集合 長女組
「ふむ。流石にまだ誰も来ていないようだな」
午前9時。
しかも平日。
わざわざ有給休暇まで使って小屋に最初にあらわれたのは赤木家長女・赤木梅である。
事件〈スキャンダル〉後一番反省をした彼女は親の言いつけを守ると同時にさらなる猛勉強。
最高学府の法学部に進み、司法試験も一発というとんでもない成績を修め弁護士となる。
検事からも恐れられる凄腕となった彼女は冷たい印象も相まって『法曹界の氷の女王』なんていう二つ名がついていたりする。
とても未成年の弟に迫った人物とは思ない変貌っぷりだった。
「あらぁ?もう来ていたの?」
五分後入ってきたのは青木家長女・青木桃だ。
こっちもしっかり有給休暇での参戦。
なぜか黒木家の母親に似てしまったがれっきとした医者・内科医である。
こちらも事件〈スキャンダル〉後猛勉強をし最短で医者になるという離れ業である。
現在は町の総合病院でそれなりの地位にもついているが今日の会合の結果いかんではすっぱりやめて
樹についていこうかなんていう支離滅裂なことを考えているちょっと問題ありな人だ。
ちなみにこちらも患者さんに対しての対応の丁寧さや患者さんからの人望の厚さから『白衣の聖母』なんていう大層な二つ名がついていたりする。
「・・・・・・」
桃と同時に静かに入ってきたのは白木家長女・白木杏。
昔っから物静かだった杏だが実は事件〈スキャンダル〉を決行しようと持ち出したのは彼女だった。
一番樹を可愛がっていたという自負からの暴走だったそれに他が追従したのがあの日のあらましだったりする。
彼女もまた制約によって失意のどん底だったが昔樹が書いてくれた似顔絵を見て一念発起・現役で美大に合格。
在学中に水彩・油絵・版画・CGと様々な分野で才能を開花してその独特の感性を作風を完成させていっている。
現在は作品を作れば作るだけ売れる売れっ子画家になっている。
人前であまり喋らないことや作風が人を引き付けるものの独特すぎることから『寡黙な不思議ちゃん』という二つ名が付けられている。
「そういうお前もずいぶん早いな」
「それをあなたが言うの?まあ仕方ないわよね」
「(コクコク)」
もう三人とも三十路ぎりぎりというところまで来ている。
それでも弟を・樹を忘れることはできなかった。
近寄ってくる男はそれなりにはいたが結局一緒になりたい・可愛がりたいっていうのはいなかったのだ。
「ああ。ま、どうせ仕事も手につかないし」
「部屋に一人でいても、ねぇ・・・」
「・・・そわそわして落ち着かない」
三人想いは一緒である。
仕方がないといえば仕方のないことだ。
「一応全員にメールは送っているけど何人来ると思う?」
「あの文面じゃあねぇ・・・。何人かは来ないかも・・・」
「・・・少ないほうが好敵手減っていい・・・」
今回この会合を開こうと招集をかけたのは実に半年も前である。
そんな前から今日の日を楽しみにしていたのだ。
標的たる樹はそういえばレベルの認識で近所の老人会の手伝いに行ってしまっていたが。
「ま、今日この後わかることだな。時間までゆっくりしよう」
集合時間は午後六時。
まだまだ高まっている気持ちを静めるには時間はたっぷりだ。
そう言うと梅はスマートフォンを取り出し半年前に送ったメールを読み返した。
そこには簡潔にこう書かれていた。
『12年の制約が切れるその日、まだ我らが弟・樹に未練あるものは小屋に集まれ』