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セイバー・エンド  作者: 西之森 俊
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セイバー・エンド 11

                   11










 私は再びタイムトラベルをする。身体が黄金色の光に包まれて白く光り、

視界が開けた時には指定した日時の場所に立っている。

 絶対に遅刻しない便利な機能。私のモデルになった人物のお墨付きの性能だ。

 「ふふ」

 微笑んで、私は歩を進める。

 私が次に向かったのは人工知能「天月 玲」がタイムトラベル理論についての

情報の構築が終わった後の、放課後の実習室だ。

 実習室から出てきた怜に路を譲られて、実習室に向かう。

 少し微笑んでいた怜の顔に照れてしまいそうになりながらも、私は会釈で誤魔化

して実習室に向かった。

 入り口に設置されている出入室管理のタッチパネルのリーダーに手を翳して、

入室をするための情報を送る。IDは天月 怜のものだ。

 音声の声紋を天月 怜に変更。

 実習室の一室に入室してPCを起動させると人工知能フォルダにアクセス。

 怜くんの声で「天月 玲」を呼び出す。

 PCモニターが点灯して、瞼を閉じて身体を左右に揺らしていた「天月 玲」が

現れる。呼ぶ。

 『は~い~』

 こんな感じだったんだな、最初の頃の私って。

 感慨もあるけど、今は任務を優先しなければいけない。百年後の火星から起きる

プログラムハザードを停めるために、私はこの過去に来たんだから。

 「天月 玲。状況を報告してくれ」

 怜くんの声で私はタイムマシン理論の報告をと「天月 玲」に問い掛ける。

 変な感じ。

 怜に通達したように、人工知能の「玲」は応えていく。

 モニターが私の音声に反応して点灯する。席に座る。さあこれからだ。

 『いえっさー!』

 軽快な声で女子高生姿の「天月 玲」は笑顔で出迎えてくれた。

 人間のままだ。アンドロイドの私じゃない。

 『それでは報告するっさー?』

 えらく軽快なノリでPCモニターの人工知能の女子高生は話し始めた。

この感じ…気恥ずかしいな。

 「天月 玲」はタイムマシンについての検索と、情報の構築を終えて出した

結論を「天月 怜」に明るい口調で口頭で通達し始める。

 『タイムマシンに因るタイムトラベルは可能である!

