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自由な世界

軽い説明回って感じですかね。


[16:57 シロがログインしました]



 二ヶ月前からサービスの始まったフルダイブ型VRMMORPG【Irreversibleイリバーシブル Worldワールド】にログインし、先週建てたばかりのゲーム内での家【ホーム】のベットで目覚める。



「あ、やっほ」



 寝室を出て居間へ行くと、先にログインしていた仲間でありこのホーム唯一の同居人でもあるユキが出迎えてくれた。



「おう、ユキのが早かったか」


「まぁシロは今日掃除当番だったからね」


「あぁ、めんどかった」


「昔みたいにさぼらないだけマシだね」



 そう、この会話からわかるようにリアルで俺とユキは同じ学校に通っている。


 さらに言えば、物心ついたころからの幼なじみだ。だから俺の昔を知っているし、俺もユキの昔を知っている。


 しかし、幼なじみで同じ高校に通ってはいても、現在リアルで話すことはほとんど無い。


 というのも良くある話で、昔は毎日のように遊んでいたが、中学生になった辺りでお互いに男女を意識してしまい、そこで周りからはやし立てられてそれが恥ずかしくて距離を置く。

 まったくもって本当に良くある話だ。


 今思うと馬鹿馬鹿しい限りだ。

 俺らが今更そんな恋仲なんぞなる訳が無いというのに。


 しかし、幸か不幸か今ゲームで会っているように、昔の俺達も現実では距離を置いても、誰にもからかわれる事のないゲームでは会い続けていた。



「ん?どうしたのそんなに私を見つめて」


「いや、少し思うことがあってな」



 これがもっと昔で、フルダイブ型VRのない時代だったらゲームで会うというのも難しかっただろう。

 それこそ完全に交流は途絶えていたかもしれないと思うと流石にゾッとする話だ。



「へぇ〜、私を見つめながら思うことか〜」



 ユキがにやにやと俺を見てくる。



「…一応言っとくが、別にやましいことじゃないからな」

 

「な〜んだ、てっきり私に見とれちゃったのかと思ったよ」


「ばか言え、お前の姿なんて現実でもゲームでも見飽きたわ」


「ゲームは毎日会って話してるから分かるけど、現実でも私のこと見てるんだ?」


「うっ…そ、そりゃ同じクラスだし、視界にも入るだろ」



 それとなく理由をつけてなんとか取り繕おうとするが、つくづく俺は誤魔化したりするのが下手らしい。自分でも墓穴を掘っているのがよく分かる。



「私アバターの容姿現実とほとんど変えてないし。私としては現実で見てなくても見慣れてること自体は何もおかしなことじゃないと思ったんだけどな〜」


「…!」


「そっかそっか〜、シロは現実でも私を見てるから、見慣れちゃったのか〜」



 さっきから変わらないにやにやした顔で、ユキが下から覗き込むように俺を見てくる。


 完全にやられたっ…!


 確かに今のユキのアバターは、160センチほどの身長でスレンダーな体型、背中の中程まで伸びたまっすぐな髪、そして幼げな顔。ここまで現実とほとんど同じである。


 違うのは現実ではきれいな黒髪が、アバターである今は根本が紺で、毛先に向かって水色にグラデーションになっていることと、おそらく胸を若干盛っていることくらいだろう。(怖いから胸は指摘しないが)


 つまり、ユキの言うようにゲームと現実の容姿の変わらなさを指摘すればいいものを、俺の言い訳では現実で見ていることを自ら暴露しているようなものだ。


 こうなってはもう何を言っても墓穴を掘ることにしかならない。


 そうなるとただユキのにやにやが増すだけなので、無理矢理話題を変えることにした。



「あ〜、ところで今日の予定はどうするんだ」


「ん〜、今日は水曜日だから、とりあえず週一の定期クエストでナタおばさんのとこに行こっか。その後のことはクエストしながら適当に決めよう」



 俺のあからさまな話題転換に、ユキは相変わらずにやにやしているがしっかりと今日の予定を教えてくれる。


 俺とユキは昔からどのゲームでも二人組で活動しており、それはこのゲームでも変わらない。


 そして、これまたどのゲームでも決まってユキが予定管理をしてくれている。



「了解。それじゃ早速ナタおばさんのとこ向かうか」



 それから俺とユキはお互いサクッと準備を済ませて家を出た。


 ナタおばさんの家までは少し距離があるから俺達は雑談をしながら走る。



「にしてもこのゲームほんとに凄いね。自由度高いし、感覚とかもまるで現実だよ」


「あぁ、プロジェクト発表時から期待はしてたが、まさかこれほどとはな」



 プロジェクトとは、このゲームの開発プロジェクトのことである。


 10年ほど前にフルダイブ型VRを世界で初めて完成させた企業【ESTA(エスタ)】。

 その【ESTA】が二年前に発表したプロジェクトが【X World(クロス ワールド)】だ。


 そのプロジェクトの内容は、開発から八年経って開発が進み、その結果陥っていたフルダイブ型VR業界の低迷期の打開。


 そのために【ESTA】を初めとした、大小構わず数多のフルダイブ型VR業界企業が手を組み、新型VR機とそれに対応した一つのゲーム【Irreversibleイリバーシブル Worldワールド】略して【IW】の開発をする。という中々に大それたものだった。


