番肴
いつも誤字脱字修正ありがとうございます。
俺はさらなる領内の発展の為に番肴を取り入れることにした。
番肴とは後北条氏が行った租税の一つで御料所の漁村割に賦課したものである。
納めるのは現物の魚介類であり綱元などの有力な漁師が輪番制で責任を持って名古屋城の台所奉行の下に納付させる。
しかしどうせやるなら漁獲量を増やそうと俺は家臣達を集めて評定を開いた。
まずは刺し網漁や巻き網漁、底定置網漁、投網漁、トロール漁などの漁法とそれに適した網の編み方の説明をした。
またこの時代の網には、まだナイロンやポリエステルなどの素材がなく天然素材を利用して使用していることもあり網の耐久性的に底引網漁は厳しいので鉄も織り交ぜて作った箱を引く箱引き漁をおこなう。
蛸壺を沢山沈める蛸壺漁や竹筒を沈める仕掛け漁も試してみよう。
各漁法とも優秀だが、本格的にそれらが活かされるのは密かに研究をしている蒸気機関が完成してからであろう。
昆布やわかめ、海苔、あかもく等の海藻類も海苔など養殖出来るものは養殖したい。
海藻は栄養があるだけでなく、乾物にすることで食料として長期保存が可能なので兵糧や冬の備えにも最適である。
最近は名古屋城築城人足も十分な人数が確保できている為、村上水軍も漁師仕事を訓練がてら手伝ってもらいたいと話すと村上通康は「任せろ」と胸をたたく。
そんな俺と通康が爽やかに会話をしている中、武藤喜兵衛と竹中半兵衛が「「この投網は戦で使えますな」」などと意気投合して悪い顔で嬉々としていろいろ企んでいるのだ。
これには強面の柴田勝家も顔を青くしてドン引きしている。
「茶筅丸様、儂はあの者達が敵ではなくて本当に良かったと思いますぞ」
「権六の申すとおりだ」
滝川一益はその中間の立ち位置のようで喜兵衛達の話や俺達の話にうんうんと相打ちをうっている。
確かに投網を使えば人を捕えたり、相手の動きを封じるのに有効かも知れない。
さらに話が脱線して今度は水中での戦闘に手に装着する鉤爪などよいのではないかなどと話しているのに服部半蔵が反応して会話に加わったところで俺は皆に声をかける。
「半兵衛、漁師たちに今後魚などの規格の統一をさせて小魚などは逃がし海産資源の保護に務めさせてくれ」
「わかりました」
「通康、元より魚介類に詳しいとは思うが、実は食べられないと思っていたら食べられる物、その逆の物、毒があり危険な物などをまとめた書を渡すので部下や漁師たちに広めてくれ」
「おう、かしこまった」
「慶次郎と半蔵は魚肥料の作成と普及を頼むぞ」
「「かしこまった」」
普段捨ててしまうあらなどや骨などを1箇所に集めて煮出した後に圧縮して油分と水分を抜いた物を乾かし粉砕すると魚肥料が出来るのだ。
それを田畑にまくだけで痩せた土地の改善と収穫量の増加に繋がる。
また臭いが気にはなるが魚油もその過程で出来るのでこれらの作業を漁師の妻などに仕事として任せそれを織田家で一括して買い上げれば彼等の貴重な現金(銭)収入を得る手段となる。
俺は名古屋城下において勿論父信長同様に楽市楽座を実施しているとともに、銭の普及にも力をいれているのである。
今日の評定はこれまでとして昼食の準備が整ったとの報告があったので昼食にする。
戦国の世の食事は朝・夕の二食が基本的であるが名古屋城においては俺の強い希望で朝・夕の他に昼食も食べるようにしているのである。
せっかくなので俺が大声で皆を食事に誘うと滝川葵がすっと現れる。
流石に食い意地がはっているだけあるなと感心してると「若様、沖に鯨の群れが見えます」と告げた。
「それはまことであるか」
「あみ丸に乗って近くまで寄り確認しました」
因みにあみ丸とは葵が操る陸・海・空の使役獣の一つである雌イルカである。
葵は普段から使役獣達を大切な友達だと言って話しかけているが、服部半蔵からは「察してやって下さい。忍びは孤独なればあのように友のおらぬ極限状態ゆえに稀にあのようになってしまう者達がいるのです」と可哀想な者を見る目で半蔵に説明されたのは記憶に新しい。
「で、あるか。ならばやることはひとつだ。皆の者わかっているな」
「「「「「おう!!!」」」」」
「通康船を出せるか」
「まかせろ」
「権六、慶次郎あれを試してみるがよい。防錆加工は施してあるので問題ないはずである」
「「かしこまった」」
こうして船に乗り込み海上でも適応出来る者達中心で沖に向かった俺達であったが群れに近づいていくうちに俺は満面の笑みを浮かべた。
何故ならば、鯨の種類は多数あるのだがその中でも目の前の鯨は俺が1番好む抹香鯨なのだから。
村上通康は村上水軍を手足のように操り抹香鯨の群れの三分の一を浅瀬に追い込む。
浅瀬に追い込むのは深い理由があり、沖で鯨を仕留めてしまうと浮力を失い重さで沈んでしまい陸まで牽引できないのである。
浅瀬に追い込んだ後は、可哀想だと思うかもしれないがこのようなことを想定して制作しておいた縄付き鉄製のフックを突き刺して大勢で縄を引っ張る。
「そろそろいいだろう。せめてもの慈悲だ。一撃で楽にしてやれ権六、慶次郎」
「フンゴー、フンゴー」
「オラァァァァァァ」
何故かふんどし一丁の権六と慶次郎がそれぞれの得物(新たな武器)で抹香鯨に一撃必殺で留めを刺していく。
その姿を眺めていた俺の配下や領民は権六と慶次郎に拍手喝采を送り、他国の間者はただただ青ざめるのであった。
捕鯨は不快に思う方もいるかもしれませんが、歴史背景もあるので現代的な思想的何かはありません。
豚もおだてりゃ木にのぼるでつい次話を頑張るかとなってます(苦笑)




