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片はらの痛さ

 (かね)にまつわるものだった。

 といって、大きなものではない。そのものが(じか)にというのでもない。全体に小銭の支払がまとわりついているものが綿々と繋がっている。そんな感じで移ろっていった。その中で拾えるものだけ拾い出し、ここにこうして並べてみる。


 大きなリュックを肩にかけている。

 イナバの白ウサギに出てくるオオクニヌシノミコトが肩に掛けている大きな袋のようなリュックだった。その中にひとひとりが入ってるような投影を袋の中に見ようとしていると本当に絵本のオオクニヌシノのハニワのような白づくめの身なりになりそうなので、それがただの大きな袋型のリュックサックで変わらぬよう定着させようと、力んだ。

 徒歩だけでテクテク、とうとうこんなところまで来てしまった。そうした事情や疲れを忘れるように空腹を全面に押し出して、二人前を注文する。中休めの休憩地には不釣り合いな路上だが、口に何か入れるまではテコでも動かぬゾと出前が来るのを待とうとしたら、すでに横の誰かにせかされたように私の分の調理は始まっていて、バケツリレーのような速さで汁物と飯物が交互に運ばれて、きたすぐ横から箸をさしスプーンをさして、がっつく。


 すぐ横で、出前の店員は何を待つ顔でもない顔で、わたしの食い終わるのを待っている。バケツリレーをしていたのはこの()()だったのかと何かのしみじみが湧いてきて、足元からあたまのてっぺんまで何度も往復するように見つめた。 

 むかしこういう()がいたなという風体(ふうてい)の、三角巾(さんかくきん)(かむ)った小太り(こぶとり)の、ぽっと出たての若い(むすめ)だった。

 待っているのは、食べ進めている丼鉢(どんぶりばち)もあるが、お(だい)という金なのは分かっている。それに気づいてないように「待ってろ。早く食い終わるから」と横目で合図を送りながらも、あたまは金のありかを探している。

 持ち合わせていないわけではないのだ。

 出かける前に貰らった先月の給料袋そのままを二つ折りにして、リュックの下の方へ押し込んであるのだから。しかし、こんな路上に、リュックを逆さにぶちまけて、そこからいちいち拾い出すのはどうかと悩んでいるのだ。

 だったらポケットの財布はとなると、からっきしの(から)である。

 カードは入っているが、現金はない。この先のブロックの十字路を挟んだ向かいにカードにあった銀行はあるが、そこまでのことわりを食い終わったあとどのようにこの娘に因果を含められるか、それを考えただけで骨が折れる気がしてくる。

 なにしろ相手は、ぽっと出だから、店の(あるじ)から出前に出る前の「食い逃げに注意しろ」は耳にタコができるほど聞かされているはずだ。「それでさぁー、お願いなんだけど」と因果を含める()だしの先でも触れたあかつきには、すぐにキッと食い逃げの一瞥(いちべつ)を返して呉れるに決まってる。

 そんな一瞥がちょっとでも刺さったら、一生消えないその()の手形がくっきり背中に残りそうで、それがたまらなく嫌なのだ。


 すると、こんなときには、するりと横から模様替えの展開が差し込まれてくる。

 それが分かっているわけではないが、導かれるように大きな袋型のリュックサックの固く縛った紐を、緩めて、開けると、一番うえに、何代にも渡る会計係が引き継いでいった茶封筒が見えてきた。茶封筒の中身は、その体裁どおり、通帳と印鑑それに千円札2枚の混ざった小銭が入っている。千円札も混ぜて小銭と読んだのは、既によこしまがあたまに入いってそれを誘っているからだ。

 何の会計係か分からぬが、いっときの肩代わりであとで同じ分を戻せば変わらぬこと。小銭が変わるわけはなしと現金の融通性に安心したら、片腹の痛さから覚めた。



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