ターコイズの求心力
そのロックバンドは5人組の編成だった。
ボーカルのイケメンをメインに出して、ほかの4人は明るめでポップばかりじゃない厚めのダークなサウンドでいい感じのグルーブ感を醸し出す。そんな、一度でも舐めたら通り過ぎ出来ないチクリのトゲを隠す美味い工夫がされている。
だから、きっと、そこにはいない敏腕とか辣腕とか言われてるプロヂューサーが手取り足取りの全てを牛耳っている。
たぶん、そんな感じだ。
そして、もうひとつの隠し味。
全員、金髪ロン毛で、顔つきもヨーロぉピぁーンな感じだが、サビのところに入ってるAPOLOGIZEが、しっかりとした一音一音を区切った日本語のあぽろがいずになっている。重圧のグルーブ感もクールなイケメンもそのときだけ影を消して、3年前までそうだった40年前まで北関東に生息していたヤンキーの素の顔に戻っている。
ビジュアルと一見したオーラからイメージするカリスマ力満々のホストが、近づいて、親しくなって、ひととおりまでいった後に見せる藁の臭いする素の顔、釣り針の返しのように刺さったものを抜けなくするあの感じとどこか繋がっている。
アンビエントに捕まったら、女だって男だって、もう、ぐうの音も出ない。
だから、きっと、そこにはいない手取り足取りの全てを牛耳っている敏腕とか辣腕とか言われてるプロヂューサーって、マウントとるようながんじがらめが見えてくるタイプじゃないんだ。たとえば、楽屋の奥に持ち込まれたイギリス製の100年前の椅子に座った華奢なくせに骨太の女の子、ターコイズブルーの瞳の本物のノルマン人みたいな女の子、そんなタイプな感じがする。
彼女の一瞬の目の移ろいで、5人は疑心暗鬼になる。
ボーカルのイケメンは、ほかの4人の「カノジョはどうせオマエだよ」のやっかみが、吐きたくなるほど繰り返した甘ったるいラブソングのように聞こえ、ブチ切れそうになる。いまだ楽器をひとつとして扱えないコンプレックスもあいまって、カモられている自己嫌悪に苛まれる。そして、その顔のまま、ステージへ。
ステージでのヒリヒリした隠し味は、この辺りが、エネルギー源だ
そうそう、それそれ。いいね、いいよ
ドラムスとギターのふたりはそっちの可能性はないから、そっち方面の詮索は、ぱす。「女って、怖いから。あんな顔して、お腹じゃ別の顔してんだから」と、純粋に彼女を女としてひそひそ怖れている。
ベースとキーボードのむかしのスタジオミュージシャンみたいにおもてに顔を出したがらないどっちかが怪しい。いつも、なにか、やり過ごそうと、天井が閊える長い身体をこれでもかと低くする。そして、その格好のまま、ステージへ。190近い長身の崩れるような前かがみの感じがダークな感じを醸し出す。
そうそう、それそれ。いいね、いいよ
いまの彼女の本命は、ベースだ。いまは気持ちがそっちにいってるけど、次の曲になるとボーカルのイケメンの血走った瞳に釘付けになるかもしれない。こわいこわいを囁いてるギターだってノーガードでは済まされない。明日の朝は、両刀使いに生まれ変わってるかもしれない。
今夜のベッド、誰に温っためてもらおうかな
そんな囁きが、5人の頭上をつむじ風みたいにグルーブしたら、覚めた。




