権六
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柴田勝家視点
産まれた時から織田家に忠誠を誓い仕えてきた儂であるが儂は一度道を間違えた。
うつけと偽り世間を騙しながら機会を窺っていた天才織田三郎信長様と、凡庸でどこにでもいる人に教えられたことが人並みにできる織田信行様の2人の家督争いの中であろうことか判断を間違えた。
儂は信行様付き家老という自らがおかれた状況も不運だが信行様の味方をして大敗したのは言い訳ができぬ。
儂はもう全て終わりだと諦めたが、信長様の母君である土田御前様が放免を涙ながらに懇願して下さったお陰でなんとかぎりぎりのところで儂と信行様は許された。
その後は儂は心を入れ替え信長様を第一に考え忠節を尽くした。
たとえそれがかつての主君と決別することとなろうとも信長様への忠義はもはや揺るぎないのだから仕方ないと思うしかない出来事もあった。
その後は罪の報いもあり暫くは重要な戦いに参軍することは叶わず手柄をあげることは出来なかったなど辛い時期もあったが儂は腐らずに武芸を極めるべく精進した。
そのかいもあり儂は信長様からの失われた信頼を徐々に回復することに成功した。
儂は林秀貞殿(佐渡守)や村井貞勝殿のように政治的な部分で人より活躍することは出来ないし、佐久間信盛殿のように主君に感情的に涙で訴えたり誰よりも逃げ足が早いなどの立場がなければ許されぬ行動も取れない。
森可成殿に関しては儂としても文句のつけようもないし好敵手だと思っている。
信長様は此度実子である茶筅丸様の活躍もあり美濃国の大半を手に入れることが出来たと皆に話された。
その褒美として信長様は、茶筅丸様の尾張国における領土の加増を宣言された。
それにより熱田神宮の後見と熱田大神の加護を受ける茶筅丸様が尾張国の主要部を治めることとなり尾張国全土の象徴的存在になる為に尾張国の運営を任せてみたいと提案された。
信長様と重臣や諸将の評定の結果、茶筅丸様は熱田大神の加護や今までの実績等もあり大変優秀だがその家臣団は優秀ながらも新参者中心である為、与力という名の目付を譜代の重臣の中から選抜して付けることで皆の賛同を得た。
重臣達は林佐渡守殿を筆頭に我こそがと皆こぞって名乗りをあげたが儂と森可成殿だけは古参の家臣ながら自ら手を挙げることはしなかった。
主君である信長様は皆の様子を見ながら笑みを浮かべ、口角を上げながら「あいわかった。では茶筅丸本人に選ばせるとしよう。皆の者それで良いな」
「「「「「!!!ハハッ、仰せの通りに致します」」」」」
儂は心の中で文武両道と名高く熱田大神の加護を受けし茶筅丸様を信長様の次に心で慕っていたが、寄力(代官補佐)には優秀で信長様の覚えめでたく同僚として尊敬できる森可成殿になることを心から祈った。
何故ならば外見がいかつく毛深い自分は良い意味では関羽雲長であるが、悪い意味では熊や鬼なのだから。
高貴な子女達は尚更そのような自身の姿に怯え慄き嫌うことは一目瞭然であったのである。
だからこそ織田家と信長様、茶筅丸様に心より忠誠を誓う身なれども儂はせめて茶筅丸様のお目汚しにならぬようにその誰よりも大きな身体をしぼめて小さくなっていたのである。
しかし予期せぬ奇跡とは実際は起こらないはずなのに目の前で起きたのである。
あろうことか茶筅丸様が重臣の与力にこの柴田勝家を指名して下さったのである。
儂は思うままの誠心誠意の心を込めた言葉で返させてもらったが気持ちが上気したあまりその後の記憶があまりない。
その後今回の件で再び信長様に呼び出された際に信じられない話を聞かされた。
「権六茶筅丸を助けよ」
「ハハッ、この権六誠心誠意仕えさせていただきまする」
「で、あるか。権六よお主も知ってのとおり茶筅丸は熱田大神の加護により特別な存在である。だからこそ聞いてみたのだ」
「何をでござるか」
「うむ、父信秀の代からの家臣で茶筅丸は誰が優秀で信頼できると思うかと」
「そ、それはまたなんとも」
「そしたら彼奴はこう答えた。柴田勝家と森可成は生涯に渡り父上や織田家を裏切ることない忠臣であり、中でも柴田勝家殿は織田家最強の武将となり父上の手足となり尽くしますとな」
その話を聞いた儂は堪えているのに両目と鼻から水が溢れるのを止められない。
信長様に「茶筅丸様がこのこわもての外見を嫌っていませんでしたか」との質問を問いかけると驚きの答えが返ってきた。
「権六殿は確かに強面ですが実は心優しい。父上、本当に恐ろしいのは外見ではなく内面の醜い者でございます」と茶筅丸が申しておった。
儂はその言葉に感動と歓喜を覚え、今後たとえ相手が何であろうとも信長様と茶筅丸様の前に立ち塞がるものは薙ぎ払うと決心したのであった。




