表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/231

サウダージ3

 急に胸ポケットが膨らんできた。

 シャツでなく、ジャケットの硬い芯の()たった余裕(ゆとり)のないポケットだから、入ったもののかたちが直接、胸のしこりに充たってくる。

 いちばんに近しいのは、ポッドキャストを聞くためのイヤホンの充電ケース。あの、小さなザブトンの角を内側に折って丸めたような、アレ。かどを折り曲げてるのを言い訳にして、ずんずん胸の奥の方まで押し込んでくる。


 モズモズしてきた。

 なんだか、お蚕さんが桑の葉をしんしんと食べ進めてるときのむず痒さが昇ってくる。毎日、身体の二倍三倍を食べていったら、むず痒くならないはずはないから、この感じはきっと正しのだ。

 でも、なんでお蚕さんなんだろう。もっと身近な経験に基づいた感じが上がってきてもいいのに。

 そんな、あちらの事情を斟酌してたら、こんな窮屈は「そろそろ限界」の背伸びした大あくびが鳴った。

 痛くはない、こそばゆいだけだ。

 ずぅーとグーばかり強いられていた(てのひら)が、パーがしたいと、その五本の指がむずかってくる。あんなイヤホンケースの(こぶし)だから3才(みっつ)に満たない2才の仔(ふたつのこ)の小さな(てのひら)だ。


「なにやってんだか、なに外行き(よしいき)やってんだか」

 くっくと押し殺した声がポケットで鳴っている。外行き(よしいき)用のジャケットと、それに劣らぬ外行き(よしいき)用にとりすました面構え(つらがまえ)が可笑しくてたまらないと、鳴っている。

 ひとさし指の先っぽがポケットから見えてきた。ひなあられの桃色みたいな小さくて可愛い爪していた時分の、わたしのひとさし指にはじめて出逢えた。

 

 はじめての邂逅だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