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濡れた新聞紙の中のわたしの大切にしているもの

 きのう大根を土の中から掘り出したからだろう。

 それは、同じように濡れた新聞紙に(くる)まれたわたしの大切なものが何処(どこ)ぞに運ばれていくものだった。濡れているのは(あらかじ)めではない。長い時間雨に当てられ、それが沁みて、いまでは中までぐっしょりになっている。それを思うとよりいっそう痛々しく感じた。

 真夜中ではないのに辺りは暗く、ひとっこひとりいない中を雨の中だから片手は傘をささなければいけないから、あんなに大切にしているわたしのものなのに片手で掴んだまま埋めにいく。ひとっこひとり出てこないのは分かっているのに、人さまの庭先はいけないだろうからと、わざわざ土手の方まで上がって、埋めにいく。


 そんなふうにするつもりはなかったのに・・・・・

 あんまりにもぞんざいに運んでいくので、わたしはあとをつけなければならない。気づかれぬよう間はとっているが、それも()()()()までのことだ。きっと、振り向きざま、間髪いれず、「家を出たときに、ちゃんと鍵をかけてきたのか」を尋ねるに違いない。そして、「こんな真夜中に夫婦ふたりしてまで家を抜け出して、あとをつけることはなかろう」と(いさ)めるに違いない。

 あるいはそんな気遣いを傾けることさえ忘れ、わたしの大切なものを他に奪われないよう埋めることだけに心をくだいているのだろうか。

 そんなひとつごとだけに心をくだいているのなら、まだまだそれほどの齢ではないのだ。せいぜい四十か、それを越えぬ三十代の執念だけに根を詰める処にいってしまっているのだ。


 それが分かると哀れでしかたなかった。

 わたしの大切なものといったって、家の建て替えでも捨てられなかった書物の(たぐい)や棚の一番上に置きやったままになってる片一方だけのビジネスシューズといった他の誰にも価値のないものばかりだ。

 妻は、わたしだけが大切にしてるものを見つけると夜明け前に傘をさし土手の上までいって埋めにいく習慣を、身につけてしまった。そして、埋めにいくには片手で傘をささなければならないから、雨の降る夜明けにしか出かていかない。

 だから、雨の降る夜明けは、わたしは眠っていてはいけない。

 土手に上がった妻が雨をよけるため片手で傘をさしながら余った片手で不器用に土を掘ってわたしの大切なものを埋めていく一部始終を見届けなければいけない。目に焼き付けなくてはいけない。

 わたしだけの大切なものを埋めるのが妻の務めであるように、妻の一部始終を見届けるのがわたしの務めである。それが夫婦というもの。それが連れ合いというもの。


 どちらかそれができなくなるまで、それを辞めるのは許されないことだ。

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