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【第六話】悪役令嬢は裏話を聞く



夜会の翌日は、のんびり過ごすのが常だ。

夜会のシーズン中、普段は仕事に追われる宮仕えたちも、午後からの出仕を許されていた。

ミネの父親のマオ公爵も、昼食を摂ってから登城する。


いつもより四時間ばかり遅く起床したミネは、シュシュに身形(みなり)を整えて貰い、軽く庭の散歩をする。

露草(つゆくさ)色の普段着ドレスは、今持っている服の中ではいちばん大人しい色合い。

最初の人生の時は原色に近い色が好きだったため、目に眩しい赤や青や黄色の服が山のようにあった。

このプレ・デビュタント以降、二度目の人生からは柔らかい色合いの淡色を好むようになるのだけれど、今の時点での在庫はまだ原色のままだ。


昨夜の夕食が遅かったせいか、起床も遅かったことだし昼食まで何も口にしなくても持ちそうだ。

四阿(ガゼボ)に着くと、シュシュが果実氷菓飲料(スムージー)を用意してくれる。

王宮のものほどではないが、質の良い素材で作ったそれは、昨夜の出来事を想い出させてくれた。

無意識に微笑むミネに、シュシュの表情も緩む。


昼食まで何をしようかとつらつら考えていると、玄関の辺りが何やら騒がしくなった。


「何かしら」


不思議に思っていると、侍女頭のラオシュゥ夫人がミネを呼びに現れる。


「ミネお嬢さま、お誕生日の贈り物でございます」


そういえば昨日はわたくしの誕生日でしたわね――と他人事のように思いながら、そんなに慌てるほどのことかと玄関に向かった。

何やら大きな箱が山のように積み上げられている。

花も溢れるほど運び込まれていた。


「な…。…一体どうなさったのです?」


驚いて問うと、母親のマオ公爵夫人が頬に手を添えながら苦笑した。


「王宮からなの。第一王子リオン殿下からよ」


「は?」


搬入の指揮を取りながら、マオ公爵の部下であるシアン=コウ伯爵がにっこにこの笑顔を向けてくる。


「やぁ、こんにちは、ミネ=マオ令嬢。いちにち遅くなりましたが、お誕生日おめでとうございます」


「シアン=コウ卿、ごきげんよう。ご丁寧にありがとうございます」


「それにしても、第一王子殿下も熱情的なことをなさいますなぁ」


「どういうことなのです?」


コウ伯爵の話によると。

昨夜、マオ公爵用の控室を出たリオンは、その足で国王に人払いを請い、ミネとの婚約を嘆願した、と。

元々そのつもりでいた国王夫妻は、あっさりと承諾したのだが、その会話の最中にリオンが大変なことを思い出してしまった。


「父上、ミネ嬢は確か、“本日八の歳を数え”たと言ってはおりませんでしたか?」


「ん?ああ、昨年はそれでプレ・デビュタントに間に合わなかったと言っていたから、今日が誕生日なのだろう」


「なんということ…。父上、私は急ぎ、ミネ嬢への贈り物を準備いたします!一日遅れとなりますが、明日にでも早急に届けたいと」


言うや否や、さっと踵を返して会場を後にし、贈り物の粒選を始めたのだとか。

第一王子のあまりの奔放さに唖然としていた国王夫妻だったが、くつくつと笑みを零してコウ伯爵に補佐するよう要請したのだった。


「まぁ、そうでしたの。お手間を取らせてしまいましたわね」


公爵夫人が労うと、コウ伯爵は鼻の頭を掻くようにして恐縮した。


「いやいや、贈り物を準備するというのは幸せなことですからね。昨夜の降って湧いた問題に比べたら、気持ち的には随分楽しかったですよ」


「あら。昨夜なにかございましたの?」


マオ公爵家が王宮を辞した後、ちょっとした面倒ごとが有ったそうだ。


「いや、大したことじゃあないんですよ。参加者のご令嬢――お嬢さまと同じくらいの年頃の男爵令嬢でしたがね、王宮内で迷子になられて。男爵夫妻と探していたのですが、どうも庭の奥の方に入り込んでしまったみたいで。ドレスはどろどろだし、髪の毛はぐちゃぐちゃだしで、癇癪を起こして大変だったのですよ」


その話を聞いて、ミネはすぐにラパン=トウツ男爵令嬢のことだと気付いた。

恐らく、迷いの森(シィミィスンイン)紫水晶(アメシスト)を探していたのだろう。


昼食を摂って、父親のマオ公爵と部下のコウ伯爵――母親の計らいで一緒に昼食を摂って貰った――を見送ると、ミネは自室に戻って精霊(ツゥスウェジン)を呼び出した。

隣の衣裳部屋では、シュシュを中心とした使用人たちが、せっせと荷解きをしている。


チャームの中で眠っていたらしいツウは、ミネから一連の話を聞くとお腹を抱えてけたけた笑いながら、小花模様が細かく織り込まれた絨毯の上を転げ回った。


『せっかくだから、見せてあげるよ。目を閉じてごらん』


と言うと、ミネの脳裏に直接映像を映し出す。


月明かりに照らされた瑠璃茉莉の前で、ラパンは癇癪を起こして(ヒステリックに)叫んでいた。


「迷いの森への(みち)がないじゃない!ちょっと!ツウ!どういうことなの?!」


眉間を寄せて、血走った目をすがめて。

裂けるように大きく口を開いて。

とても物語の主人公には見えないような醜悪な表情で、ラパンは頭を掻き毟る。


「これじゃあブローチが手に入らないじゃないの!ツウ!どこなの?!出てきなさい、ツウ!」


這い蹲って、土汚れでどろどろになりながら、瑠璃茉莉の間を探しまくるラパン。

そうこうする内に、トウツ男爵の依頼でラパンを探していた衛兵や使用人たちが、ラパンを保護に現れた。

暴れまくるラパンをなんとか拘束して、彼らは王宮内に戻って行った。


映像はそこまでで、ミネが静かに瞳を開けると、ツウはにやりと口の端を上げた。


『今世は愛称どころか、名前で呼ぶ許可すらしていないんだけどなぁ』


ふぅ――と息をつくと、今度は畏怖の念を抱かせる、血も凍るのではないかというような冷たい表情をした。


『不敬だから、懲罰しないとね』


これでラパン=トウツ男爵令嬢は、当分は社交界に出てくることはないよ――とツウは嗤う。

夜会にも茶会にも出席することはない、と。


「どうして?」


『あんなに礼儀作法のなっていない娘、社交界では攻略対象者たち以外、みんなが迷惑していたんだよ。だから淑女として合格点に達するまで、家から出さないようにトウツ男爵の意識に刷り込んだのさ』


まぁ、あの性格だとデビュタント自体できないかもね――などと愉しそうに言うツウは、この百年に甚だ辟易していたらしい。


「ねぇ、ツウ様。あまり過剰な手助けは…」


『んんっ?手助けじゃないよ!淑女として出来上がっていない者が社交界に顔を出すなんて、常識的に考えておかしくない?』


「それは…、ええ、そうですわね」


きっとこれはミネへの手助けではない。

精霊を許可なく愛称で呼んだラパンへの仕置きなのだ――とミネは自分を納得させた。



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