集合 仕事組
「危ない危ない。あやうく12年の耐え忍びを無にするところだったわ」
「ほんと。あれほどマネージャーに今日は仕事入れるなって言ったのに」
「・・・・・・・」
約束の時間30分前になってあわただしく最後の一団が到着する。
仕事場からそのまま来たのであろう。
余所行きというか仕事着というか普段使いするにはちょっとためらう華美な格好をしている。
仕事だったから遅れた。
一般的に遅刻の言い訳としては無難の域に入るその言葉は今回の会合においては成り立たないことは百も承知。
一分でも遅れれば他姉妹から糾弾されて村八分にされるのは目に見えている。
「お前の弟・樹への想いはそんなものなのか」と。
危機感をあらわに入ってきたのは白木家三女・白木檸檬。
生まれながらのアニメ声と血の滲むような努力の末上り詰めた人気・実力ともにトップを走る声優さんだ。
アイドル声優として十分やっていける容姿を誇っているが本人はそれを拒否し今どき珍しい顔だしNG声優として声の実力のみでトップを走っている。
その心意気をファンも組んで『七色ボイスの謎姫』と通称している。
白木家次女の双子の妹である。
マネージャーに悪態をついているのは赤木家三女・赤木柚。
こちらもアイドルとして十分やっていける容姿を持っているが容姿込みの人気を取りたくないという本人の意向から常に被り物をしている人気歌手だ。
時代を逆行するような曲目が多くムード歌謡やいわゆる昭和歌謡曲みたいな曲調を軸に活動するがなぜかカルト的な人気を得ている。
声質が老若男女を選ばず魅了するものであるらしい彼女は『時代を間違えた歌姫』と有名司会者からあだ名をつけられそれが一般に広まっている。
二人に続いて最後に黙って入ってきたのは赤木家次女・赤木胡桃。
姉妹の中でも特に異質な存在である。
一応仕事は作家であるがこれはあくまで日々の糧を得るためのものに過ぎない。
彼女の悲願は万能になることという漠然としたもので仕事はあくまでオマケ。
万能というのがなにか分からないが今日も今日とてとりあえず国での万能性を高めるため資格取得の勉強の方に重きを置いた生活を送っている。
片手間でやっている仕事の作品ジャンルは官能・・・しかも生々しい描写の姉弟もの・・・こちらの闇も深い。
事実胡桃は姉妹のなかで群を抜いて樹にべったりであったしその具合は他姉妹から度々止められる具合であった。
三長女の暴走がなければいちばんに手を出したのは間違いなく胡桃だっただろう。
樹との関係がこうならなければというイフな想像(妄想?)をそのまま描いたのが彼女の作風だがこれが受けて官能小説史上もっとも売れた作家となってしまっている。
片手間の仕事なので他の作家さんに失礼とのことで姿を見せるのはNG。
メディアに出ないことと作風から『禁断の小説家』と呼ばれる。
こうして12人の姉妹は一同に集まってしまったのだ。
時刻はもうまもなく約束の午後6時を迎えようとしていた。