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俺の出会いのテクニック3

「というか、そういうの、いいんで」


「え?」


「もっとないんですか?誰もが見て驚くような、聞いて憧れるような、まさに特殊能力みたいなテクニック!」


そう、心意気などでは、所詮人間動かないのである。相手がいくら受けの体勢であっても、思ってるだけでは、心得ているだけでは変わらない。単純で明快な行動でない限り伝わらないのだ。


「まあ、あるにはあるんやけど...」


「うえぇえ!?...あるの?」



「相手に触れながら名前を呼ぶだけで自分の事が好きになる、とか」



「え、ちょーすげー!」


まさかのとんでもテクニックだった。テクニックというよりもはや超能力に近い洗脳だが、そんなことを考える理性やら正義感やらは抜け落ちていた。言葉による衝撃。これぞ、俺の求めていたものだ!


「で、どうやったら使えるんだ!?」


「慌てんな、やかましいのー。ええか、これは超序の口のテクニックや。初対面ではハードルが高すぎるから、そこそこ仲のええ相手にしよう。その子にな、“◯◯ちゃん”って呼びながら体のどこかをポンと触る。するとあら不思議、その子がおまんの事をすきになるっちゅーわけや!」


いや、うさんくさ!


「けど、それさえあれば、俺は誰よりモテモテになれるぞ!」


「せや、しかしええか?...これには時間制限があってな、わてがこのテクニックを授けてから1時間しか効果が保たん。その間に、何とかして彼女にアタック(物理)決めるんや!」


「よ、よーし、わかったぞ!」


「(まあ、本当は時間制限なんてないけど、面白そうやから本当のことは黙っとこ)それじゃええか、始めんで!」


「ま、待ってくれよ。女の子を呼び出してからじゃダメか?」


「ああ、あかんあかん。もうテクニックの伝達は始まってんねん。それにもうちょっとでコンプリートや。それはわてが教えたるさかいに、はよ呼ぶなら呼びや」


「わかった」


俺はありったけの連絡先を参照し、手当たり次第に声をかけた。数うちゃ当たる。的になってさえくれれば100発100中。こんなタイミング、逃すわけにはいかない。


しかし返信があったのは数人だけ。その中で都合がついたのはたった一人。こいつは幼なじみというか、小さい頃から仲がよかった友達の一人。明るいし、ノリもいいからついつい気軽に話してしまう。それが良さでもあるのだが、気を許しすぎて女性と呼ぶには違和感がある。いや、語弊があるな。理想の女性像とか、彼女にしたいタイプとかそういう漠然とした印象ではなく、空気感や波長が完璧に絡み合っているからこその特別枠というか...


「(程のいいキープやん)」


いや違うから!やめてくれそういうの!


タイムリミットも迫ってきたところで、ようやく現れた。程よく褐色に染まった肌に映える白ワンピース。デニムジャケットを袖を通さず羽織り、体中をひらつかせながらサンダルで駆けてくる。ファッション的にどうなんすかね、よく知らないですけど。

やや大きめのサングラスを勢いよく外し、


「どう、待った!?!???」


弾ける笑顔で俺に問いかけてきた。そうとう待ちました!徒歩2分の距離を45分以上かけて来るんじゃないよ。まあ突然呼び出したのは悪かったけど。


「ごめん、ごめん。準備に時間かかっちゃってさー。でも、突然呼び出すんだからびっくりしたよ!まあ、いつもこんな感じだったけどね。あー暑い暑い!」


1返事を待ったら10くらい飛んでくるこいつは、一ノ瀬愛美(いちのせめぐみ)。友達の中でもかなりフレンドリーなやつだ。ただこいつはいつもと雰囲気が違っていたのだ。


「おい、どうしたんだ今日は。てっきりいつもの格好で来るかと...」


「えへへ、まあ、私だってたまにはこういう服も着たくなるんですよ!」


違和感というのは、年中無地シャツにジーンズという色気も何もないコーディネートのこいつが、正しいかはさておきそれなりの見栄えがする服を着てきたということだ。


「どう?...似合う...かな?」


軽く俯きながらはにかんで見せる一ノ瀬に、俺は動悸を感じていた。不整脈...!


しかし、これはチャンスだ。こういうとき、大抵は何を言っても笑って返してもらえる。相手を褒める言葉なら尚更だ。つまり、多少攻めた行動を伴った言葉を投げかけても、俺が舞い上がった末のアプローチだと捕らえられ、邪な印象は与えにくい。なんとも素晴らしいタイミング!残り時間を考えれば、これを逃す事はできない。今しかない!


俺は半歩前に出て、やや震える右手を突き動かし、一ノ瀬の方へ狙いを澄ませてごく平凡な言葉を投げかけようとする。


“相手に触れながら”。俺は一ノ瀬の肩に手を置いた。一瞬だが一ノ瀬の震えを感じた。そりゃあ驚くだろう。突然のアプローチだ。こんな事したことないから。だが、ここでやめるわけにはいかない。さあ言え、名前を、俺!


「似合ってるよ、一ノsbぶぅえええええええ!」


突然の右!それは彼女がオーバーヒートした末の自衛行為!元来のわんぱく娘、ここに発揮!

左頬を殴られたせいで地面を2、3回転がった。これは失策だった。こいつの右は天下を取れる、泣かせた男は数知れず。それを封じていなかったのだ、左手でいくべきだった。なんという、あるまじき。


「も、もう、照れるなー!!」


体をくねらせてはいるが、どう見ても照れの領域を超えている。反撃した時点で照れではなく手入れである。うわしょーもな。


だが、俺はやったぞ。名前を言ったんだ!

殴られはしたが、明らかに一ノ瀬を呼んだ!そうだろティ◯ァール?判定は!?


「(アウト)」


アウトォォォオオオオ!

いや、呼んだでしょ?


「(一ノ瀬ではなく一ノsbぶぅえやったんや。)」


そんな殺生な!?


「(こいつが一ノsとでも呼ばれとったらOKやったんやろうけど)」


あ、ついさっきこいつのあだ名は一ノsにしたんだった!


「(アウト)」


アウトォォォオオオオ!


落胆する俺をキョトンとした顔で見つめる一ノ瀬。くそう、ちょっと可愛いじゃねーか。手のひらで踊らされたのは俺だったというわけか...

絶対に真似しないでください。万が一右ストレートが来ようとも、左フックが来ようとも、当方は責任を負えません。あしからず。

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