俺の出会いのテクニック2
くすんだ白色のティファー◯みたいな楕円形に手足の短い人外生物。そいつがいうには俺に特別なテクニックをくれるらしかった。
といっても、あそこで会ったがそれっきり。2日も姿を見せていない。まあ元々本気で信じちゃいなかったし、対価だか代償だかも払った覚えはない。ならいい思い出だったということで、何もなかったということで終わりにするとしよう。
「勝手に終わらすな、こわっぱめ」
「ああ、出た」
「ああ、で終わらすな。もっとリアクションをだな?」
「そんな得体の知れない偽◯ィファールに何を」
「偽言うな?...それはお前のさじ加減であって、その電動瞬間湯沸かし器に喩えるからそうなるのな?」
「そんなことより、俺に最強モテテクニックを伝授してくれるんじゃなかったの?」
「ああそう。その話や。その前に腹ごしらえせんか?...もう腹も空きすきのすきや」
「腹ごしらえ...水?」
「しつこいわ!」
適当にうどんを茹でて醤油と油で焼いて出してやった。鰹節を入れすぎてモチモチしてしまったが大丈夫だろう。美味しいし。
「ふん。ソース味やないから減点や」
「で、本題に入ってもらっていいですか?」
「なんや忙しないやっちゃのー。ええか、人、男とゆうもんはなー」
「いいから!」
「...あんたぁ、なかなか相手と出会いがないって思うとるんと違うか?」
「出会い...まあ、たしかに。可愛いな、っていう人は見たりしましたけど、話したりすることもありましたけど、友達になる以前に途絶えてしまうことが多いですね」
「すると、いい人いないかなーなんて愚痴をこぼしながらのうのう生きよるねや」
「愚痴はこぼしませんけど、まあ当たらずも遠からずで」
「そこやな。第一歩は」
「え?」
「ええか、恋愛の基本はな。”いかにして相手に売り込むか“なんや」
『いかにして相手に売り込むか』とはどういう事か。初対面の人には会話のきっかけを。挨拶友達には連絡先の交換を。友達には親密さのアピールを。
「つまり、自分の現状の一手先を狙って動くってことですか?」
「んん、その表現だとスモールステップの要領やな。まあええわ、それならそれで」
「スモールステップ?」
「読んで字の如くや。仮に恋愛において付き合うをゴールに設定するとしよう。すると告白という分岐点までにイベントやら自分の行動やらが過程として存在する。その一個ずつを目印にちょっとずつ進んでいく方法やな。焦らず地道にいくわけや」
「なるほど、でもそれかなり時間がかかりますよね」
「そりゃそうや。人間関係に最短距離なんてない。あるのはその人毎に培ってきた関係性の深さだけや。その関係性の浅い深いの加減が、短ければ早く親密に感じられるっちゅうわけや。逆に関係性が深くないと友達に数えられへん人もおる。そういう個人差なだけやねん」
「面倒ですね」
「人間関係に苦楽なんてあらへん。それは苦であり楽である。受け取る側が、関わる側が勝手に判断しとることや。まあそれを重要視する奴もおるわけやが」
「そんな玉虫色みたいなこと言って」
「それこそ玉虫色に受け取っとるだけやっちゅうねん。人間な、なにをしとっても文句も言い訳も言いたくなるねん。それが普通、それが通常。言わなくてもいい人は神か仏か気分がいいか、そういう人か」
焼うどんをもごもご頬張っている。よくもまあ短い手で器用に食べるな、こいつは。具体的には形容しがたいが、割り箸で豆を摘むくらいのイメージでいてくれたら幸いだ。
「あ、受け取る側の問題といえば、出会いにおいても同じことがいえる。例えば礼儀正しい美人とちょっとコンプレックスのある親しい友人。おまんならどっち選ぶんや?」
「ああ、仮定の究極二択問題ですか。ひんしゅく買っても知りませんよ?...まあ僕はずっと礼儀正しい美人を選んできたでしょうね、過去の経験から考えれば」
「せやろ?...そりゃあ見た目も性格も問題ないならそっちを選ぶんは道理。仕方がない面もある。が、ゆくゆくを考えればお互いのいろんな面が見えてくる」
「というと?」
「いくら礼儀正しいといっても、家の中では違うかもしれない。美人といってもメンタルに何かを抱えているかもしれない」
「いや、かもしれないなら憶測じゃないですか。実際どうなるかわからないなら、問題ないのでは?」
「それが通れば、嫌なところや悪いギャップで恋愛に冷める女性も男性も居らんことになってしまうなぁ。せやろ?」
「まあ、一般論では」
「そう。結局は相手の良さが悪く見えてしまうもんやし、逆に悪さがいい面を引き出すことだってある。だから恋愛は自分好みの相手を選ぶんやない。自分をアピールして好きになってもらうんや」
俺は冷蔵庫から冷えたゴボウ茶を取り出す。
何故売り込むという発想なのかはなんとなく理解できた気がした。しかし、なんとまあ綺麗事を。と考えてしまうのは俺の心が薄汚れてしまっているからだろうか。
「出会いに関するスタンスと思考はわかりました。でも、結局のところモテない男は、顔の良くない男はスタートラインに立ち辛いということでは?」
俺はゴボウ茶を飲み干しては注ぎ、飲み干しては注ぐ。目の前のこいつも焼うどんを食べ切ったようで、水分を欲しがっているように見えた。あげた。というか、俺の昼飯が!
「スタートラインか、それも考えようやな。この空間に男10女1だとして、せーので初対面が恋愛を始めるとする。それは明らかスタートラインに差が生まれる。でも実際はどうや?必ずしもそうとは限らんのちゃうか?」
「まあ、それはそうなんですけど、恋愛対象っていう枠もあるし...それにできるなら可愛い子を彼女にしたいっていうか」
「そりゃ男の本能的には間違いやない。けどそれは他者との、他の男との比較で考えてしもうとるだけや。自分の方がすごいという欲でしかない」
んー、なんだか屁理屈で丸め込まれているような気もするが、これ以上突っ込むと長くなりそうなのでとりあえず聞いておくことにする。
「それぐらい割り切って考えた方が、案外あっさりいくんと違うか?」
俺の心を読まないでほしい。