異世界は一瞬の煌き(第28部分)
楓
「あけまして
おめでとうございます」
隆史
「あけまして
おめでとうございます」
新年の挨拶から
2人の会話は始まった
マーシャル(M)が去ってから
皆で年明けを、香穂の家で過ごし
その後其々の家へと戻った
楓
「マーシャルが去ってから
数日経ったけど、もう会いたく
なってるわ」
隆史
「ああ、そうだね、彼と一緒に
正月を過ごしたかったね」
TVからも街中も、正月の琴の音が流れている
去年の事が
まるで嘘の様に、静かな正月を
迎えていた…。
香穂
「楓さんや叶恵さんの世界のお正月
ってどんな感じなんですか?」
楓
「そうね、こことはかなり
違うかなぁ、琴の音が素敵ょ」
叶恵
「私の世界では、
お琴ってないけど似たような
楽器があるわょ」
香穂
「そうなんですね、ここは…」
そう言うと、香穂は壁に手を翳し
スッと、横へと滑らせた
壁から柔らかな音楽が、流れてきた
楓の世界で言う、Classic音楽に似ていた、部屋の中に、柔らかなミュージックが溢れる
香穂は、更に新年を祝うのだと
壁の隅にあるスイッチを押した
「ウイィィィン…」小さな音とともに
部屋の中が、変わっていった
模様替えの様な、ものなのだろう
「スゥィーン…。」また小さな音の後
その音が止むと、すっかり部屋の中は変わった家具の配置や家具自体も個々に違っている
香穂
「ここは、こうやって年の初めに
変えるんですょ」
楓
「凄いわね、あっという間に
変わったわ!
新年の模様替えも素敵ね」
マーシャルが去ってから、
皆寂しいのだろう、極力マーシャルの話は避け、新年を過ごした
香穂の家から戻り、
楓は、隆史と自分の家で過ごしていた
楓には、今年もまだ
やらなければならない事があった
次元の扉総てを、閉ざさなくてはいけない
1枚になったあの古布には、次元の扉を閉ざす呪文も、記してあった
まず透明の異世界(元闇の異世界)
への扉を閉ざすには、香穂の世界の光る石(淡い色の宝石)を、扉の前に置き、呪文を唱えながら
手を翳し、右から左へゆっくり
半円を描く様に滑らせる
扉は少しずつ、透明になって消えて行き完全に見えなくなった
同じように総ての異世界への扉を閉ざさなくては、いけない
住人達と、お別れの時を過ごす
扉は閉ざしても
永遠ではなく、やはり不安定な感じになってしまう、扉のあった場所には空中に輝く亀裂が残り完全には閉じないようだ
扉を閉ざす呪文は、心身ともに消耗させるため、1日に1つ閉じる
閉じた後、数週間は休まないと回復しない
それでも、完全に閉じる事はできない
隆史
「焦らず、ゆっくりやって行こう
楓の体が一番だからね」
楓
「ええ、ありがとう隆史さん」
楓は、少し寂しくも感じていた、
異世界での、数多の思い出が蘇る
扉を閉ざせば、そこの異世界ヘ行くことは出来なくなる
当然、彼等にも
会えなくなってしまう
こちらの世界ヘ、戻って来ても
叶恵達とは、鏡を通じて
毎日、話をしている
この世界以外に、異世界が存在し
その異世界への扉を
楓が閉じているなんて、誰が信じるだろう
恐らく、誰も信じないだろう
楓の生活は、あの日から一変した
そして
今も、その生活は続いている
最後に閉める扉は、
叶恵の、異世界への扉だが
それも
まだ暫くかかりそうだ
そんな事を考えながら
電車から降りると
こちらの、世界にも
雪が、チラチラと舞い始めた
楓
「あっ、雪だわ」
掌の上に、そっと雪が舞い落ちた。




