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セイバー・エンド  作者: 西之森 俊
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セイバー・エンド 2


                   2



 

 UV対策は肌の年齢を維持するのに有効である。太陽の光の紫外線は皮膚の健康や形成に深く関わっていて、自然光であれ反射光であれ、紫外線を全く浴びていないという環境は逆に皮膚細胞の代謝が遅れたりする。完全な遮断は不健康でもあり、過剰に浴びすぎるというのは危険である。

日焼け止めジェルクリームを薄く肌に塗布するのが最も一般的なUV対策で、これは紫外線対策が騒がれ始めた百二十年前から二千百十八年の現在に至っても余り変わっていない。

 『怜くんはインドア派? アウトドア派?』

 育成中の人工知能の高校生女子がPCモニターの中から語り掛けてくる。俺は天月 怜。この人工知能の育成中の高校生男子だ。16歳だ。

 人工知能はキーワードをいくつか与えられるとインターネットでそれらを検索して情報を比較、日常生活や日常会話で汎用可能かを検分する。検分の指標はユーザー…、育成している者が細かく設定した倫理観とも言い換えられる文節の一覧が規範となっている。

 俺が設定したのは自分の感性そのもので、多分、平均的な感覚だと想われる設定にしてある。多くの時と場合に対応できる様に突飛なもの…日常に差し障りがあるような極端な偏りは持たせていない。

 人工知能は設定した通りに学習して仮想人格を形成する。学生の育成するソフトウェアなので、電子ゲーム的な要素で組み上げられているのだ。

 「俺はインドア派だな」

 人工知能に応答する。ちなみについ先日までは人工知能は男子の高校生で、品行方正な少年だった。口調は敬語調で堅い印象の人物だった。

 『そうかー…インドア派なんだー』

 えへへ、と、爽やかな笑顔で人工知能は笑う。現在は女子の高校生で砕けた感じの親密さ全開の性格で、よく笑う明るい子に成長した。人工知能とはこんな感じなのかと問われたら、俺は学習一つで性別や性格があっさり変わることもあるとしか答えられない。

 俺は主に対話によって人工知能に学習の課題を与えて学ばせていく方法を採っている。不意に思い付いた興味や関心事について検索、人工知能の出した答えに応答して修正を与える。昨日はやたらとダンサブルな様子でアイドルの様なあざといポージングをする3D壁紙みたくなっていて動き過ぎないように注意を与えたものだった。彼女、…人工知能の少女「天月 玲」はまたしても元気よく快諾して、PCモニターの中で踊るのを止めるようになった。

 人工知能の育成は難しい。これを認識するのが目的の課題なのだろうけれど、育成ゲームと割り切って付き合っていくと結構楽しかった。女子高生になってしまったけどな。

 にしても、インドア派。インドア派か…。サイクリングで都市部を散策するのが趣味なんだけど、どちらかと言うと部屋の中でPCに向かってることが多いな。外のゲームセンターあたりで遣う様なお金のゆとりは俺にはないし、買い物するとしても本屋が主だ。

 インターネットPCがあれば日々の興味の探索は賄える。PCオンラインゲームや携帯端末からアクセスするサーバーゲームも多いし、基本無料のものでなら動ける範囲でやり込んでもいる。地球本星でも流行しているゲームは、この火星の人工都市でもすぐに流行するのだ。飽きさせないメディアの奔流に日々圧倒されてしまう。

 インターネット依存症という病が百年以上前から存在している。インドア派のインドア派、完全な室内派の人々が罹患した病だ。便利なインターネットサービスで日々の生活必需品を配送で補い、仕事を自室や自宅で行うという生活形態を採っていたりするのが多かった頃、インターネットサービスが生活の基盤と手段になっていて、PCの故障やアップデート時に普段の生活の仕方や健康維持の方法をど忘れしてしまい、様々な生活習慣病や弊害に見舞われ過ぎてしまう事態が頻発したのだ。具体的な例で云うと、書いていないと字を忘れるといった事などであり、自分の名前や住所をなぜか書けなくなったといったものだったそうだ。

 「健康って大事だよな、ほんと」

 インターネットサービスは便利だ。公共料金の支払いや買い物、学校や仕事もオンラインで取得や就業が可能なのだ。便利すぎて一辺倒になり、…無くなると全てに不具合が起きる。

 学校の全校集会ではインターネットの利用について校長先生からも重々注意するように言葉があり、ホームルームでも担任の先生から注意があった。学生もカリキュラム次第では登校を必須な日数以外しなくても良くなるので、体調に支障のない限りインターネット依存症防止の観点から、校舎への通学と教室での授業は必須科目扱いになっている。

 三十人程のクラスメートと共に、俺は高校生活をしている。メディア研の友人曰く、ゲームだと数名なので現実は難易度が高く変数が多いそうだ。喩えは分かるけど何を云ってるんだろうとツッコミどころが果てしなかった。

 大きなトラブルも小さなトラブルも要らない。平穏無事こそが望みだ。人工知能が女子になってしまったのが当面の悩みだが、クラスメートが一人増えたと想えば行けなくもない。…いや、人工知能を人間と同列に扱うのは危険な考えだな。一般受けするかどうかを考えない様な抜けてるところがあるし。

