親たちの前夜祭
「いよいよ明日ね」
息子からおくられてきたウイスキーを傾けながらしみじみと語る。
ここはあの子供部屋だった小屋。
今はめったに使われることのなくなったここは四家の会合が行われる場として使用されている。
今日は四家の奥さんたちが集まっていた。
あの事件〈スキャンダル〉から娘たちに制限をかけて早12年。
あきらかに気落ちしてしまった娘たちはそれでも普通の近所付き合いで我慢しようと頑張ってそれぞれの道へと飛び立って行っている。
何人かは未だ実家暮らしだが家事手伝いではなくちゃんと職を持っている。
「あのことがなかったらどんな今だったのかしら」
ぽつりぽつりとどの奥さんからかわからない呟き。
見ることのできなかったifルートを今更考えても仕方ないがそれでも考えずにはいられない。
あれから姉妹たちは弟をかまえないことへのストレスを原動力に燃えた。
また弟をかまえる日を夢みて頑張った。
その頑張った結果が今だ。
その今にはどこに出しても恥ずかしくない立派な娘たちがいた。
あのまま弟優先で生きてきていたらここまでの女傑になっていただろうか。
「これだけの時間があったんだし誰か一人ぐらい家庭を持っていてもおかしくないんだけど・・・」
結局姉妹たちは親たちの制約の隠しメッセージを誰一人受け取っていない。
いや聡明な姉妹の中には気づいたものがいたかもしれないが。
それにはたから見れば仕事一筋になりすぎて結婚を考えられないというのも考えられる。
そのつぶやきにため息をついたのはどの親だろうか。
「でももう皆大人なんだし今更私たちがでしゃばるもんでもないわよね」
そう。
女傑になっただけではなく上はもう三十路・下だってもう二十台後半に差し掛かる年。
親がどうこういう年はとっくに過ぎている。
「この先は息子と娘たち次第」
「そうよねぇ」
「とりあえず私たちの監視は明日で終わり」
「なにかセレモニーする?」
「長女たちが明日なにかを企んでいるみたいよ」
「じゃほっとこう」
「そうね」
「とりあえずどうなろうと私たちは友達であり家族である認識は変わらないしね」
「「「違いないね」」」
そう言うと朗らかにそれぞれのコップにおかわりを注ぐ。
もう一度乾杯をして堅めの盃とするのだった。