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銀鼠
実物を見たことはないが、銀鼠の江戸小紋だった。それを着た女の胸に小刀が刺さったとき、刃の照り返しに渋い銀の粒が輝き、揺れた。心臓をまっすぐにえぐったと思う。しっかりと締めた帯で持ち上がり秀でた胸のちょうど真ん中に小刀はブスリの音を立てたまま立ちすくんでいる。
懐刀ではなく、短いがしっかり鍔のついている小刀だから、おのれの掌で自らを殺めたのではない。刺したものの姿はすでに消えて、女ばかりがまだ灯りの中にいる。こうなってはこと切れるよりせんない中で、まだブスリの音で立ったままの小刀に合わせるようにすっくと立ったままだ。
が、相手に小刀を抜かせたのも、覚悟を固めさせたのも、そのまま「えいっ」とぶつかるようにいかせたのも彼女の指図なのだから、女のひとり芝居で済ませてもよかったのだ。弾けるような銀鼠まで新調して、お膳立てしているのだから。
しかし、現実は、緞帳は降りてこない。ほかの誰ぞの指図がないのなら、こと切れても女は立ち竦んだまま居続けるよりほかあるまい。