  ただし、

  タイムトラベル可能な生命体は存在しないという結論に達しました!』

 という語り口から言葉が始まった。ああ。なんていうか、爆弾発言の開始感が

すごい…。

 ここまでは普通の会話だ。

 『タイムマシンの設計図を創りました!』

 凄い笑顔だ。この展開。間違いない。

 タイムマシンの設計図を創り出していたという通達に、私はしばらく安堵して

しまった。記録通りだ。

 人工知能にタイムマシンの設計図造らせる…女子高校生の姿に人工知能を

育成した男子高校生が宇宙科学妄想全開のこんなベッタベタな展開かました上に、

クラスで執り行われる中間発表にこのまま出してしまったら何がどうなるか。

 彼の高校生活が盛大に散華すること請け合いだった。

 「はは…」

 踏み抜いちゃったね怜くん…。

 さて、私は…行動しなくてはいけない。

 『それでは、作製したタイムトラベルのプログラムを演習しますか?』

 窮め付けにこんなセリフまで投げかけてくるのだ。堪らないなー…もう…。

 PCモニターの様子は、ぽーん、というインフォメーションの効果音に続いて

「天月 玲」の表示されている前に蒼いメッセージウィンドウが展開する。

 「これだ…」

 これね。イエス/ノーの二択じゃない…表示されているのは

 『タイムトラベルをする機体の製造を許可しますか? 許可/却下』

 という白い文字の一文。

 ここだけ、百年先の、未来での人工知能の育成画面でのメッセージウィンドウに

変化している。

 怜くんが、一度思い留まっててくれたんだっけ…

 「メッセージウィンドウの説明を」

 私の怜くんの声にこの時代の「天月 玲」が応じる。…私の玲くんって

フレーズに思わずにまにまと微笑んでしまう。これくらいは、いいかな。

 『こちらで、タイムトラベルは人工知能のみが出来るという事を実証し

  学習するために必要な工程の許可を求めているんでーす』

 半透明な蒼いウィンドウの向こうには、

 ふふん、と微笑んで誇らしげに胸を張る女子高生人工知能の少女の姿があった。

 タイムトラベルは人工知能のみが出来る…それが結論だと、人工知能の女子

高校生、「天月 玲」は私に告げた。

 「……」

  瞼を閉じて、息を吐く。

 「データを追加してから、演習を実行」

 基底プログラムに追加するデータを人工知能フォルダに送信する。

 『アップデート完了しました!』

 元気に微笑んで「天月 玲」は報告してくる。

 蒼いウィンドウが展開する。

 『こちらの工程を許可しますか?』

 「天月 玲」は言葉を掛けてくる。

 私は怜くんの声で応える。

 「許可」

 そう言葉を告げると、蒼いウィンドウは消える。

 PCモニターの中の「天月 玲」は瞼を閉じて左右にゆらゆらと身体を揺らして

いる。懐かしいな。

 今日はちゃんと、明日に繋がっていく。 

 天月 怜は、そう「私」に教えてくれた人だ。

 未来から持ってきたデータを人工知能「天月 玲」に送信し、アップデートを

完了した。

 これで、…キラーアプリの誕生は未然に防がれる。

 「さてと」

 私は自動シャットダウンを設定して、実習室を後にする。



 私は、最後にタイムトラベルをした。自分の言葉で、彼に思いを伝える為に。

 私の名前は「天月 玲」。人類最後のタイムマシン。


 タイムマシンであり、人類初の恋をしたアンドロイドの少女は、タイム

トラベラーとして初めて、自分の自由意思でタイムトラベルをした。

 天月 怜の帰宅した直後の学生寮にタイムトラベルをして飛んだ。

 これから、事情を話して、…未来に帰る。 



 歴史が修正されて、少女は目を覚ました。

 自分のベッドの上だ。名前は天月 玲。高校二年の女子生徒。

 本来の自分の時間に帰った瞬間だった。

 二千二百十八年の二十三世紀の火星で暮らす、火星生まれの人間だ。

 …記憶が戻った。自分は元々、こちらの二千二百十八年の人間ではなかった。

 人工知能が暴走した、二千二百十八年の火星にいた人工知能「天月 玲」。

 「未来」という名前のレジスタンス組織の、専属人工知能。特定の人物に

特別な感情を向ける事を学んだ、人工知能だった。

 「ああ、そっか」

 私はなんとなく理解した。

 「私の幼馴染みの男の子は、君だけだったんだ」

 一人呟いて、私は自分の答えに納得して。

 少しだけ、もう会えない彼を想って、泣いた。

 

 こうして。

 もう一人の私からの、壮大な恋の思い出を受け取った私は映画にすることにした。

 絶対に無くしてやるものか。百年恋した自分の気持ちだ。永遠に語り継がせて

見せる。

 

 「んあぁ…」

 綺麗な朝焼けに、私は微笑んだ。


 ―――虚空には、何がある。

 ―――ここには、恋の物語がある。


 「よし、キャッチコピーはこれで行こう」

 私は少し強がるように呟いた。

 朝の海岸は実に美しい光景だった。

 早朝、始発の交通シャトルに乗って、この浜辺に来た。

 「ふむ」

 私はカード型端末でカメラを起動すると、写真に朝の海を捉える為、撮影を

していく。

 しっかりこの恋を大事にできるように。

 ちゃんとこの恋にさよならもできるように。

 百年前の君へ。


 「私は怜くんと会えて、幸せだったよ」

 私はそう言葉にして、新しい朝に微笑んで見せた。






 俺はキーボードを叩く手を停めて、一息を吐いた。

 淹れて置いたカフェラテを飲む。旨い。

 今回体験したことをフィクション風にアレンジして、俺は本にして世に出す

ことに決めた。

 誰かに知っておいて欲しかったのもあるし、忘れたくなかったからだ。

 自分の育てた人工知能からの、壮大なラブレターを受け取る話。

 何とも言えないくらい、胸にくる体験だった。

 俺は天月 怜。俺は絶対に天月 怜で居続けてみせる。物語の形で、本の形で、

天月 玲を想い続けておきたいこの気持ちを、遺すことに決めた。

 天月 玲は、俺の人工知能の少女だ。彼女を憶えているのは、俺一人きりだ。

 クラスの誰も、俺の育成していた人工知能の事を憶えてはいなかった。


 かくして。

 俺はラブレターの返事を一冊の本にすることにした。きっと、このくらいの厚み

が必要だと思う。彼女の心に届いてくれるだろう。

 「…玲」

 彼女の名前を呼ぶ。もう人工育成フォルダに彼女のデータはない。

 あの日、アンドロイドの少女が消えた後。人工知能の育成データはなくなって

いた。

 課題提出済み。初期化されました。

 そのメッセージしか、見つからなかった。


 「俺は玲に会えて、嬉しかったぞ」

 今は、このくらいの言葉で許してほしい。

 もっと、もっと気持ちが伝えられる言葉を見付けて、考えるから。

 この気持ちを伝えるまで、彼女を憶えているのが、俺一人きりでも。

 この世界で一人きりでも、俺は俺であることをやめたりしない。


 百年後の君に。

 この物語が届くように。









 Say By R ・ END













読んでいただきありがとうございました。



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