 全ての企業が開発に携わると言うことは、そりゃぁそれぞれ開発が得意なジャンルはRPG、格ゲー、音ゲー、内政ゲーetc.と言うように、バラバラに決まっている。


 普通に考えればそんな中開発したゲームなんて、それぞれのジャンルがぶつかり合ってしまい、ろくなゲームになるとは思えない。


 しかし【ESTA】はゲーマー達のそんな不安に対して、プロジェクト発表の時に全てのジャンルを完璧にゲームに組み込む、そのための自由度の高いジャンルであるVRMMORPGなのだと豪語した。


 それを聞いた全ゲーマーが心躍らせたし、もちろん俺もユキもその一人だ。



「確かにこのゲームのメインストーリーはRPGだけどさ、私達みたいにメインストーリーとは関係ないとこで動いてる人も多いもんね」


「あぁ、それこそ初めの頃は、CPUが商業とか内政してたが、今じゃプレイヤーが商売してるとこも多いし、中には大工なんてやってる奴もいるらしいぞ」


「それにさ、ナタおばさんはCPUだけど全くそんな感じしないくない?本当に人間みたい」


「全CPUにAIを導入してるらしいからな」



 これも【X World】の発表に含まれていた内容であり、目玉の一つだ。



「それも本当なのかなぁ、AIだったりこのグラフィックとか無線ですらラグを一つも感じないこととか、メモリ容量エグいことになりそうなのに」


「まぁな、到底信じられないが実際そうなんだから受け入れるしかないだろ。現にこのソフトと媒体を普通に買おうとしたら合わせて10万以上するしな」


「そっか、あんまり金額のイメージ無かったけど、それだけ高ければ妥当なのかな」


「まぁ俺らはこのゲームとVR機、イベントで手に入れたしな」



 実は俺とユキはこのゲームをお金を払って手に入れた訳ではない。


 【X World】のプロジェクトの一環で、参加企業の中でもそれぞれのゲームジャンルで一番の大手の企業、更にその企業の看板作品のゲーム内で開かれた、それぞれのジャンルのトップを決める大会。


その中の一つに出た俺とユキはなんとか優勝し、その景品として手にしたものの一つがこのゲーム、IWとそのVR機。というわけだ。


 そこまで話したところで俺たちはナタおばさんの家に着いた。



「ナタおばさ〜ん。ユキで〜す。今週の依頼を受けに来ました〜」


「はいは〜い。あらユキちゃん待ってたわ。いつもありがとうねぇ」



 玄関の前でユキがそう声を掛けると、見るからに人の良さそうなおばあさんが家の中から出てくる。

 この人がナタおばさんだ。

 このIW内で有名なお菓子を作り売っている人で、その材料を俺達二人に指名定期クエストとして依頼をしてくれている。



「いえいえ、指名依頼はありがたいですから。それで今日は何を採ってくればいいですか?」


「実は新商品を作ろうと思っているのよ。それでね、その材料を採ってきて欲しいのよ」


「えっ!新商品ですか!?ナタおばさんのスイーツの新商品…楽しみすぎる…!何が何でも採ってきます!」



 そう、何を隠そうユキは、ナタおばさんのスイーツの大ファンなのだ。



「ただねぇ、その材料は珍しくて。ユキちゃん達でも見つけられるか…。それに私も見たことがないからそれで本当にスイーツを作れるかどうか…」


「大丈夫です!ナタおばさんのスイーツの為なら!」



 こいつ、好きな物に対して躊躇無さすぎだろ。



「そうかい?それなら今回もあなた達にお願いするわ。【幻の実 ラマの実の採取】これが今回の依頼だよ。勿論、達成の暁には報酬は弾ませてもらうからね」


「はい!任せて下さい!」




〖指名定期クエスト〗

幻の実 ラマの実を採取しよう!

・制限時間:本日中

・クエスト範囲:フルワールド

・達成条件:ラマの実の納品

・達成報酬:5万E

ナタおばさんの新作スイーツ

・クエストヒント:なし


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