俺の出会いのテクニック
俺の名前は相野優士。私立御天都高校に通う2年生だ。手の届きそうなお値打ちイケメンで中学時代を過ごし、それなりに楽しい生活を送ってきた。しかし、彼女ができることはなく高校へ進学。平凡な毎日を過ごしていた俺に転機が訪れた。それは立川美葉との出会いだ。高校生活初日が終わって帰宅途中の廊下、そこで出会い頭にぶつかってしまったのだ。それからというもの、暇があれば話すようになり、お互いが惹かれていくのもある意味当然だったのかもしれない。そんな中、勇気をだして告白したのがキッカケで、晴れて人生初の彼女をゲットしたのだった!
しかし、幸せは長くは続かなかった。
4ヶ月が経ったある日。俺は彼女から突然呼び出された。
『あなたのことが、好きかわからなくなった』
そういって、俺たちは自然消滅したのだった。
もちろん、何度か引き留めた。しかし掛け合って貰えず、避けられる日々。実らない努力に嫌気が差して、俺もその恋を諦めることにしたのだ。
それから、2年生に進級した今日。学校も終わり家路を進む途中なのだ。1年生を棒に振った俺。楽しい思い出もたくさんあったけど、虚しさとやるせなさの方が俺を満たしている。こんな思い出、さっさと忘れて俺の素晴らしい高校生活を取り戻すんだ!
「よし、やるぞ!」
「何をやるって?...恋愛敗北者のくせに」
「って、うわああああ」
突然現れたのは、女子ウケしそうでしない楕円のフォルムに短い手足。目はやや縦長に大きめで口はW。白っぽい体はどう見ても抱き心地が良くない。使い古された白色電気湯沸かしポットのようにくすんで古ぼけて見えた。
「おい、人を勝手に見定めやがって、われ誰やと思ってんねん!」
「中古のティ◯ァール」
「おいいぃい!相手をそんな安物扱いすな!初対面やぞ!といってもこちとらあんたのことずっと見とったけどな」
「ずっと?...いつから」
「いつからも何も、生まれた時からずっとやで!お母ちゃんのお乳飲んで、一人でトイレいって、一人であんな事して」
「いつから居るんだよ!というか、赤ちゃんの頃と今を並べないでくれる!?危ない人みたいになっちゃうから!」
「実際危ないやろ、人前でヤるぞ!なんて正気やない。公然猥せつで捕まるで」
「そこまで言ってないだろ!?なんだよ、もう。今から帰るんだから、邪魔しないでくれよ」
俺はティファー◯の横を通り過ぎようとしたとき、そいつはこう囁いた。
『あなたのことが、好きかわからなくなった』
「うっ!!!」
俺のトラウマスイッチが入る。全身が熱くなり、汗も噴き出てくる。手は震えだす上に膝は笑っていた。
「あーあー、こりゃ重傷やな。堪忍してや、ほんまに」
「お、お前のせいだろ!?」
俺は、どうしようもない感情で埋め尽くされていた。これがなんだかは誰でも分かる。恥ずかしさだ。
俺は振られたことが恥ずかしかった。理不尽な言葉に、その理由すら伝えられていないのに、なぜかふと思ってしまった恥ずかしいという感情が、記憶に絡みついて離れなくなってしまったのだ。
しまったと思った頃にはもう遅い。条件反射のように、思い出すだけでこうなってしまうのだった。
「しかしまあ、なんとかできんこともない」
「え...?」
こいつは俺のこの症状をなんとか出来ると言ったのだ。本当だろうか。
「ただまあ、条件ってもんは必ずあるなぁ。ほら、うまい話には裏があるっちゅうけど、ま何かしらの対価は必要ちゅうこっちゃな」
対価...これを治すかわりに何を要求するというのか。
「わてがちょちょいと擦るだけであーら不思議。われ天下取れるモテ男ことになれんで!」
も、モテおとこ...?
「必要な時に最強無双の100発100中超絶怒涛のメチャウケ猛烈ドチャシコモテる必勝テクニックをおまんに授けたるさかいにな!」
いろいろおかしい単語が聞こえたようだが、俺の脳はそんなものに反応しなかった。
「最強モテテクが手に入るって!?」
「おう。あとちょっとの勇気な」
こ、これはすごいぞ。これさえあれば、彼女なんて作り放題。最初の方はトラウマも苦労するだろうけど、彼女さえ出来てしまえば絶対に克服できる。そうだ、“彼女”に受けたトラウマは“彼女“に直してもらえばいい!治療費と考えれば医者と一緒!お金なんて些細な問題だ!
「俺、受けるよ!お前のモテテク、欲しい!」
「そーかそーか。そりゃえがった」
そういうと古びた白楕円は俺に背中を向けたのだ。
「せいぜい幸せにな」
何を言ったのか、よく聞こえなかった。