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赤いキャベツ

 深夜だろう。時計を見ると眠れていない時間をはかるようになるので見ないようにしている。隣の妻は眠っている。夢を見ているかどうか分からないが、ホンモノでなければ立てられない気持ちいい寝息が聞こえてくる。すると、寝返りをうった口元から何かが(こぼ)れてきた。ふんわりやドロリでないかたちのあるもののようだが、灯りがないのでそれ以上は分からない。それ自らが発光でもして呉れたらと願っていたら、脅かさないよう気遣うように薄っすらぼんやりを(とも)しはじめた。

 少し肉厚の葉っぱを丸めて(たま)になったかたちはどう見たってキャベツだ。が、なにしろ小さい。妻の小さな口の、それも寝息の隙間から零れるくらいだから、親指の先ほどだ。芽キャベツなのかと細分した名を冠して近づいてみると、それが気に入らなかったのか、厭々(イヤイヤ)する仕草で少し大きくなった。うつぶせで拳固をつくり眠っている妻の左手に合わせるように大きくなった。赤色は変わらずキャベツなのも変わらないが、食べられるために此処に来たのでないことははっきりしている。大きくなるのと一緒に数が増えている。数えるのが間に合わないが60は超えていそうだ。50と目踏みしてあともどんどん増えてきているからそういっただけで、本当は71なのかもしれない。

 発光する力があるなら部屋をもっと明るくしても良さそうなのに、何時かわからぬ深夜をわきまえて手元より大きく灯りを届けない。だから、傍の男の子と女の子が毬を選ぶように赤いキャベツを物色する仕草が近づくまで、それに気付かなかった。女の子は色は分からないが重そうな緞子(どんす)で、男の子は洗い続けた縞の(かすり)兵児帯(へこおび)を締めている。髪型は、女の子はおかっぱ、男の子はもちろん坊主だ。あとはそういった時代背景の(たぐい)を外さない格好(なり)で、両手に持った赤いキャベツを、捨てては拾い、捨てては拾いを繰り返している。

 すると、急に外が明るく騒がしくなった。朝を迎えるのかと思ったがそうではなく、此処がどこか別の小さな場所に移動したらしい。それをしっているふたりの(わらべ)は、先程までは赤いキャベツだった毬を付いている。幼い時分から付いていたのか妙な堂に入ってる。毬付きの邪魔をしないよう毬に選ばれなかったほかのキャベツは消えている。妻も消えている。多分、もうじき私も消えることのなるだろう。模様替えは済んで、ここは(わらべ)ふたりが籠る(ほこら)なのだから。

 外の明るさと騒がしさは詣でる老婆なのか備えものの実物野菜(みものやさい)なのかと頭を向けたところで消えて、覚めた。

 


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