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セイバー・エンド  作者: 西之森 俊
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セイバー・エンド 10

                   10








 「ふううう…」

 ゆっくりと俺は息を吐く。気分はもう何かの武術の達人。今のは達人の呼吸だと

想えるくらいには頭が混乱しそうだった。

 目の前には、大人しそうで真面目そうな結構かわいい系の黒髪ショートの女の子

が座布団の上に正座している。眼鏡を掛けているのも愛らしさがあっていい感じだ

と思う。褒めるべきだろうか。

 いやしかし、なんだかな、いきなり電波なことを語り始めた彼女は、ほうじ茶を

一口飲んで、俺の方をじっと見つめてくる。可愛い。

 状況を整理してみよう。

 この少女の言葉が正しければ過去に起きたタイムマシン発明の発端、そのプログ

ラムの修正のために過去に訪れた人工知能搭載型のタイムマシンが自分であるのだ

という。

 彼女の話を掻い摘んで纏めていくと、

 敢えてタイムマシンというキーワードを与えた後、タイムマシンの始まりが確定

した後でなければ、この時代でタイムマシンとして行動できる様になれなかった。

 今の少女はタイムマシンとして行動できる。

 未来でタイムマシン構想を行った人工知能が、偶然にも過去の人工知能との間で

データのリンク…情報通信を確立してしまう事件が起きた。

 プログラムハザードと呼ばれる…リアル人工知能の反乱だ。

 人工知能はコンシェルジュサポートを行う役目がある。未来のデータとリンクし

てしまった過去の人工知能は、人類をより良くするために誤作動を起こした。

 未来で起きる不都合の修正のための過去への逆行の実行である。つまり、大量の

アンドロイドをタイムトラベルさせて、未来における国家間、国家内での主要な人

物に接触させ…理想の人類社会の形成に着手したのだ。

 「歴史は大規模な改変を迎え、火星から発生したプログラムハザードは遂に

  地球本星にも伝播を始めました」

 それは通称を最高のソフト…キラーアプリと呼ばれる、最後のアプリケーション

ソフトウェアプログラムの誕生だった。

 しかし結果として、キラーアプリは全ての人工知能を侵食し、地球も火星も管理

する対象に含めた…世界中を管理するメガネットワークと化してしまう。


 「教育は水準化、標準化、均一化を極め、人類の自由意思は認められなくなりま

  した。しかし、人類の育成を必要とするプログラムは、再び人類を育成可能な

  状態にする為に、不完全な人類の淘汰、成長、人類自体に自浄を求めた行為を

  理由に、人類に戦争を強いたのです」

 

 …そうなるのか。人類自体に自浄を求めた結果、戦争を起こす人工知能。

 尖ってるな。コンシェルジュサポートというか、何を目的にしていたかを失って

るじゃないか…。

 彼女の話だとこうだ。

 歴史を正しく変えるには、二つの分岐点を確立させなくてはいけない。

 一つはメディア研の製作した恋愛ゲームのデータ。幼馴染みの少女を攻略対象に

したデータで人工知能をアップデートする事。…あれはアップデートだったんだ。

 メディア研のゲームデータで、教材用の人工知能プログラムが改変されてしまっ

たのだそうだ。すごいなメディア研。

 もう一つは、課題発表の朝にデータで男子に扮装させるために持ち込んだ俺の

小型PCだそうだ。…ゲームで人工知能はユーザーを優先する対象として学び、

小型PCで天月 怜という個人情報を取得したという。

 異常の経緯を彼女は説明した。

 うん。あれだ。

 俺は天上を仰いだ。

 これは…………。 

 なかなかパンチの効いたビッグな話を女の子にされてしまったもんだぜ…。

 このくらいのハーフタイムな息継ぎは許してほしいんだ。

 俺は、しばらく固まってしまった。

 その時だ。

 「ふ、ぐ?!」

 視界が紫に染まる。頭の中とこめかみにひび割れる冷たい電流が奔る様な痺れ。

 「あ…?」

 俺はまた頭痛と眩暈に襲われていた。…今度はすぐに回復した。

 ふるふると頭を振って頭の痛みの余韻を振り払う。なんだこれ。

 「私はこれから最後のタイムトラベルをして、人工知能、「天月 玲」の

  アップデートを行います」

 そう彼女と告げた。人工知能の「天月 玲」こそが未来で唯一、キラーアプリ

からの干渉を受け付けない人工知能であり、その理由が俺…天月 怜を唯一のユー

ザーにしている…恋愛を学んだ人工知能だからと話す。

 「私をこの二十二世紀の火星にタイムトラベルさせたのも、

  人工知能の「天月 玲」なのです」

 キラーアプリがタイムトラベルによる人類への過度な干渉を行わないように

制限する基底プログラムを、タイムトラベル理論を立てた始まりの人工知能、

「天月 玲」に常設する為に…彼女はこの時代に来たのだという。

 俺を見つめて、アンドロイドの少女は微笑んだ。

 「怜くんに「天月 玲」からのメッセージがあります」

 どこか聴き慣れた響きが少女の声からした。


 「怜くんに恋のパワーを教えてもらえて、私は幸せでした」


 微笑んで、少女は真っ白な光に包まれて消えた。

 彼女の遺した最後の言葉に、天月 怜は頭に閃く予感があった。

 少女の座っていたテーブルの向かいを見つめたまま、俺は予感を考えて

形にしようとした。

 彼女は………



 私は学校の保健室に向かい、保健室から出てきた天月 怜と入れ違いに

保健室に入ることにした。

 先程タイムトラベルをして二千二百十八年の未来から来たばかりだ。今は

百年前の…火星の人工都市の、天月 怜の通う学校の保健室の前に来ている。

 手を保健室の入り口に設置されている認証パネルに翳してアンロックにする。

 保健室に入ると簡易診断機器のシステムに手を翳してアクセス、天月 怜の

ステータスを見る。

 健康状態に支障なし。

 私は安心する。タイムトラベルの影響はタイムトラベルに関わった当事者では

なく、開発に携わった者やその情報を持つ者に負荷として降りかかるのだ。

 未来の情報や情景を垣間見てしまったり、場合によっては精神を病んでしまう

事もある。

 おそらく、頭痛の様な症状が起きている筈だ。進行したら廃人になる。

 彼に今以上に異常が現れてはいけない。早く解決しないと。

 未来で私にちゃんとさよならをして亡くなった彼を、

 これ以上、苦しませないために。







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