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あずき色の封筒に入れ、お礼にと送られた種子

 それを受け取ったのは二十代の後半だった。

 あずき色した厚々とした封筒で、なかを開くと処々が加工され見開きとなっている。右手に棚を置いたり前の方に袋を詰めたりと、ハサミとノリを駆使した手づくり感が満載だ。角をアールに仕上げた箱の蓋を開いてみると、折りたたんだビニール袋の中に種子が入っていた。皆んな同じ種子なのか判別できないが、アサガオよりも少し小粒の半月型をしている。袋の上から触ってみると、少し乾いて真ん中に窪みができている。このあいだの夏に咲いた花から取ったものよりは幾分か古く、あいだにはさまれた年月を感じた。袋を開け目を近づけしみじみ半月の窪みにできた皺を眺めると、なんだか遠目越しにミイラになった顔のようなものが透けてくる。以前にもこの種を()いたことがあるような気はするが、どんなに指で強くこすりつけても種の中からは糸のような白い煙を吹くだけでいっこうに口を割らない。

 これだけの細工を施しているのに、紙片(しへん)はひとつも隠されていなかった。


 封筒の裏側には、合併され同じ市内となった月潟(つきがた)の、名前は(いつき)と読めた。

 その名前の女の子とはかつて付き合ったことがあった。高校の時分は合併のある前で同じ校区にはならないはずだから、きっと大学になってからの付き合いだったのだと記憶の線を手繰(たぐ)る。なのにぼんやりした彼女の影は制服姿だ。髪をツインテールに束ねた紺地にスカートの女学生だ。

 わたしが通った県下一の伝統校の校章は、あずき色だった。

 柄は忘れたがあずき色だったのは覚えている。顔も姿もぼんやりしている(いつき)の胸についた校章は、あずき色がくっきりと輝いていた。

 記憶はあるから付き合っていたのは確かなのに、場所も時間も(いつき)との接点は感じられない。大学時代の文芸サークルでわたしが書いたバックナンバーをさまざまな掌を経たあと(いつき)の掌に伝わり、そのどれかを読み終わり、お礼にと家に代々伝わる種子を家人には内緒のまま丁寧な工作を施したあずき色の封筒に入れて送ってくれたのがいちばん理にかなっているように感じられた。

 そんな感慨に(ふけ)っていたら、横に本を覗き込むような妻の気配を察し、覚めた。



 

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