俺の抱きのテクニック
「今回ご紹介するテクニックは、抱擁時に柔らかく抱くという事です」
「唐突になんだ!?」
「追加の条件としては、対面で抱擁をし、右手を相手の腰に。左手を相手の後頭部に添えなければなりません」
「義務なのか。ただハグはちょっと難易度高そうだなぁ」
「そして、相手の名前を呼び...」
「いや多い多い!今までの比じゃ無いレベルで増えてるじゃねーか」
「最後に耳に息を吹きかけます。これであなたは最強無双の100発100中超絶怒涛のメチャウケ猛烈ドチャシコモテる必勝テクニックの伝授に成功しました。それではいってらっしゃいませ」
「いや展開早!」
そうして行き着いたのが、マンションに住むいとこの安根萌音華の部屋である。俺の姉のような存在で、いつも面倒を見てくれていたのだが、萌音華ねぇに彼氏ができて以来疎遠になっており、さっぱり会ってはいなかった。緊張はしないが、少し懐かしく思う。
萌音華ねぇのところに来たのも、あの水色ティファ○ルのご指名だった。ほんと今回は具体的に注文が多すぎるんだよなぁ。まあ、パパッと済ませて帰ろう。
呼び鈴を鳴らすと、中からドタバタと音がしてから一瞬の静寂。そしてじわりじわりと開かれた扉から見えてきたのは、髪はボサボサで寝癖もひどく、濃いクマをメガネで隠したパジャマ姿の相変わらずである萌音華ねぇその人だった。
「やあ、優士くん。本当に久しぶりだね、元気だったかい?...まあ、ここで話すのもなんだ、私もこんなカッコだし、さ、中へ入りなよ。突然来たもんだから片付けなんて出来てないのが恥ずかしいけどね、優士くんが悪いんだからね、反省してくれよ。まったく」
俺に喋らせる気もないほど怒涛に続く萌音華ねぇの言葉。本当に懐かしい。
「ごめん、突然。なんか久しぶりに顔見たくなって」
「ははは、全く驚かせてくれる。そんなこと今まで一度たりとも言ってくれたことは無かったじゃあないか。どういう風の吹き回し、というのは表現したい意味合いが異なるが、それでも似たようなニュアンスで勘弁してほしい。それほどに優士くんの行為が私の知りうるものとかけ離れている、そんな中、このような格好を晒すことにただただ恥を感じるばかりだよ。どれ、数年ぶりにキレイ系とでも言おうか、メイクを施してみよう。見れたものではないかもしれんが」
矢継ぎばやに口を動かしながら、そそくさとシャワールームへ向かう萌音華ねぇ。扉が閉まったかと思えば、ビシャビシャと水の打ち付ける音が聞こえてきた。あろうことか、萌音華ねぇの声も聞き取れない言語が聞こえているので、彼女はシャワーを浴びながら喋っていることになる。聞き取りにいっても良かったのだが、流石に気が引けたので部屋の掃除を勝手に始める事にした。
脱ぎ散らかした衣服。トップスやアウターならまだしもインナーやらナニやらも盛大に辺りへ撒かれていた。これで萌音華ねぇは片付けているつもりらしい。それぞれがいつもの定位置に置いてあるそうなのだ。いや、わからんこともないが、
(これで彼女に恋人が存在していた事実に驚きを隠せません)
全くである。
「どれ、話を聞いていないようだから出てきてやったぞ。寂しい人間相手に寂しい対応をするとはなかなか酷なことをするもんだ。けれどそういう態度もたまにはいいもんだ。たまにどころではないな、是非とも毎回行っていただきたい。これはたまらんものがあるなぁ。さて、私の新しい服を探しているのだが、見つかり次第こちらへよこしてほしい。おや、ひとつ訂正をしておきたいのだが、これらの衣服は脱ぎ散らかしたのではない、定位置へ置かれているのだ。ともすればまだ身につけていない鮮度良い衣服も沢山あるのだ、掃除してくれていて文句は言えないが、匂いを嗅ぐなどをして確かめてくれよ、いやそれは乙女的にアウトか、ガハハ」
「いいから、これをきろ!」
俺は全裸バスタオルの擬似姉に向かってありったけの服を投げつけてやった。




