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出会いは熱中症で

オレ、佐藤真央は臆病だ。



人と話すことが怖い。

話すことで人を失望させてしまうのではないかと思ってしまう。

別にトラウマがあるなんていう物語のような事はないれけど、それでも咄嗟に言葉が出ないんだ。


喋らない方が嫌われるんだと、人が離れていってしまうと頭では分かっている。

でも、それでも。

怖くて、喋れない。  


たとえ喋れたとしても話が続かないから上手く親しい人が作れない。

ひとりぼっちが嫌だとかいうわけではなくて、むしろ一人は楽だとさえ思っている。

でも授業でペアを作る時とか一人だと焦るし、それ相応に友達との遊びに憧れてはいる。



けれど自分から話しかけに行く勇気なんてないし、たとえ話しかけてもらえたとしてもオレは言葉にするまでに少し時間が掛かるから、うまく会話が続かない。



人と関係を築くことが怖い。



けれども、熱中症を引き起こしているであろう人を放っておけるほどの度胸もないんだーーーー。









もうすぐ高校二年生になるという春休み、陽気がぽかぽかとして暖かいまさしく「春!」を体現しているような日。


その日の午後、オレは近くのコンビニでのネップリ帰りに、公園のベンチにほてった顔でぐったりと座り込み意識朦朧としている不良のような人を見つけてしまいピシリとその場で固まる。



多分熱中症だ。



不良である可能性の高い人物に関わることは怖いけれど、この人が死んでしまうのではないかと想像を飛躍させ思わず近寄ってしまった。



あ、不良だと思ったのには理由がある。


髪は黒いけど、ピアスがバチバチと耳に空いているんだ。

イヤーロブは勿論、インダストリアル、アンテナ、アンチトラガス。

他は名前を知らない。

とにかくジャラジャラと効果音が聞こえてくるほどピアスで飾られている耳。


そしてあの周りを威嚇する目の鋭さ。

きっとこの人は不良に違いない、そう思ったからだ。


オレは不良のような人を不良さんと名付けた。


実際にそう呼ぶわけでもない。

違ったとしても心の中のあだ名くらい自由が許されるはずだ。



そんなことを考えながら、その倒れている人まで後二歩の距離で立ち止まる。



近寄ったはいいけど、どうしよう。



熱中症だろうとはわかるけど詳しい対処法を知っているわけではない。

ベンチの近くで何も手をつけられずに少しの間うろうろする。


とりあえず、今日オレの羽織っているカーディガンは風通しがいいし日陰作るために掛けようかなどと考えてから、こちらをじっと見つめる視線に気づき肩を揺らす。


思いっきり目が合ったのだ。

意識朦朧といった様子だが、その目の鋭さは近づくことを躊躇わせる。


いやでも放っておけないし。


刺激しないようそっと、恐る恐る移動して頭にカーディガンを被せる。

被せる時点でどう足掻いても刺激しているかもしれないと被せてから後悔した。

うん、もう遅い。


オレは白目を剥きかけ、此処は外だという自覚からなんとか黒目に留めた。



不良さんはオレのカーディガンを被せる動きを見ていたはずだけど何も言ってこなかった。

言う気力もないのかな。


何かを声に出す気力もないんだったら結構危ないのでは、そう思って不良さんの腕を引っ張る。


「と、とりあえず、日陰に…………」



無言だったが気だるそうにのろのろと起き上がり、オレの引っ張った通りに移動していく。

オレのカーディガンは被ったままなのが反応に困る。


不良さん、何か喋られても怖いけど無言も怖いです。

言葉に出しては決して言えないけども。








木陰にはベンチが置いてなかったため地べたに座ることになるけど、この不良さんは果たして座っていられるのだろうかと疑問に思った。

思ってしまった。



膝枕するべき?

