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列をなしてくるクマ
クマが出てきた。
山あいの誰もいない草藪の中をひとり歩いていた。急に寒々の感じがして「こんなときにクマでも出てきたら」とびくついてきたら、向こうから黒い毛だまりがウズウズと動いて来ている。
クマだと分かった。
こうして実物を目の前にするのは初めてだったが、それははっきりしている。はっきりしてると決めてかかったからか、それはドンドン近づき、増えてきた。二頭三頭の類じゃない。集団で列をなし、途を辿るように溢れ、こちらに近づいてくる。
絶体絶命、危機一髪の四字熟語が廻ってくるが、不思議とアドレナリンや冷や汗は出てこず、身体の方はいたって冷静だ。
これだけの集団に増えてしまうと、かえって本物らしさは薄まってきて黒い毛だまりのウズウズにいったん戻り出したら、怒り肩してるゴリラ似の男たちがクマの着ぐるみで悪さしてる仕草しか思えなくなくなってくる。
我慢しきれずに、ひとりが被りものを脱いだ。
ひとり脱いだらつぎつぎと脱いでいく。それが、熊から毛皮を剝ぎ取り身につけて他の熊をおびき出す勢子の若い衆が先達猟師の決めた集合場所に遅刻しないよう急いでる日常に繋がり、覚めた。




