【第十二話】悪役令嬢はループしない[最終話]
震えるミネに気付いたリオンが、優しく肩を抱く。
「ミィ、大丈夫?」
「はい…」
尚も暴れるラパンを魔導局職員が拘束し、魔封じの枷を装着する。
ラパンは口汚くミネを罵っていたけれど、枷の効果によってその声も封じられた。
リオンによって命じられた衛兵が、投獄するためにラパンを会場から連れ出す。
国王夫妻が、リオンに声を掛けた。
「リオン…」
「王太子よ。説明を」
「は。陛下、ラパン=トウツ男爵令嬢が、禁忌である闇魔法を用い、我が婚約者ミネ=マオ嬢を害そうと致しました。幸い事なきを得ましたので、魔導局職員に拘束させ、衛兵に投獄を命じました」
「ふむ。問題はないのだな?」
「はい。お騒がせ致しました」
「では、宴を続けよう。皆の者、存分に楽しんでくれ」
国王の声掛けで、再び楽し気な音楽が流れダンスが始まる。
リオンは周囲の仲間たちに視線で合図を送り、彼らと共に――顔色を失くしたミネを抱き上げて、控室へ引き上げた。
「ミィ。無理をしなくて良い。ここで休んでおいで」
「ありがとうございます…」
ミネを長椅子に横たえて、リオンは他の令息たちと、ディアーブルを含めて今後の相談を始めた。
ラパンの処遇については、この後、正式な裁判を以って沙汰が出されるだろう。
最終的な判断は国王が下すのだが、その際の参考になるよう、事実確認と状況判断をしなくてはいけない。
「ミネ、少しお眠りなさい」
ミネの傍に来たシャティが、そっとその手を握る。
パールもメラノも心配そうな顔をしていた。
「ありがとう。そうさせて貰うわ」
ふ――と目を閉じたミネに嘆息し、三人は各々の婚約者の元へ移動する。
うとうととしかけたミネの脳内に、直接、精霊ツウが語りかけた。
『さて、ミネ。ゲームも終盤だ。残すは結婚式のみ。ここまでであやつは何度もループして、王子の攻略を楽しんだよ。そなたはどうする?』
――わたくしは、もうループしたくはありませんわ。だってまだ、ハッピーエンドかどうか分からないでしょう?
『そうだね。あやつは百年かけて十回のハッピーエンドを求めたけれど、結局、本当の終幕はバッドエンドなのさ。この先の五十年は地獄だよ』
まあ、五十年が限度だろうね――と精霊は意味深長に嗤う。
――え?
『あの男――ディアーブル=オモは、最後の攻略対象者だ』
――攻略対象者?!
『創造主が公表していない裏設定でね。建国記念日の夜会時点で、全ての攻略対象者の好感度がマイナスだった時に現れる稀少キャラなんだ。優しいのは表の顔で、本性は極悪非道の嗜虐嗜好。幼女から老婆までの幅広い嗜好範囲』
あんまりな裏事情に、ミネは言葉を失う。
『あの男自体は自身の嫡子に必要性を感じていないから、跡取り問題に絡まないよう、夜伽をする女の卵巣を摘出した状態で、魔封じの塔に監禁して飼い殺すんだ。一夫多妻が当たり前のグイグワイ国で、恐らくあやつはあの男の側室として重宝されるだろう。身分的にも事情的にも、正妻にはなれないだろうからね』
そんな恐ろしいことを平気で口にするツウに、ミネは恐怖を抱いた。
『今は大人しくしているけれど、あの男を敵に回すのは好ましくない。今まで百年間されてきたことを思い出せ。あやつを赦免しようなどとは考えぬことだ』
そんな精霊の力を、ラパンは恣にしてきた。
そして今は、ミネがそれを使うことができる。
改めて、その境遇を考えなければならないと思いながら、ミネは眠りに落ちていった。
暮顧月晦日、暦年が変わる前に憂いを取り除こうと、ラパンの裁判が行われた。
建国記念の日、トウツ男爵夫妻は屋敷から姿を消したラパンを、自領内で必至に探していた。
まさか王都に――しかも王宮にいるとは思わず、更にそんな大それた騒動を起こしていたとも知らず、真っ青になって登城する。
歳を取ってからできた一人娘で、甘やかして育てた咎はあるものの、あのラパンの様子を見る限り、この熟年夫婦にも同情心が湧く。
ラパンは、ずっとおかしなことを喚いていた。
自分はヒロインだ。
精霊の加護があるのだ。
皆に愛される存在だ。
王妃になるのだ。
悪役令嬢が悪い。
これは何かの間違いだ。
バグなんだ。
もう一度やり直せばいい。
出直し!
