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スイカみたいなトマト
何か途中下車のような格好で降りて、そこにしばらく居たら、いつの間にか落ち着てしまっていた。
明るい小振りの円卓を何台も置いた賑やかな宴で、皆んな陽気に出来上がっている。漆喰壁を背にステージ仕立てにした中には、背丈は低いのに大きなソンブレロを被った4人の男たちが大小様々のギターを奏で、歌っている。硬質のギターの音色とねっとりしたスパニッシュの調べが、メヒコの寒村を舞台にした60年代のマカロニウエスタンみたいだ。
男たちが飲んでるのはきっつい酒だし、女たちはこぼれそうなほど肉感的なのに、どの卓の上にも肉はない。むろん魚もない。メヒコの寒村を舞台にした60年代のマカロニウエスタンにビーガンなんてひとりもいないから、ただただ貧しいだけだ。
それでも、くり抜いたスイカのようなトマトの果肉が絞りたてのジュースみたいなオリーブオイルで絡めてあったら、皆んな満足だ。そこに、粒ごとのケッパーが浮かんでいれば言う事はない。
小振りの円卓には赤い艶やかなトマトが添えられて、皆んな、華やかで幸せなきぶんに浸っている。
「このトマト、スイカみたいに作れるんだったら、今度はうちの畑でもやろうよ」の日本語が聞こえる。どうやら妻の声だと探ったら、覚めた。




