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ひさしぶりの筆算

 黒板の中段あたりからはじめたら足りなくなって、チョークをマジックに替えて、その下の経年で黄ばんでいる白いモルタル壁まで這いずり出し、筆算を続けた。


 何十年ぶりだろう、筆算なんかしてるの。

 それは、女に、()()()()を口で説明するのがうっとうしくて背中を向けて書き始めたからだった。はじめから筆算なんかするつもりはなかった。こうじゃなくてあーじゃなくてと、頭の中でグルフル廻ってるものをそのまま口から吐き出そうとしたら、言葉は桝目(ますめ)行線(ぎょうせん)に乗っかるように真っ直ぐにならずクネクネをはじめてしまい、急いで逃げたウナギのあたまでも(おさ)えるみたいに数字と記号に変換したそのことを(つづ)るように筆算の横棒を介して下に繋げていく。


「なぁに・・・やってんだか」

 の、舌打ちが背中から聞こえれば、笑ってごまかしながら途中の手を止められたのに。女は、なにひとつ挟まずに、わたしの繰り出す筆算をじっと見つめたままだ。

 はじまりは上下に並べた三桁の足し算だった。そのあともう一つ足して四桁になったところで引き算に変える。せっかく四桁になったのがもったいなくて、引いたのは三桁の小さい部類の数だ(たとえば、209みたいな)。答えを先に見透かすあたりが我ながら小学校低学年でないと思う。我に返かえりそうになるのをじっとこらえる。


 ・・・・・いっつも、すぐに戻れるように軸足離さずに歩いてんだよね、アンタ。


 と、腹の内が伝わる足し算引き算はすぐにやめて、掛け算にした。でも、四桁に二桁三桁を掛けていったら、すぐに億単位を超えそうになるので、割り算にする。


 ・・・・・手に持ったことのある重さ超えちゃうと、すぐビビりになるんだから、オタク。


 億単位の割られる数にビビってるから、割る数に二桁(ふたけた)立てる後先(あとさき)が分からない。結局、3や5の一桁を使って、立てる、掛ける、引く、下ろすを繰り返し、億単位を薄す目減りさせていくしか出来ない。

 掛け算のときは左に向かってすそ野を拡げるように景気良くただただ気持ちよく書いていけたが、右に向かって戻っていく割り算だと、ちびりそうなオシッコを我慢してるときのゴツゴツしたものが下腹部を締め付ける。 

(ちっ)ちゃいときから○○○って、到来ものの縦に五つ横に六つ入ってたお饅頭箱から・・・・・親の目くすねて、薄皮はがして、その薄皮だけ食べるの、大好きだったよね」

 やっと、声に出して呼んでくれた。黒板では間に合わず、消せないマジックまで持ち出して問き進めていって、本当に良かった。


 ゴツゴツは消え、袋から重い砂金が流れるようななだらかな気分になりそうになり、慌てて覚めた。

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