拳固で固めた焼きごて
いびきがうるさいのか、何度も隣からそれを止めさせるサインがあった。
時折は覚めたりした。覚める直前は、仄暗い水中からやっと解き放たれる感じがして水面がキラキラ輝いて見えた。それが、ちっとも嬉しくない。その合図が、拳固で固めた焼きごてを眠って無防備な尻に無造作に押し当てられるからだ。
覚めても焼きごての痛さが漂っていて、あんなのを見たんだ。
すぐ鼻の先でクネクネしてる。が、それをしてるのはわたしではない。わたしは見ている側だ。
白い厚紙を四角く細長く切っていき、出来た先からのクネクネ折り曲げ、仕切り板のような渦巻をつくっている。つくっている掌の先だけはわたしのような気がする。きっと出来た先の先端に女が停まっていつまでも行けずに躊躇しているから、掌の先だけはこっちまで片付けきれなかったんだ。
仕切り板した四角な渦巻はどんどん撥条を継ぎ足し大きくなっていくから、総じて女の方は小さくなってく。小さくはなるが、かえって、花の中から生まれるお伽噺のお姫様のような妖しい外連味を帯びてくる。
女は、掌の先だけ残して姿をくらまし続けるわたしを見続ける。こんなマジックミラーで仕切っても、こちらが見ていることを知られていれば見つめられてるのは同じことだ。
「こんな手の込んだ紛い物まで拵えて」と、まだ少しは気の残ってるふりしてわたしを見る。救いを、そこまで大袈裟でなくとも、すっとマジックミラーをすり抜けて、いつものように自分のもののようにわたしの腕を引っ張り「やっぱりよしにしよう・・・・今までのままでもいいじゃないの」と媚びを売った面持ちでわたしを見る。
拵えてものまでしたから、もうどうにもならないんだよと言ったら、いつもよりもサイコパスの顔になってたんだろう。「つまんない」と舌打ちして弾かれていった。
弾かれた行き先がどこかは分かってる。
逢いに行くには、金がつきまとう処に行ったのだ。わたしでなくとも通りがかりの男でも、金さえあれば逢える処に行ったのだ。拵えものまでしてそう仕向けたのはわたしなのに、両の掌までマジックミラーのうちに戻して眺めるよりしょうがなくなったら、サイコパスした顔はそのままなのに未練しか残っていない。
このまま澱がたまるとしがみついてしまいそうで、いさぎよく拳固の焼きごてのついたまま寝返り打とうとしたら、妻にそっぽを向かれ、覚めた。




