ご法度
これから私刑が行われるのは、おわりまで見なくても分かっていた。
やられる方ではなかったが、やる側の男たちよりもやられる側に立ったヒリヒリの息遣いが纏わりついてくる。
場所は、輪の真ん中にいる親分の屋敷なのだろう。そこの小学生の男の子が男の前に出されているのだから、多分そうなのだろう。
「た・・し、夏休みの自由研究の宿題、まだやったろう。お父ちゃんがおあつらえ向きのもの用意したから、安心しぃ」
その子の名前は聞き取れなかった。たカしか、たオコしなのか。多分、聞かれたくないと子供の方で隠したのだろう。些細だが、そんな仕込みが隠されているのを感じる。
親分は在りし日の成田三樹夫だった。
顔かたちよりも、あの独特の高い声がそれを確実に感じさせる。それだけがはっきりしていた。子どもも手下の男たちも、これからやられるであろう男の姿かたちさえ何かぼんやりしている。それが此処を支配している。はっきりしてるのは成田三樹夫だけだった。
子どもは父親である親分の言いつけどおり、男の両腕を、封を切り立てのサランラップを使って、がんじがらめにする。芯にまかれたサランラップを、男の身体を別の芯に見たて取り換えるように、最後まで使ってグルグル巻きにする。すでに男はすべてをあきらめ抵抗する気配はなく、痛さ辛さが少しでも和らぐことにすべての神経を傾けているから、親分の子どもは安心して、巻いている。
薄いラップが剝がされ少しづつ消化されている平らな心持で夏休みの宿題の自由研究の作業は進んでいく。澱みのない慣れた仕草だから、父親からは夏休みの自由研究とは別のお題目で、今までに何度も同じようなことをやらされてきたのかもしれない。
それを親分は、父親の体裁を取り繕う中で、おもいきり楽しんでいる。
手下の男たちにつくらせた濃いめの水割りを揺らせながら、楽しんでいる。
サランラップを巻いてる子どもやサランラップを巻かれてる男も入れて、ここにいる誰もが世の父親が楽しむ心持ちと同じであることを疑わずに楽しんでいる。
それを皆んなが、付き合わされているのだ、
私刑ている男はそれを一番に分かっているから、余計な感情を移入したりはしない。おのれを哀しむこともそうだが、夜なべ仕事の母親がボロの布を大切に繕うように、親分がおのれを繕ってる姿に寄り添うことが此処のご法度なのを一番よく承知してるからだ。
だのに、私刑てる。
だから、私刑てる。
巻き終えた子どもはいなくなっていた。
きっきまで、夏休みの宿題の自由研究だからとサランラップ一巻きで屈強な男ひとりの腕をがんじがらめにして身動きとれないように出来るか立証するため、親分は子どもに脇の下のコチョコチョをさせていた。
「研究なんやから、ちゃーんと本当やというためには、立証せんといかんやろ」
親分は立証という言葉が好きだった。何度も何度もそれを復唱し、その度にこどもはコチョコチョを繰り返す。その間、オジサンの符丁で呼ばれてる私刑る男は、何度もコチョコチョされた。
こどもが居なくなったから、予行演習だった猿芝居の終わりを告げるように屈強な手下ふたりが、私刑る男が悶絶前の最後の馬鹿力でサランラップを引き千切るヘマを起こさないか、確かめる。ぴったりくっついたサランラップにはこどもの指は兎も角、屈強な男の指は1本も入らない。
親分は子どもの仕事ぶりに満足する。もう、夏休みの宿題の自由研究なんて猿芝居のことは忘れている。
手下のひとりが「それでは」ともう一本の真新しいサランラップを男の顔に当てようと合図を送った時、「オイっ、そいつはまだいい・・・・そいつを立たせろ」と指示を出す。いま思いついたような顔をしてるが、随分と前から、それは用意していたのだ。だから、女がきている。さっき引っ込んでいった子どもが、バトンタッチしたように女が親分の横で待っている。
女は、親分が最近一番連れまわしてるカナコだ。
「おまえ、あいつのズボン降ろして、パンツ脱がせて、たたせてみろ」と、用意したとおりに命じる。カナコは驚きも嫌がりもせず、親分の指示どおりテキパキこなす。こんなとき、どんな体にせよ繕いものした演技を親分が嫌いなのを承知している女だ。事前の言い含めなどなくてもこうしたことをスムーズにこなせる女だ。その冷たさが目下のお気に入りなのを承知してる女なんだ。
「コイつ、すごいよ。はじめから、もう、勃っている」と、カナコのすっとんきょーな高い声が部屋に響く。
親分は、「あたりまえや、これから殺されるっチゅう極道はな、最後の仕舞の力をみんな集めてそこに貯めとくんじゃアー」と、カナコのすっとんきょーな声で張り付いた部屋の空気をかき消すようなキンキラ声で言い放つ。
言い放った親分の顔は「あんなすっとんきょーな声出しやがって、ここの静寂を破るのは俺のキンキラだけやってこと、あの女に教えとかんかったかな」と、邪魔された曇り顔に見える。それをいち早く見つけたカナコは、片手では余りある男のいちもつを両手を使ってしごき始める。
唇は親分があとで嫌がるだろうからと、わざとそっぽを向いてやっていると、「二度と顔みるやつじゃねぇから、やってやんな」と親分が言うので、すぐに頬張った。ほんとうはすぐにでもしゃぶりたかったのだ。
お預けをくってた犬のように我慢していた女のおしゃぶりの顔に親分はいたく心が緩んでくる。
カナコは、こうしたことを親分が喜ぶのをすぐに嗅ぎつける女だから、男の出した最期の射精のあとを長くて先の尖んがった舌に乗っけて、披露する。
「それっ、もう一度見てぇから、ラップ切ってやんな」の声で、覚めた。




