斐国が稲作にあまり向かない為、食料を求めて信濃国へ進出したくらいなのだ。
ただ甲斐国にはかの有名な甲州金があり、家臣への褒美にも金一掴みなどの表現をする程に金の使用が多い。
なので金を回収するために伊賀者を商人に変装させて食料品を売り、金での支払いに関して優遇しおまけの品をつけたりしている。
武田信玄も自らが組織した三ツ者を配下に持つので背後にいる織田家に気がついているだろうが、俺は商売のみ行い周囲をさぐるなどはさせていないので武田家としても利益重視で黙認しているものと思われる。
そして俺は鯨肉の一部を一定量仲達の名前で帝へ献上した。
俺が熱田大神の加護を受けているからか、令和の世で心優しき天皇陛下の献身をみているからか放っておくことができないのである。
正親町天皇が心優しきお方であることは理解しているのと、熱田大神の名を使う俺としては何故見捨てることができようか。
鯨肉の他にもリバーシ(オセロ)で稼いだ金を使い主食を差し入れた。
その際帝には漆塗りで碁石と同じ原料でつくらせたリバーシを献上し、朝廷内の公家衆には榧木で作った実用性のあるものを無償で提供した。
貧乏な下位の公家達には普通売りしている木瓜紋印のリバーシを無償で配ることを約束する。
何故そのようなことを行うかと言えば金はないがお喋りで流行ごとを広める術に長けている公家衆を広告塔に使うことにより、リバーシに箔がつくと考えたからである。
帝や朝廷、公家衆がリバーシを嗜むとなれば大名や裕福な商人寺社等に高級品が売れ、普通の物は武士や町人に広まるであろう。
リバーシの製造、販売は堺の商人である天王寺屋宗及に独占させる代わりに、俺に売上の半分を払い、珍しい品が手に入った際には優先して提供する契約を結んでいる。
このような商品は模倣品がでたりするなど扱いが面倒な部分がある為、商人の中でも特に力がある者に放り投げてしまえば必死に利益を死守するだろうとの考えと、あまり自身ばかり儲けても妬みの対象になる。
俺は他の商人や面倒な輩からの隠れ蓑としても利用価値がありそうな面の皮がぶ厚い天王寺屋宗及はうってつけの取り引き相手だと思い今回抜擢したのだ。
天王寺屋のような商人は俺が稼がせてやっているうちは決して裏切らないだろう。
今井宗久や千利休はまずは父信長と関係を深めてもらう必要がある為、今は三好家や本願寺と関わり合いが強いが最終的に父信長に急接近する天王寺家に目を付けたのである。
俺はある目的があり、もてなすので名古屋城まで店の中である程度決定権がある者をよこしてほしいとの文を滝川一益を通じて堺へと送った。
会合衆の集まりの中で、熱田大神の加護を受けし織田家の神童が自分達を名古屋城に招きたいと言っていることが伝えられ話し合われた。
天王寺屋宗及はリバーシの出所を秘匿していた為、大抵の者が田舎大名の小倅が何を馬鹿なことを言うんだと話を聞くまでもなく退席した。
後にこの場で退席した者達は死ぬほど後悔することになるのだが今はそれを知らない。
そもそも頭のいい者が考えればたかだが田舎大名の小倅の話で会合衆が集められる訳がないのである。
「愚かでんな」
人に見られないように顔を隠して天王寺屋宗及は顔を歪める。
好敵手は少ないにこしたことはなく、今回馬鹿どもが自ら好機を手放してくれたのだから笑いしかない。
しかし天王寺屋として予想外だったのが今井宗久や千利休などがその場に残り、千利休本人が名古屋城行きを了承したことである。
当主である織田信長が主催する招きでない為、今井宗久は店の者を視察にやるにとどめたので天王寺屋と後に差がついてしまうのだが。
そして自ら名古屋城に足を運んだ天王寺屋と千利休達一行は驚愕することとなる。
名古屋城の規模は素人でもただならぬものであるとわかるし、名古屋港の整備は堺を凌ぐほどであり、名古屋城下は田舎どころか何処の都にも負けないほどの区画と賑わいだったからである。
天王寺屋宗及は取り引きの件もあるが自身の直感を信じてわざわざ尾張国まで来たかいがあったと右手を突き上げる。
あの千利休やその他の者達は驚きのあまり百面相をしているので可笑しくてしかたない。
名古屋城は水堀と石垣に囲まれているが、あえて完成させていないという印象を受ける城であったが規格外であるのは儂でもわかる。
あの天下人三好長慶様の城がくすんで見える程だったのだから。
織田茶筅丸様に謁見した儂らは、本題として名古屋城下に店を出さないかと言う話をされたので1番に了承した。
茶筅丸様は喜び儂に計画していた中で1番良い立地の場所を与えてくれた為、儂は内心歓喜して小躍りする。
決定権のない者達を今回の使節団に同行させた商家は名古屋城下に良い条件で店を出す機会を失った。
そして名古屋城でのもてなしの際に出された鯨の竜田揚げがあまりに美味すぎて儂は今までいったい何を食べて贅沢だと思っていたのだろうと美食への考えが変わり涙したのであった。




