果樹園会合 5
しばらく杏の興奮は冷めなかった。
オタクが自分の興味あることをしゃべっていいよといわれて止まらないのと同じようなものだ。
その状況をすんなり受け入れられるのは同じ趣味を持った者のみ。
ついていけなくとも仕方なしである。
しかし今回は一人のフィギュア造形師についてのことだ。
アイドルとかじゃないんだし作った作品についてならこんな感じの人もいるかもしれない。
姉妹たちも弟についてならばこんな感じだったかもしれないが。
ようやく落ち着いてきたという頃合いで会合の発起人たる梅が仕切りなおしを行う。
ちなみに尋問する側の主役だった檸檬はいまだ杏の豹変ぶりに声を失っている。
「え、えっと棗。それでその黒樹がどうかしたのか?」
「う、うん。じつはね。私の作品で蜜柑がイラストを描いてくれているのがあるじゃない」
「ん?ああ、なんかそんなことを言っていたな」
「もう・・・梅姉は相変わらず樹ちゃんと仕事にしか興味ないのね」
「すまんな」
「まあいいけど・・・その作品が人気になっちゃったからヒロインのフィギュアを作ってもらえることになったわけ。で、担当者が頑張ってそのフィギュアの作成を黒樹に依頼してく」
「ずるい!!」
話の途中の乱入者は杏である。
ようやっと落ち着いたかと思われたが復活してしまった。
話の内容から仕方ないといえば仕方がないのかもしれないがこれでは話が進まない。
興奮ぎみの杏さんをおさえるにはちょっと力ずくじゃないとダメかもしれない。
「・・・ちょっと苺。杏をしっかり捕まえといて」
「り、了解」
やむを得ず一番体力のある苺が力ずくでメイン会話を行っている場所から離す。
そうしないと話の途中で何回も乱入されかねない。
「・・・コホン。棗つづきお願い」
「う、うん。依頼してくれて無理じゃないかと思っていたんだけど受けてくれたんだ」
「あ、私のほうも同じ感じなの。私の漫画も棗姉と同じように人気が出たからヒロインのフィギュア化の話が出たの。担当者がとりあえずは勢いのある人気造形師から声をかけていってくれて最初のほうに声をかけてくれていた黒樹さんが応じてくれたの」
林檎も口をはさむ。
どうやら棗・蜜柑組と林檎は別ルートから黒樹にたどり着いたということらしい。
「で、感謝もかねて担当者から住所を聞いて訪問してみたんだ」
「ふむ。黒樹とキミらの縁がつながったのは分かったがそれがどうして私たちの質問の答えに繋がるんだ?」
「勘のいいお姉ちゃんの中には気づいている人もいると思うの」
勘のいいお姉ちゃんなら気づく?
何を言っているのか。
ここまで得た情報だとほぼ黒樹との繋がったきっかけだけなのだが。
そう思って田舎組とは別の姉妹たちは顔を見合わせる。
だがちょっと待てと。
こんな重大な会合でまったく違うことをはなすだろうかと。
気づいた姉妹たちは次々にハッとする。
あまりの運命に戦慄さえ覚える仮定にたどりついてしまった。
「ま・・・まさか・・・」
「うん。たぶん梅姉たちの思っている通りだよ」
息をのむ姉妹たち。
ゴクリという音が小屋に静かに響く。
その音をスイッチに棗がさらなる正解という爆弾を落としたのだった。
「黒樹の正体こそが私たちの弟・樹ちゃんだったんだよ」