表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/231

ここは屋根裏につくった社員食堂だ

 デパートだったと思う。いまのように各階各フロアーにテーマだとかコンセプトだとかを掛けずにただただ輝かしい商品別に間仕切りしただけの、売り物が客を捕まえていたころのデパートだ。むろん紳士服売場を除いて客いきれがむんむんしている。久しぶりに()腋臭(わきが)のツンとした匂いに辟易し、エスカレーターに掴まりながら上へ上へと逃げてきた。エレベーターは途切れ、ここより先は階段かと見回すと、用意よく半分開けた防火扉の隙間から隔壁で仕切られた暗い暗室の中に階段が一本のぼっている。むかしの梯子段よりも始末の悪い、手を添えなければ落っこちそうなものに掴まりながらのぼっていく。一階二階の積み上げよりはもっと長かったように思うが、ひとつふたつの勘定はしなかったので、ここまでの道のりがホンモノなのかは怪しい。

 どんな場所であっても、兎も角も「着いたぁ」の突き抜けた達成感がまず先にきた。これも山登りのようなものだから、そうした達成感は頭を少し広げてくれる。自分がその中にいることも勘定にいれて初めて見る景色を現実のものと組み立てなければならないときには味方になってくれる。

 まずは、天井が異常に低かった。屋根裏というよりも配線のためだけに置いたダクトくらいに身体を起こすどころか這いつくばらなければ身動きが取れない空間だ。ただ、梯子段の時と違いあたりはめっぽう明るく、目当ての先を案内してくれるので、それに従い膝行(いざ)っていけばいい。ここまで上がった不審者をふるい落とすために長く見せているようだが、辿り着いてみればそれほどの彷徨を感じることはなかった。

 社員食堂のようである。フロアーの入り口にそう書いてあるのだからそうなのだろうが、そうした機能に徹した意匠を感じない。かなり広めの間隔を空けてオーク色した重厚なドアが並んでいる。膝行(いざ)ったときに腹に付いただろうほこりを払い、奥に向かって歩き出す。静かである。こうしたところが賑やかでないのも社員食堂ではなく最上階の役員室然としている。

 ところが、他の役員よりも格上の社長然としたフロアーに一歩先んじた途端、映画館のスクリーンを変えたように丹波哲郎の声が響いてきた。ドアを開け放した社長室からは、一番大きなボウルにホイッパーでかき混ぜながら大きな鼻歌を歌っている丹波哲郎が見えてきた。もちろんキィハンターの主題歌だ。ショートブリムハットではないが、一番高そうな一番偉そうなコック帽で楽しそうに団子の下ごしらえをしている。

「今日はまかないの日なんだよ、社長が社員にお昼を振る舞うんだ。まだまだお腹に入るだろうから、あなたも一緒に食べていきなさい」なんてあの声で誘ってきたらどうしようと悩んでいたら、廊下を挟んだ隣の部屋は全身黄緑服を着た石立鉄男が同じく一番大きなボウルにマッシャーをごりごりあてながら、歌っている。芋を潰すマッシャーのゴリゴリが混ざっているのか、わたしがその曲をよく覚えていないのか、コメディーっぽいのはわかるのだがメロディーまでは伝わってこない。曲なのか番組なのかどちらか片方でもいいから思い出そうともがき始めたところで、覚めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