永禄八年岐阜城
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永禄8年1月 稲葉山城
父信長は竹中半兵衛の策略により稲葉山城を手に入れると、すぐに本拠地を小牧山城より稲葉山城へ移し重臣達も移住させた為、実質小牧山城はすぐに廃城となり解体された。
俺は滝川一益を通じて城内、城下の解体の際の廃材や石材等の築城材料を現在築城途中の名古屋城に使用する為になるべく安くなるよう交渉してもらいそれらを買い取った。
稲葉山城より逃げ出した斎藤龍興は美濃国内にとどまらずに既に国外逃亡してしまったらしい。
その為、元々美濃国で低かった龍興の求心力はさらに下がり、美濃三人衆の安藤守就、稲葉良通に続き氏家直元までも稲葉山城に新年の挨拶に訪れて忠誠を誓った。
そもそも我が父織田信長の正室は斎藤帰蝶であり、その父である美濃の毒蝮斎藤道三により美濃国を正式に譲るという国譲りの書簡を受け取っていた為、美濃の国主は本来父信長に正当性があるのである。
父信長は永禄8年元日に新たなる本拠地とした井口と稲葉山城において、地域と城の名前を天下布武、天下統一の意味をこめて岐阜と岐阜城と改めた。
これは美濃国内外に美濃国の支配者が織田家に移ったことを示す事となり、織田家の本拠地が尾張国から美濃国へ移った瞬間でもあった。
父信長は永禄8年は平定した領地の安定化と、美濃国内の反抗勢力の平定、武田信玄の四男勝頼に遠山直廉と自身の妹の娘を養女にして嫁がせると宣言した。
後に遠山夫人と呼ばれる彼女は、清和源氏甲斐武田家の正式な次期当主である武田太郎信勝の母である。
俺は父信長の話を聞きながら遠山夫人は確か産後の経過が悪く死亡したのを思い出した為、熱田の歩き巫女と共に多羅尾家の医師を派遣して彼女の命を救うことを心に誓った。
令和の時代程の設備こそないが、俺の知識と熱田の歩き巫女の薬と看護能力、多羅尾一族の医師、そして尾張名古屋の技術力は産後の母体の生存率を80パーセント以上にあげるくらいの力は持っている。
そして通常ならこの時代では受け入れられないような革新的な医療も、熱田神宮と熱田大神の名の下に堂々と行使することができるのだから。
正月も数日が過ぎ俺も父信長や正室の帰蝶姫、兄奇妙丸にも挨拶を済ませたので名古屋城に帰ろうとすると父信長に呼び出された。
そしてそこには諸将が全て集まっていたので俺は驚愕して嫌な汗をかいた。
俺は今回の正月父信長が清酒は家臣に新年の振る舞いとして使うのを見通していたので、俺が父信長に献上したのは干し椎茸と薬草など薬類、諸将に挨拶代わりに配ったのも薬類であり岐阜城においておかしな行動はとっていない。
あえて変わったことと言えば、俺が熱田大神が赦されたとして肉食を進める名古屋城下において余った動物の油と木灰、水と共に香りの良いよもぎや柑橘類などを練り込んで開発した石鹸の試作品を各家の女子用にと配ったぐらいである。
脂や油、灰の種類や入れる水の種類で改良が可能であると考えており今後の商売や、医療的な用途に使えると考えた為、まずいつの時代も綺麗になりたい女子達の使用後の意見を聞きたかったのである。
例えばお風呂に入れない身分の者達であっても水浴びの際に使うだけでも清潔面や衛生面の改善に繋がるだけでなく明らかに綺麗になるのだから。
水酸化ナトリウムを使った石鹸も作ろうとすれば作れるかもしれないが、設備的な面や不都合も多いので今は手出しはしたくない。
なので安心安全な原始的な方法での石鹸の作成普及大作戦なのである。
だから俺は決して皆から何か後ろ指さされることはしていないはず。
俺は父信長や家臣団の注目を集めて顔を引き攣らせながら挨拶を行う。
「織田茶筅丸にございます。お館様のお呼びとあり参上致しました」
「うむ大儀、皆の者に紹介しよう。今までいろいろと手柄を立てた茶筅丸である。皆に紹介したいと思い名古屋へ帰る前に呼んだのだ」
俺はその言葉に、平然を保ちつつ酷い困惑を覚えた。
確か嫡男であり正室帰蝶姫の養子になった兄奇妙丸は家臣達にお披露目されていない。
それなのに理由があるとはいえ俺が先にお披露目されて家中に混乱を招かないかと。
それを見通したように父信長はニヤリと悪い笑みを浮かべながら皆に言う。
「皆の者、此奴は熱田大神の加護を受けておる。世間の常識に当てはめるな。特別であるのだ」
「それに誰に似たのか多少整った顔をしてるものだからか、今回の石鹸なる物のせいでより女子達が放っておかぬときいておる。ハァ全く誰に似たのか困ったものだ」
皆が皆「「「「「お館様しかいないだろ」」」」」思って顔を引き攣らせたのであるが。
俺は女子の話が出てきたので早くも嫁の話でも出るのかと警戒したが違った。
「まあよい。此度は気になることがあり貴様を此処に呼んだ。我が織田家への貢献度は認める。しかしそれ故に問題も起きてるのだ。注目を集める茶筅丸の家臣は傅役の滝川一益を含めて新参な者しかいない。父の代からの旧来の織田家家臣団からは不満も出ているときいている」
「で、ありますか」
「で、ある。だからこそその問題を解決する為に古参の重臣を一名選べ」
「と申しますと」
「1名暫く貸してやる。その者と地盤を固めろ」
俺は一瞬戸惑ったが、能力主義の俺は古参の重臣達に妬まれているらしい。
それを解消する為に後ろ盾的な意味で重臣を一人暫く貸すからその問題解消に努めろということだろう。
俺が上座に近い織田家の重臣達が座る場所を見渡すと、彼等も皆緊張しているようでごくりと唾を飲む音が聞こえる。
「ありがたき幸せ。でしたら柴田様でお願い致します」
俺がそう答えると父信長はニヤリと笑ったのであった。
「良かったな権六、そう言うことだ。茶筅丸をよろしく頼むぞ」
「ハハッ。お館様、茶筅丸様この柴田勝家全身全霊を持って仕えさせて貰いますぞ」
こうして織田家最強と呼ばれる譜代重臣瓶割り柴田、鬼柴田などと呼ばれる柴田勝家が俺の与力となったのであった。