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ホラーより面白いもの

「真央、ウチ来ない?」


放たれたのは、本人にとっては何気ないであろう言葉。


「………………」


しかしその言葉はオレの耳から騒音を消し、頭を真っ白にさせるほどの威力を放った。





「おーい、真央」

「はっ! ごめん、完全に予想外でフリーズしてた」


そう、初めてのお家へのお誘いなのだ。


「いく!いく! 初めて!」

「ああ、嬉しい。俺も初めてだ」


俊介はオレの言う事を汲み取ることに長けてきた。

楽だ。


「ありがと」

「? 何に?」


俊介が話が飛んだと首を傾げる。

流石に通じなかった。


「んーん」



俊介は人気者だろうに、オレと同じで初めて友達と家で遊ぶのか。

意外すぎる。


「初めて同士だね?」

「言い方!」

「え?」

「まあそうするつもりだけど……」

「ん? もっかい言って」

「言わねぇ」


俊介は少し抑えた掠れた声で言うと、照れたように頬を染める。


あ、なんか可愛い。

3次元で初めて萌えた。



いつもはかっこいい俊介が照れて恥ずかしがる姿は萌えと言う名前の癖に突き刺さる。


「なんで親指立ててんだ?」

「ん、…………。………………なんとなく?」

「ふはっ、なんだそれ」


オレの脳内で乱舞するいいねが外にも漏れてしまった。


完全に無意識だったためすっと手を下ろす。


「いや、もっと立てていてくれ」

「いや、それこそなんで?」

「なんとなく?」

「オレと同じ言い訳じゃん!」


俊介は笑ったくせに、と納得がいかないオレは机をばしばし叩く。



そして手短なところにあった俊介の手もついでに一発だけ叩く。


「ん?」


何故か俊介の手のひらが上を向いた。

オレは怒っていることも忘れて俊介の様子をうかがう。


するとそこにはオレに何かを期待するような目をした俊介が。


オレはもう一度俊介の手を見る。


叩けってこと?


恐る恐る、パチンと俊介の手を叩く。

少しだけ、俊介の口角が緩んだ気がした。



あってるのかよ。



俊介が不良なのは殴られるためなのだろうか。


「マゾ?」

「はぁ!? なんでそうなるんだよ」


俊介は本気で嫌がる素振りを見せ、なんだオレの勘違いかと納得する。

これからは偶にMの文字が脳内を踊るようになることを今のオレは知らない。


「違うんだ」

「違う。つーかどっからマゾが出てきたんだ」


俊介は眉を寄せている。


あのタイミングでニヤけるように笑えば誰でもそう思う。

笑いの種類が声を出して笑うのではなかったからなおさらに。


しかしオレは言うと面倒くさいことになりそうだと思い黙殺した。









オレと俊介の家は結構近く、歩いて五分ほどしか離れていないという事実に驚いた。

俊介の家は高層マンションで、オレの家は極平凡な一軒家だというちがはあるが。


まあ出会った場所がオレの近所の公園だったことを考えればあり得ない話ではなかった。

寧ろその可能性が高いだろ、なんで気づかなかったんだオレ。

いや、何も考えていなかっただけなんだけども。




「何もなくて悪いな」


俊介の言う通り、必要最低限の家具しか置いておらずとても殺風景だ。

家具が高そうだとは思うが、レイアウトしたというより生活できるように置いているだけ感がひしひしと伝わってくる。


「うん。本当に何もないね」

「正直すぎんだろ」


庇いようがないんだもん。



ソファはこの広い部屋に似合わない一人掛けで、オレはどこに腰を落ち着けるべきなのだろうと思案する。


「真央」


オレは俊介に手を引かれてソファの元へ行く。

しかしこのソファは一人掛けだ。

困惑するオレをよそに、俊介はまだオレの手を引く。


そしてオレはあっという間に俊介の脚の間に座らされた。



………………ん?



あっという間の出来事でついていけない。

それに、なんだかこの座り方は違うと思う。

そんな気持ちを込めて俊介を仰ぎ見る。


「一席分しかないから仕方ないだろ」

「たしかに」


オレも一席分しかなくてどうしようかと考えていたし、ちょうどいいのか。





何すればいいんだ!?


オレは初めてのお家訪問だから何をすることが普通なのか知らない。



うん、無難に喋っとこ。


「一人暮らし?」

「ああ、俺は高校入ってこの家もらった」


平然と言っているが、これになんて返せと言うのだ。


地雷踏んだか?


遠い地域に住んでいる人がわざわざ正陽に入ろうとは思わないから、ここに引っ越す前もこの近くに住んでいたはずだ。



それなのに一人暮らしをするということは、ご両親とは不仲な可能性が高い。


「…………寂しい?」


昔を思い出すように少し遠い目をして俊介は話す。


「……たしかに前は寂しかったと思う。でも、真央が友達になってくれたからな。もう寂しくないなぁ」


その言葉はずるい。


オレは体を捻って俊介と向かいあい、頭を撫でる。

無茶に体勢を変えたから変に体を痛めたけど、極力顔に出さないようにする。


普段後ろに撫でつけていて硬い印象を持たせる髪は、実際はとても柔らかく、その意外な撫で心地にオレは驚いた。



そしてオレは驚きに満ちた俊介の顔を見て満足した。


「沢山遊ぼう。寂しいだなんてちっとも、絶対、思わせないから! めっちゃくちゃ賑やかに! …………はムリかも。でも頑張る。それに鬱陶しいって言われるくらいひっつくから!」


本当はそんな自信ないのに、俊介を少しでも不安にさせたくなくて、なけなしの勇気を奮って胸を張る。


「毎日?」

「毎日!」


俊介がにやりと不敵笑う。


「それは頼もしいな」




宣言をしたはいいが、そもそもこの部屋には遊べるものがテレビしか見当たらない。

そのテレビの周辺もとてもすっきりとしていて、とてもDVDやスイッチがあるようには見えない。


「……プライムビデオはとってる?」

「入ってるはず。なんか見るか?」


やっと若干? 生活感があるものが出てきて安心した。


「うん、見たい。好きなジャンルある?」

「………………ホラー」

「今の間なに!?」


何故好きなジャンルを答えるだけで何でそんなに間が空くのか。



そしてオレはホラーが苦手だ。

大の苦手だ。


正直に言うと、ホラーなんて見たくない。

何が面白いのか理解できない。

見る人の神経がわからない。

しかし、オレは俊介に楽しんでもらいたいのだ。


「じゃあホラーにしよっか」


オレの笑顔は引き攣っていたかもしれない。











体感でとてもとても長い映画が終わって、オレは燃え尽きた。

何故、あの時のオレはホラーを見ようなどと言ってしまったのか。


「どうだった?」

「映画より真央のリアクションが面白かった」


それはおかしい。


「苦手なら言ってくれればよかったのに」


途中でギブアップしようと思ったりしたけど、男としてのプライドが邪魔をした。


「でも楽しませるって宣言しちゃったから」


ホラーを選んだことを絶賛後悔中ではあるけど、宣言した気持ちに嘘偽りはないのだ。


「それにアニメのホラーはギリギリイケるし?」

「へぇ、昔はムリだったのか?」

「あの国民的アニメの夏の特番、ウサギのぬいぐるみの目がピカッと光ったりする話とか怖すぎてぬいぐるみをママにどかしてもらってた」

「可愛いな」

「馬鹿にすんな。ニヤけんな。今は大丈夫なんだからな!」


そう、アニメなら大丈夫。


怖いには怖いが、もう二次元を三次元である現実と混ぜてしまうことはないから。















本能は別として。





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