ねむい午前は厄介
始業式はとても退屈で、夜更かしをしてしまって寝る時刻が一時を過ぎていたオレにはとても辛かった。
いや、抗わずに寝たけども。
首がかっくんかっくんしていたかもしれない。
校長先生の挨拶が長すぎるのがいけないと思う。
ただ長いだけじゃなくていいことも言ってるはずなんだけど、やっぱり春の陽気は眠気を誘う。
いや、寒くても式というものは寝る。
寝不足なら尚更。
少なくともオレは抗えない。
それに不良はほとんどの人が寝ているから、そこにオレが追加されても見つからないし万が一見つかっても咎められない。
生徒に不平等なのはいけない風潮があるからね。
眠気の始業式が終わった後。
まだ寝惚けている脳で必死に立とうとして、オレはここにきて俊介が隣に座っていたのだと思い出す。
「あ」
「ん?やっと起きたかねぼすけ」
苦笑している俊介に、皆寝てたんだからいいだろう、と抗議を込めてぽかりと拳をいれる。
ざわりと空気が揺れた。
その空気の変化で目が半開きから全開に。
完全に目が覚めました。
またしても生徒達の矛先がオレに向かっているような気がしてならない。
「…………ん、なんで?」
「お前誰にパンチ入れたと思ってんだ?」
呆れたように言われる。
誰って、
「俊介」
「は?」
「ん~~?…………あ、そーちょー」
そうじゃん、総長じゃん!
まだオレの脳は寝惚けていたらしい。
覚醒したと思ってたけど、オレがそう思っていただけらしい。
俊介は総長なんだから、拳を軽くでも打ち込んだら騒めくか。
さらには、それを許されているのだから。
オレはやっと覚醒した脳でとても納得した。
ここは不良校。
不良達は素直に列なんて作らないため、注意することに疲れた先生方がもう体育館にいてくれたらどこにいてもいいとしたらしい。
だからオレは俊介と端っこに行き、壁にもたれながら話を聞いていた。
前までは前の方の一般生徒たちの中に紛れてその集団の後方にいたのだが、俊介はそこに行かないだろうと思ってオレが合わせた。
1時間は掛かる式の間中一般生徒を怯えさせる訳にはいくまい。
まあそれは回避したからいいとして。
脳が覚めていても体が怠いと動きたくないし、そうでなくとも目が開くかと言われたらそれはそれ。
まだねむい。
隣にある肩の高さがちょうどよかったためそこに頭を預ける。
「あ、おい。もう目ぇ閉じるな。移動するから起きろ」
「むり」
「断言すんの早すぎだろ」
こんな時だけ即答なのなという言葉は聞こえなかったふりをする。
「付き合いたてだからっていちゃいちゃしすぎなんじゃない? てーんちゃん」
急に間近で聞こえた俊介以外の声に驚き目を開くと、肩につくくらいの染めた金髪をハーフアップにした垂れ目の女遊びしてそうな風貌の人がオレのすぐ近くでしゃがんでいた。
「うっせえ」
にやにやと笑っているその人の顔を俊介は容赦なく鷲掴んだ。
しかも手に青筋が浮かぶほど力を込められているようだ。
痛そう。
自分がされているわけでもないのに、自分だったらと考えて顔を顰めた。
「いたいいたいいたい」
でも金髪さんが結構本気で俊介の手を剥がしている姿を見てもっとやられてればいいのにと思ってしまう。
これは他人事だから思えることだ。
俊介の指を全て剥がし終えた金髪さんのゼェハァと荒い息が白々しい。
白々しくても様になって見えるからイケメンはずるい。
「はーこわ。でもガチで、恋人にこんなに優しいてんちゃん初めて見るよー?」
軽薄そうで、しかも相手を思いやっているようでいて自分の思った通りに物事を進めそうな人。
偏見だとしても、その人に対して持った第一イメージというものはなかなか変わらないものである。
うん、オレこの人むりだ。
この世には、どう頑張っても絶対に合わない人がいる。
オレは、その内の一人がこの人らしい。
初めて関わるタイプだが、オレは無理だと断言できる。
しかも、だ。
「…………俊介はともだちだから」
初めての心の底から友達だと公言できる存在なのに、恋人だとか言われるのに納得できない。
「えーー? そーなの??」
そうなんだよと若干キレながら頷く。
眠いのに、苦手な人種と関わらなくてはいけないというこの二重苦。
ゔーと唸りながら八つ当たりのように俊介の肩に頭をぐりぐりと擦り付ける。
「………………ふーん、ま、いーや」
それだけ言うとすくっと立ち上がり、
手をひらひらと振ると扉へと向かって行く。
「アイツは何しにきたんだよ」
「ほんとそれ」
二人で眉間に皺を寄せ合う。
「つーか、真央も本当にそろそろ立て」
「やだ。たたせて」
「あー……。ほら」
立たせてもらう所か縦に抱かれている。
「ん?」
なんでこうなったのかは疑問だが、楽だ。
安定感が凄くあって恐怖心が湧かず、まだ眠いしまあいっかという気持ちになってオレは体の力を抜いた。
結局教室まで抱っこで運ばれてしまう。
そしてわざわざオレの椅子を引いてそこに降ろされた時、もう何に対してかはわからなくなっているが、ただ「わぁ」という棒読みな言葉が溢れた。