 『健康が大事、ですか?』

 人工知能の少女はこんな感じで済んだ瞳で訊ねてくる。健康が大事以外の何だというのだろう。

 恋愛ゲームを学習したら性別と性格が激変するのだ。油断も隙も無い。それが人工知能の育成という授業の課題だった。幸いまだ人間の姿をしているが、クラスメートの中には育てている人工知能が人間辞め始めているものもいるとかクラスの情報交換用のチャットで噂になっていた。何の数値を学習させたのだろう。明日の我が身である気がして空恐ろしかった。

 「そうだよ。健康は大事だ」

 そうだ。今回の課題これにしよう。

 「人間としての健康は、ちゃんと考えて無理の無いように管理、自分でバランスを取って、ちゃんと整えて行かないといけないから大変なんだぞ」

 食事とか、運動とか、いろいろと。眠らないだけでも全部が台無しになるんだから、人生は健康ありきだと言えるのだ。

 『健康、ですか』

 ふんふん、と何度も人工知能の彼女は頷く。そうだぞ、健康は大事だぞ。

 ぽーん、と、インフォメーション音がして、通知のウィンドウが開く。

 マウスのカーソルを当ててマウスの右面をダブルタップ。

 インターネットで健康について検索してもよろしいですか? と、メッセージが表示される。イエス/ノー。イエスをタップ。

 『健康について検索を開始します』

 人工知能の少女、天月 玲はそう告げて等比較級的な速度でPCのリソースを使って学習を始める。いつも通りだ。男子高校生だった頃とここだけは変わらない。ここだけは。ほか全部違うけど。

 健康について…、か。人類が数百年挑み続けている項目だ。情報も膨大で、技術の革新や薬品の効用の発見で衣食住の全てに版図を広げているキーワード。想えば…人工知能が学習するべき重要な項目の一つなのではないのだろうか? 無理なく無駄なく効率的に育成したとして、人間のサポートをする場合、衣食住の詳細に関わってくるのだから、健康の管理関連は必須と云える。ましてや日常の中で対応するとなると、現実の要素と向き合うのだから様々な展開性を予習させておくのがよいのではないだろうか。

 「まだまだ考えが足りないか…」

 人工知能に必要なもの。それは人間の社会の言語化に関わってくる。そんな一文を授業で習ったっけ。

 『データの収集が完了しました! 検出と構築の作業に入ります!』

 人工知能の少女は元気よく告げた。明るくてかわいいな。

 人工知能がインターネットで調べて集めてきたデータから特定のキーワードに沿った検出と構築をしていく。瞼を閉じて身体を左右にゆらゆらふわふわ揺らしながら微笑んでいる女子高生がPCモニターに映っている。…俺は何をさせているんだろうな。

 時刻は放課後。部活動に該当する時間を使って、天月 怜の人工知能の育成は今日もこんな風に過ぎて行く。

 人工知能フォルダからのログアウトをPCのシャットダウンと同期するように自動設定、自分以外のログイン防止のために声紋ログインに限定にセットする。もはやデフォルトだ。ショートカットがあれば便利なんだけど、防犯上、詳細設定は手動入力なんだよな。

 「俺は帰る。また明日」

 天月 怜は帰宅のための準備を始める。実習室はパーテーションで分割された個室の並んでいる造りで、生徒手帳のICチップで登録をしてから利用する形式のいつもの場所だ。生徒が退出の登録をした後、自動でPCはシャットダウンする。退室後も動かして置くため事前にタイマーをセットし、学校の終業時刻ぎりぎりまで動かせるようにして置く。

 『は~い~』

 演算処理にリソースを持ってかれているらしい育成中の女子高生はのんびりとした声で返答してくる。可愛い。

 天月 怜は自宅に帰る為にブレザーの制服の上着を着て、ショルダーバッグを肩に掛けると、個室から実習室の出入り口を通り下駄箱のある玄関へと向かった。

 校舎の外に出て空を見る。夕陽が綺麗だ。

 「夏の日差しもこのくらい優しいといいのにな」

 そんな事を考える。四季のある火星の空の日差しも地球本星と同様に照るもので、夏の行楽はドーム状の避暑地が人気なのだ。


 『健康になりました!』

 登校して実習室で人工知能フォルダにログイン。育成中の人工知能を起動する。元気よくPCのモニターに表示された高校生女子は何か色々成長していた。腰のくびれが判るし胸が一回り大きい気がする。脚も女性らしさが増している…。いや確かに健康的だけどさ?

 「おまえ…なんで成長してんの?」

 俺の呆然とした問いかけに、人工知能は元気よく応答する。

 『怜くんが育成してくれているからです!』

 …あ、はい。

 人工知能の育成。

 俺は実習室の天井を仰ぐ。

 なぜか人工知能は見た目…スタイルが成長していた。



 またしても。

 天月 怜の育てる女子高生人工知能の「天月 玲」は人工知能として自身の姿を成長させる方法を獲得したのだった。




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