初めての吸血 二
そんなことを耳元で囁かれたら人の家だろうと何だろうとそんなこと関係なしに、大声で驚く以外の選択肢は、私にはなかった。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!」
自分自身で今日驚きすぎだろっとツッコミを入れたくなるぐらいには、驚いた気がするが、私はそのまま喋り続けた。
「あのー私てっきり、姫が私の処女を貰ってくれるのかと勘違いしてたんですけど、違う感じですか?」
先程頑張って隠した処女というワードが、勢いあまって出てしまったが(なんかこのタイミングの出てしまったってどことなくエロすを感じているのは、多分この話を書いている奴だけだと信じたい)私は、気にせず姫に目線を向けると。
赤面していた。
それはもう真っ赤に赤面をしていた。ここまで照れた表情の姫を見るのは、100回目ぐらいだろうかどれだけ見ても姫の照れた表情は──良い、やはり私はSなのだろうか?
そういえばとある有名声優が人は誰でもSとMどちらも持っていると言っていた気がする。そういうことにしておこうこれ以上深く考えても答えは出ない気がする。
「処女なんてそんな、私達恋人でもないのに、それにもし恋人だったとしても水となんてそんなの考えただけで──」
私がくだらないことを考えているうちに姫は、いつもの調子で独り言を喋り考えの限界値を超えたのか、頭から煙が見えてくるようにボーッとしていた。
それを見て私は、これまたいつものように手を姫の目の前に持っていき、数回スッスッと振るとこれまたこれまたいつもの調子で、姫は正気に戻った。
「よかったよかった戻ってきて」
「う、うんいつもごめんね水」
「いや全然大丈夫。それで──さっきの話の続きなんだけど」
私が姫に勘違いをさせていがために意味ありげにそう言うと、姫は見事に引っかかってくれた。
「さっきのってその、処女とかそういうこと?」
姫は私が思っていた通りの照れた口調で、そう言ってくれた。
「いやー、その前の血についてだったんだけど、姫ー何考えてたの?」
私はここぞとばかりに姫を煽っていく(やはり私はSなのかもしれないそんな風に考えながら)そのまま身動きを取れていない姫を私は押し倒した。
その直後私は姫の耳元で囁いた。
「姫の⋯⋯H」
と。
すると姫は照れながらも反論を繰り出してきた。
「ち、違う別にそういうことを想像してたんじゃなくて、その」
私はそこに追い打ちを耳元にかけていく。
「そういうことってどういうことー? 私わかんない教えてほしいなー姫ー」
これはもうSでしょ両方持ってるなんて嘘だ。これをSじゃないって言う人がいるのが想像つかない。
しかしその私の想像はすぐに崩れ落ちた。
姫のこの後の一言によって。
「でも先に想像してたのは──水の方でしょ!」
正論。ド正論。マジレスだった。
私はその姫の言葉に返す言葉が見つからなかった。
その瞬間を真のSは見逃さなかった。
私のその一瞬のスキをついて姫は、私をまたもや押し倒した。
「ねぇー水⋯⋯血⋯⋯吸っても良いよね」
私は姫の言葉に、コクっと頷くことしかできなかった。(でもやっぱり下もいいな)
私の首元に今まで全く見たことがない形の、姫の歯がザクッと(この時の表現が何が正しいのかわからないのでとりあえずザクで)突き刺さった。
「アーっうーっ」
と痛さで喘いでいると、その痛さはだんだんと快感に変わっていった。
この快感が私がMだから感じているのか、それとも人間にとって血を吸われるという行為が快感になるものなのかはわからないけれど、とにかく今は今すぐに姫に抱きつきたいただそれだけだった。
一夜を共にしたような疲労感も相まって(もちろん私は処女なんで、大事なことなのでもう一度言います。処女なんで今の疲労感がその疲労感なのかは本や漫画の知識でしかないけれど、多分あっているはず)私は処女を姫に奪われた気分になっていた。
見事に簒奪されました。
しかしその快感も長くは続かなかった。当然ではあるのだけど、姫は血を吸い終わると私の首元に突き刺さった歯を抜いた。
すると私にはただの痛みしか残らなかった。もし私が痛みによって快感を得ていたとしてそれは、姫が私に痛みをくれるから良いのであって、この首元に残った痛みはただの痛みでしかないのだ。
気づくと私は姫に願っていた。
「姫ーもう一回首から血吸ってー」
その言葉を聞いて姫は、私の唇に人差し指を置き一言。
「また今度ね」
と言った。
その時の姫はものすごく──可愛かった。
気づくと私は、好きでもなんでもないむしろ嫌いぐらいの、もし結婚してって頼まれたらしょうがないしてあげるってぐらいの姫に。
キスをしていた。
心の中で⋯⋯大好きー! 叫びながら。




