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ピーターパンみたいな白いピチピチしたタイツ

 今朝は在宅勤務の合間にしたためているので、静謐(せいひつ)なときではない。だから、少し濁りが混じってる。

 今が旬の穫りたてのサクランボを配したようなケースだった。

 小粒のオレンジ色が(たま)のように見栄えよくこちらを向いている。だから、小さな女の子やその子を抱える若い母親と、その組み合わせに混ざって(とし)は母親の側なのに抱かれてる小さな女の子の側に今でもすり寄ろうとしてる女たちが輪を作り、囲んでいる。


 だから、なのか・・・・

 売っているのは、そうした売り場に不釣り合いの、その針金みたいな顎髭(あごひげ)と五分刈りが上下逆さまにしても釣り合いのとれてる屈強な男が二人、もみ手シューシュー言わせながら売っている。パラソルもTシャツも二人のキャラクターにオレンジフリフリだから、赤ずきんちゃんを騙すオオカミよろしく、いやそれよりも、もっと肉感的なヒトのそれもオンナの肉の味を覚えたてのグリズリーがいままさにとびかかろうとしている刹那の光景だ。

 けれど、頑強な身体なのにくねくねしているふたりの様子から、そっちの方の心配はいらないらしい。かといって、善良、善人ではもちろんない。


 舌なめずりしてるのは、小さな女の子も含めて女たちが両掌で抱えたり腰に下げてるタップリのお金で膨らんだ財布の方だ。風物(ふうぶつ)の仕立てがこんなだから、財布の中身は紙を四つ折りしたお札ではなく、金ピカ銀ピカのコインだ。わたしの方も、こんな風に見えないはずの女たちの財布の中身が見えてるのだから、あの二人同様の善良な性質(たち)ではないらしい。


 それに気づいたら、急に恥ずかしくなった。いたたまれなくなった。女たちがそれに気づく前に女ばかりの輪の中まで入って、ふたりの悪巧みを言いふらす。

「騙されちゃいけないよ、お嬢さんたち。そんなのがサクランボなんかであるもんか。本場山形の佐藤錦なんかであるもんか。よっく、見てごらん。ほらっ。プチトマトを金ラメドレッシングでコーティングしてるだけなんだから」

 とんがりブーツの両足で地面をむんずと踏むと、青空に向かってサッと上げた右人差し指をキュッと立て、キメのポーズをしてみせる。若い母親までひっくるめて「お嬢さん」なんて平気で呼んでる(とし)なのに、ピーターパンみたいなピチピチのグリーンのジャケツに白いタイツの(また)(はぎ)にモッコリの陰影がしている。

 朝でないから、静謐なときでないから、こんなところに濁りが出てしまう。


「あーあ、あーあぁぁ・・・やっちまった」

 声は聞こえないが、あんぐりした皆んなの口から心の声が、そう昇ってくる。

 抱かれた中の一番小さなツインテールした女の子なんて「ぺッ」っと、舌打ちまでやって(いさ)めてくる。もちろん、それはバッタもん売りの二人のハードゲイに対してではない。

 わたしに対してだ。

 「きょうの舞台の一番いいところ」を、頼みもしないのに舞台の袖からしゃしゃり出て、役者にもお客にも水をまき散らし、「あーあ、興覚め。今日はもうおしまい」って、模様替えしなきゃ後戻りできないまでに「やっちまった」ってこと。


 お客たちは散って、ハードゲイ役の二人はいない。桟敷に上がってた照明係は灯りを落とし、大道具係は桟敷を仕舞いこむ。

 ピチピチのグリーンのジャケツに白いタイツの(また)(はぎ)にモッコリ陰影のキメのポーズから逃れられないわたしは、放ったらかされたまま。片付けは済んでいた。 


 こんなところでたったひとり、こんなポーズのままいるなんて

 はやく、ブロンズ像にしてもらいたい

 こんな格好してても通行人が意識しないまま通り過ぎるのに何の違和感もないブロンズ像に、わたしは早くなりたい。

 それが、いまの、わたしの、たったひとつの願いだ。


 早く一言も発せないブロンズに固めてもらわないと、「本当はあのプチトマト、二日前の駅前スーパーの特売でパンパンに入ったひとケース300円で売ってたのを佐藤錦用の平たいケースに3分の一ずつ並べ替えて10倍の値で売ってたんだ」と、まだ口の中のモグモグしたものを吐き出してしまいそうになるから。お願いまでしてキメのポーズにそれを刷り込ませそうになるから。

 そこまでのモッコリが出てきたところで、在宅勤務に戻った。 


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