いやでも、男にされてもいい気分にならないよね……。



オレは先に地面に座り、とりあえず何も言わず不良さんに行動を任せることにした。





しばらく不良さんは暫く熟考した末、オレの隣に座ることにしたようだ。

やはり座っていることすら辛そうだったため、不良さんの腕を引っ張っ無理矢理膝枕をした。



膝に不良さんの頭を乗せてから、オレはある考えに辿り着き青褪めた。


ある日突然「あの日の屈辱を晴らしてやる!」と殴りかかられやしないだろうか。

不良さんがおとなしすぎて、しかも顔も隠れてるし遠慮なく接していた。

元気になった後が怖い。


けどもう行動してしまった後だからどうにもならない。

流れに身を任せるしかない現状に心の中で泣いた。



「…………どうぞ」


ネップリ時にコンビニで買ったレモンティーを不良さんに恭しく渡す。


スポーツドリンクの方が絶対に適していただろう。

しかし不良さんに飲ませる飲み物にまで気が回ったのは膝枕をしてからで、動こうとしても動けない状態なのだ。

炭酸系じゃなかっただけマシなのだと思いたい。



オレが差し出したレモンティーをカーディガンを捲ってこちらを見ていた不良さんは一向に受け取らない。


オレは首を傾げ、ああと納得して腕を引っ込める。

蓋の固さに少し苦戦しつつつもなんとか蓋を緩めて再び差し出して、受け取られるのを待つ。




暫くして、不良さんはのろのろとレモンティーのペットボトルを受け取り蓋を開ける。

すると途端に先程の無気力感はどこにやったのか、ごくごくと勢いよく飲み始めた。


あぁ、オレのレモンティーよ…………。


人助けなのだから仕方がないけど、それ飲むの楽しみにしていたんだよなぁと飲めないことを惜しむ。

なので恨めしく不良さんを見てしまうのは大目に見てほしい。



「ありがとう」


搾り出されたであろう掠れた声は、思っていた以上に柔らかかった。

体調がまだ悪いからだろうか。


「……ん」


あぁ、また咄嗟に言葉が出ない。

これじゃあ失礼だろう。

しかし不良さんは気にしていないのか、またオレに言葉をかけてくれる。


「助かった。俺の名前は天雷俊介だ」

「…………」


こくりと頷くが、そこから無言が続く。



続く沈黙にこれはオレも名乗る流れなのかと慌てる。

あぁ、やっぱりオレは上手く話を繋げることができないのだ。


「……オ、オレの名前は佐藤真央」

「真央か。――真央って呼んでいいか?」

「うん」

「俺は俊介と呼んでくれ」

「…………わかった」


また無言になる。

しかしオレのカーディガンを退けて此方を見る表情は柔らかく、無言があまり苦にならない。


「なぁ、真央はこの近くに住んでんのか?」

「え、あ、うんそう。俊介も?」

「ああ。ついでに言うと高校も近くだな」

「え、オレも。…………もしかしなくても正陽高校?」

「もしかしなくてもって」


何がツボだったのかは謎だが、俊介が笑う。

自分が発したことで笑われると嫌な方へとどんどん考えてしまうから、笑われるのは嫌な筈なのに何故か俊介は大丈夫だった。

それどころか、えー何でツボったんだろう、などと考える余裕がある。

不思議だ。



(高三かな? 大きいし、なんか大人っぽいし)


「じゃあまた会えるな」


微笑みながら言われる。

顔は怖い系の美形なのに笑うと雰囲気が柔らかい人だな。


「……あ、だね」

「…………うれしくねぇか?」

「いや、…………オレと会うのを楽しみにしてくれるとは思わなくて」

「そうか?俺はすっげえ楽しみだ」

「ありがとう?」


何と返すべきなのか分からなかった。

でも、嫌ではない。

むしろ。



オレも楽しみだと思った。









幾分か体調が良くなった俊介と公園で別れ、家へと帰る。


すぐ部屋に戻り、ベッドへばふりと飛び込む。

そしてなんとなくスマホを眺め、笑う。


LINEの友達登録をしたのだ。

学校の付き合いで何人かは友達登録をしているが、私的な用事で連絡を取ったことはない。



でも、俊介にはしてみたいかも。



足で布団をぼすぼすと叩く。

なんだか体を動かしたい気分なのだ。


でも何を送ればいいんだろう。


これまでLINE登録した人と私的な連絡を取ってこなかったのは、何を話したらいいのか分からなかったから。

あとLINEで話して、何て思われるのか怖かったから。



俊介に対して何て思われるのか怖いという気持ちは不思議とないけど、だからといって話の種があるわけではない。


送る言葉にうんうんと悩んでいると、常にマナーモードにしているスマホが振動した。

過去最高速度で画面を見る。

それはオレが思った通り俊介からだった。



『今日はほんとにありがと、助かった』


文章と共にお休みという無愛想な犬のスタンプが送られてきていた。


お休みは早いよ、まだ夕ご飯前だよ。


幸せな気持ちになって、ふふっと一人で笑ってしまう。


『どういたしまして。早く寝てね。俊介は本当におやすみなさい。ゆっくりやすんでね!』


俺はこう送り返すことにした。


そして送った後に漢字の変換忘れに気がつくという。

そのことに気がついた時には既読がついていたから送信取り消しが不可能になってしまった。


LINEは案外不便だ。

思わずぐぬぬと唸る。


でも楽しいなと思いながら、オレはあまり使うことのないLINEの、この短いやり取りをずっと眺めていた。





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