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毎日の同じことを平然としていられるひとたち

 依然暮らしたアパートで、ゆきの浅い押し入のため三つ折りした布団が入らず無理やり四つ折りで詰めこんでいたことが隙間から溢れ出て、書き留めてみました。

 2時8分に目が覚めた。このまま朝までとあきらめていたら急に寝落ちして、それがパラパラ漫画のために写した単体写真のように睡り(ねむり)目覚め(めざめ)上手(じょうず)に繰り返し、あれよあれよのうちに朝になった。

 朝日を浴びた眩しい天井は、大きく「がらーん」の声しか聞こえない田舎の空き家だった。ほかに何も残っていないが、布団だけが此処で一夜を明かした者の数だけたくさんに敷き詰められている。昨晩から南魚沼と柏崎の青年団が主催した泊まりがけの婚活イベントがあったらしい。各々が三十四十の男女なのに乱れた布団はひとつもない。此方(こちら)は気を利かしていい具合に混合したのに、そうしたことには(つゆ)の毛の先ほどもはみ出してこないから、こんな親世代になってまで青年団と名乗ってこんなことまで世話していかなければならないのだと思った。

 そんなことをブツブツ腹の中で言っても始まらないので、もう朝を迎えたのだからと敷いたものの片付けにかかる。部屋を出ずに立ちすくむ(やから)がまだ5人残っているので、あんたらお客さんなんだからほかにすることあるだろうと追い立てるように畳み始めた。

 がらーんとしたのを合図にほかの青年団の面々がやってくるはずと踏んでいたのに誰ひとりとしてやってこない。わたしのほかにも掌はあるだろうと読んでいたのに一向に手伝いに来る気配はない。仕方なく、仏間もぶち抜いて拵えた大広間の布団を、ひとりで、順々に三つ折りに畳んでいく。持ち上げられる一杯まで積み上げて、二間両開き(にけんりょうびらき)の押し入れに詰め込もうとしたら、ヘリから10センチはみ出している。押し入れの尺がひとつ狭かったのを予め(あらかじめ)調べておけばよかったと思いながら、いったん上げたものを引き戻し再び四つ折りに畳み直してから積み直す。やっと、頭一つ高くなってシュッとした布団のかたまりを拵え直しらえたら、頭の周りはヤレヤレヤレヤレの声しか回っていない。

 布団の片付けだけでまだまだ十分の一も終わっていない。

 田舎の古い空き家だから、もう一つ六畳間を作れそうな広い廊下をまたいで大広間に戻ると、セッせセッせと布団を畳んでくれる人が現れていた。やっと違うヤレヤレが聞こえてきた。

 その男は、わたしよりも二回り若い。さっきのお客さんの5人のうちの誰かが、「あのおじさんが宿屋の人でないように、うちらだってお客さんじゃないんだ」と、気を遣って戻ってきたのだろうか。いさめてやらねばと、近づいたらそうではなかった。

 むかし親会社から出向という形で現場修行にやってきたエリートの若様だ。わたしは、あれから、随分と(とし)をとったのに、若様は相変わらずのようだ。いまでも、現場修行は手を抜かず誠心誠意打ち込むものと、あの頃の社長が言った訓示を一時たりと忘れずに布団を畳んでいる。

「おはようございます」と、向こうから先に挨拶の声をかけてきた。「今朝もいい朝ですね」と奥にハマった小さな目が笑っている。わたしも、おはようございますと返す。いまはどうか分からないが、当時はわたしよりも二つくらい上司だった人なので、敬語以外は発せられない。 ー こんなたくさんにびっしり敷かれたの布団なんてなんだか修学旅行を思い出しますねぇ ー などの戯言(ざれごと)が続くことはない。


 ・・・・・だけど・・・・・・やっぱり・・ねぇ・・・・


 わたしが横にいることなど露の毛の先ほども気にしてない若様が畳んで積んでいく布団は、当たり前だがどれも三つ折りだ。あんなとぐろを巻いたような四つ折りをはじめから始めるものはいない。此処でそれを教えるべきか、それとも知らんぷりして先ほどのわたしのように山のように積んだひとかたまりを長い廊下を渡った先の押し入れ部屋までヤレヤレと運んだのち、どんなに奥まで突っ込んでも押し入れの襖から10センチはみ出しているのを横目で見て、このまま明日まで開きっぱなしのわけにはいかず、あーぁーとぼやきながら、上げたものを再び降ろして、もう一度押し入れの前で三つ折りに畳み直すの方がいいのか。

 迷うことなく、言わずにいる方がいいと思った。畳み直しはどのみちやらなければいけないことなのだ。「少し先の未来で少しめげる事態が待っている」と、それをあらかじめかいつまんで説明しなければいけない。朝いちばんの仕事にそんな手のかかることを混ぜ込むのはホント面倒だ。なんならわたしがもう一度代わって持ち運んだほうがよほど己れの身体には楽な気さえする。


 わたしは若様に背中を見せたまま、己れが持ち場と決めた分の布団を畳み始めた。もちろん、もう慣れてしまった四つ折りを、すとんすとんと繰り返す。とぐろを巻いたような四つ折りは目に入ったはずなのに、若様は一向にその不格好を気にする様子はない。むかしからそういうひとなのだ。


 長い廊下を渡るきしきしの足踏みが遠のきしばらくすると、あーあっーあぁーの声が届いた。思った以上に一息の長い、少しためのはいった嘆息だった。それでも、すぐにそんな臭い息の声を出したことさえ忘れて四つ折りに畳み直すだろう。先ほどわたしが畳んでいたとぐろを巻いたような不格好な四つ折りは目に焼き付いてるはずだ。不確かではあるが、ふたむかし前にもそんなこんやが繰り返される同じシチュエーションが幾度かあった感覚が蘇ってくる。

 きっと、畳み直してが終わればすぐにこちらに戻って手伝ってくれるだろう。手伝うなんていったら、「失礼な、わたしは私の持分の仕事として誠心誠意やっているんです」のキッとした目でわたしに緊張感を与える仕草を仕掛けてくるだろうか。なにしろ、二つくらい上司だった人だから大昔に聞いた社長の声だってたった今すぐ近くで聞いたような聞こえてるはずだ。


 あのひとも、今朝のお客さんたちと同様のひとりもののままのはずだ。何を踏んでもめげずに忘れ同じことの繰り返しの毎日にも平然と生きていられるひとたち












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