サウダージ3
急に胸ポケットが膨らんできた。
シャツでなく、ジャケットの硬い芯の充たった余裕のないポケットだから、入ったもののかたちが直接、胸のしこりに充たってくる。
いちばんに近しいのは、ポッドキャストを聞くためのイヤホンの充電ケース。あの、小さなザブトンの角を内側に折って丸めたような、アレ。かどを折り曲げてるのを言い訳にして、ずんずん胸の奥の方まで押し込んでくる。
モズモズしてきた。
なんだか、お蚕さんが桑の葉をしんしんと食べ進めてるときのむず痒さが昇ってくる。毎日、身体の二倍三倍を食べていったら、むず痒くならないはずはないから、この感じはきっと正しのだ。
でも、なんでお蚕さんなんだろう。もっと身近な経験に基づいた感じが上がってきてもいいのに。
そんな、あちらの事情を斟酌してたら、こんな窮屈は「そろそろ限界」の背伸びした大あくびが鳴った。
痛くはない、こそばゆいだけだ。
ずぅーとグーばかり強いられていた掌が、パーがしたいと、その五本の指がむずかってくる。あんなイヤホンケースの拳だから3才に満たない2才の仔の小さな掌だ。
「なにやってんだか、なに外行きやってんだか」
くっくと押し殺した声がポケットで鳴っている。外行き用のジャケットと、それに劣らぬ外行き用にとりすました面構えが可笑しくてたまらないと、鳴っている。
ひとさし指の先っぽがポケットから見えてきた。ひなあられの桃色みたいな小さくて可愛い爪していた時分の、わたしのひとさし指にはじめて出逢えた。
はじめての邂逅だった。