リセット!リセット!リセット!リセット!リセット!リセット!…
尖晶石のブローチを握りしめて、同じ言葉を繰り返している。
「ああ…可哀想に…」
被告人席でぶつぶつと独り言を言うラパンを、ディアーブルは愛おしい者を見るように見詰めていた。
訴状が読み上げられ、事実確認が行われる。
しかし、ラパンがこの状態では、本人からの申し開きは聞けないだろう。
結局、当初の予定通り、ラパンは国外追放されることになり、その身柄は隣国グイグワイのディアーブル=オモ公爵に預けることとなった。
トウツ男爵は責任をとって爵位を返上。
しかし、その人柄と領地の統治能力を買われ、新たな統治者が来るまでの代理人の補佐をする役割を与えられた。
ショックで寝込んでいた夫人は、少しずつ回復に向かっている。
ラパンが罪人護送馬車でグイグワイ国に旅立って、半年が過ぎた。
ラパンの証言は得られなかったが、闇魔術を放ったペンダントを検証すると、トウツ男爵領の魔術師の存在が浮かぶ。
魔導局職員と騎士団の迅速な任務遂行のおかげで、確保、投獄、判決、執行が問題なく行われた。
愛逢月。
朔日にミネたち三年生の仕上げ学校卒業式があり、それが終わって約ひと月後に当たる晦日、社交シーズン最終日に、ミネと王太子リオンの結婚式が行われた。
丁度、長期休暇に入るため、ミネとリオンは初めての旅行に出掛ける。
卒業夜会のドレス、結婚式のドレス数着、旅行用のドレス。
それに合わせたアクセサリー、靴、小物。
それぞれの準備で、この六ヶ月間はなかなかに忙しかった。
成人したとはいえ、まだ十八歳。
若い夫婦のふたりには、明るい未来しかない。
「こんなに幸せになれるなんて、夢みたい」
結婚式を終え、無事に初夜も済ませたミネは、馬車の中でリオンに身を寄せて幸せに浸っている。
結婚式が終わったから、完全にゲームは終幕を迎えていた。
ここから先は、シナリオのない、そしてミネも初めて経験する世界だ。
『吾がついている限り、そなたは幸せになるしかないよ』
ロケットの中で寛いでいるツウが言う。
きっとミネだけでなく、このシィツゥ王国、そしてこれから産まれるであろうミネの子どもたちも、ツウに見守られていくのだろう。
「ふふ。私もだよ、ミィ」
ミネの肩を抱き、本来の優しさを湛えた瞳で見詰めるリオンは、王太子としての任務をそつなくこなしている。
第二王子のレオンも半年後にパールとの婚姻式を行うため、ミネに義妹ができる予定だ。
ミネの兄シャノワールは、文官として働きながらマオ公爵の跡継ぎ修行を行っている。
宰相の息子ブレローはシャノワールと共に文官として働きつつ宰相の仕事も手伝っており、婚約者のシャティと近々婚姻の予定。
騎士団長の息子ルナールは無事に騎士団に入り、めきめきと実力をつけているところ。
婚約者のメラノとは婚姻の予定だが、仲間内の婚姻式が立て込んでいるため、日時は少し様子見とのこと。
魔導師長の息子ムートンは魔導局に入り、魔導具の発明や新たな防御魔法、攻撃魔法の開発に力を注いでいる。
みんなが幸せに暮らしている現実に、ミネは頬を緩めた。
これから先、リオンと紡いでゆく未来に期待を抱きつつ、今から向かう新婚旅行先に想いを馳せる。
リオンはどんな風にミネを愛してくれるのだろうか。
乙女ゲーム【迷いの森のウサギちゃん】では、“その後”は描かれていないのだという。
きっと迷いの森の精霊、ツゥスウェジンに見守られ――
“ふたりは永遠に、幸せに暮らしたのでした”
【Fin】
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