龍涎香
いつも誤字脱字ありがとうございます。
今回大小を合わせて十数頭の抹香鯨を捕獲することに成功した。
本来であれば熟練した漁師や村上水軍などでも一頭仕留めるのが精一杯であるのだが、尾張村上水軍は俺の指揮、知識、海図、練度等の要素や、とどめを一撃で刺す権六や慶次郎の凄まじさもありこの成果である。
柴田勝家と前田慶次郎が実際に抹香鯨に使用した新たな武具は、火縄銃などの飛び道具を中心に開発する中で俺が指揮官用に色々試しに作らせた様々な武器の中の一つで、権六はハルバード、慶次郎は方天戟である。
ハルバードは中世ヨーロッパの主力武器であり槍と斧が一緒になったような武器であり、方天戟は中国最強呂布奉先の主要武器である。
誰よりも声がでかく馬鹿力な両名が使用すれば、それだけで外部への圧力とする恐ろしさ兵器の誕生である。
さて抹香鯨の鯨油として骨や皮からとれる油はナガス油として食用のマーガリン以下その他様々な用途があり、脳油は高級機械油として使用できる為、蒸気機関開発の進展に大いに役立つこととなる。
抹香鯨は全体において捨てる場所がないと呼ばれるくらい優秀な資源である。
長期保存用として肉は干し肉やベーコンへの加工を教授して行わせる。
脳下垂体、甲状腺、膵臓などはホルモン系薬剤に使われる為に確保し、肝油は勿論確保する。
テニスのラケットのガッドなどに使用される筋は漁業の網の材質として検討させる。
皮や骨までも活用できる部位である為、関係各所に分配した。
例としてあげるならば鯨の骨は銛やヤスなどにも使用できる強度がある。
しかし1番の成果は抹香鯨の腸内より回収した龍涎香である。
これは令和でいうCHANELの香水などにも使われる唯一無二の原料でありダイヤモンドよりも価値のある一品である。
南蛮や明などとの交渉においても影響をあたえるほどのものであり、俺は笑いしかない。
鯨肉はそのまま食べるとあまり美味しくない為、俺は生姜と実は早い段階で伝わっていたにもかかわらずあまり食べられていなかったにんにくを使い味をつけ、鯨のラードを使用して鯨肉の竜田揚げを作った。
そして何故か隣に座る父信長に頭を撫でられている今現在である。
「ワッハッハッハ!鯨の群れが出たと報告を受けて急ぎ駆けつけたが、上手くいって何よりだ。茶筅丸よ。わかっていると思うが鯨の干し肉は3割ほどは岐阜に回せ」
「ハハッ、父上の申す通りに致します」
そして父信長とその側近たちは鯨肉の竜田揚げの美味さに箸が止まらない。
「茶筅丸よこれはなんだ。美味すぎて箸がとまらぬ」
「ハッ父上。熱田大神が夢の中でこのような調理法を授けてくださったのです。私もこのように美味い食べ物は初めてでございます」
「で、あるか」
「で、あります」
この時代本格的な揚げ物や天ぷらなどすらない為、鯨肉の竜田揚げに衝撃を受けるのはしかたないと思う。
そしていつの時代もどこの国においても揚げ物に勝る美味があろうか。
今回味付けは塩味の他に醤油代わりに味噌の黒ずみ液を使用している。
「茶筅丸よ、この竜田揚げとやらは味付けが違うようだがこれが1番美味い。何をしたらこのような天にも登るような美味いものができる。権六などは既に昇天しておるぞ」
「はい父上、これは醤油なる万能調味料の代替え品でありまして、味噌の黒ずみ液を使用しております。正式に醤油を作ればさらに美味いものができまする」
俺の言葉に父信長は凄い勢いで立ち上がりカッと目を見開く。
「なんだと、これ以上に美味い物が食せるだと!茶筅丸よこれは命令である。その醤油とやらを量産せよ。人手や土地がいるならば貸してやる」
「ハハッ。父上の御心のままに。でしたら真面目で誠実さがあり口が固い者を貸して頂きたいのと、大豆が多量に必要となりますので手配願えますか」
「で、あるか。あいわかった。勝三郎とその手の者を醤油製造の責任者として貸してやろう。その代わり醤油の権利と収益に関しては儂と貴様の折半である。良いな」
相変わらず強引な父信長であるが、勝三郎殿なら真面目で口も固く決して父信長を裏切らないだろうから適任かもしれない。
何故ならば勝三郎殿は父信長の乳飲み兄弟であるのだから。
同じ釜の飯ではないが、同じ乳を飲み育った乳兄弟の信頼度は計り知れない。
「ありがたき幸せです父上」
「お館様の命令しかと承知致しました。この池田勝三郎ご期待にお応えできるよう誠心誠意務めさせて頂きます」
今回父信長と一緒にやってきた側近達の中に池田勝三郎も同行していたのである。
話し合いの結果、廃城となった小牧山城跡地を醤油の生産拠点とすることに決まった。
俺は今回複数の龍涎香を獲得したが、その内の一つを醤油開発量産の為に土地と人と銭を出してくれた父信長に差し出した。
すると俺と同じく龍涎香の価値を正しく理解し、国内外の政治的取引に使えることを知っている父信長は歓喜して口元を上げる。
「茶筅丸よ大義である。孝行息子を持ち儂は嬉しく思う。何か望みはあるか?」
「でしたら数日母上と五徳の相手をしていただけませんか?父上と長く過ごせると母が喜びます」
「ワッハッハッハ。小癪な奴め。あいわかった。暫く吉乃達と過ごすといたそう」
こうして俺達家族は名古屋城で穏やかなひとときを過ごすのであった。




