火薬天使
「オーライ、オーライ、いいよーそのまま後ろに下がって。あ、そこゴミ箱あるから気を付けて」
介護用ロボットが機材を病室に運んでいく。
「今時フルダイブゲームたぁ、随分リスキーだな……」
「ん?言ってなかったか。このゲームな、バックにうちの会社が付いてんだ。まー確実に財利目的じゃねえ」
「…またニトロ氏の独断か?」
「らしいな。金なんて唸るほど集まってんのになんで……あぁ、唸るほどあるからか」
我らがアイウォール社のCEO、ニトロ=オッズマン氏。レコーデッドを開発した唯一無二の天才。たった一代で一研究者から巨大資本の長までのし上がった傑物。個人で気に入った企業に信じられない額を気前よく投げる世界一のビジネスエンジェル。
彼は様々な側面を持つが、そのどれもが輝かしいものだ。
彼について知れば知るほど、俺達はニトロ=オッズマンという巨大な才能にぶら下がる金魚の糞なのだと、痛感させられる。
「わざわざ家からダイブシステムまで持ち込んで、やる事がゲームってのがな……俺はゲームジャンキーじゃないんだぞ」
「Oh sit!ここから古臭い臭いがプンプンするぞ!!時代の変化についていけないファッキンレイシストの臭いだ!!!まさかこの超情報化社会でゲームジャンキーとか言い出す間抜けが居るとはなぁ!!」
「そうかそうか、そんなに死にたいか。ちょうど両腕とも鋼鉄製にアップグレードしてんだ、さぞ殴られ心地も良かろうよ」
「ッハアァァン!?!?ナメットンカワレェェ!!?!!?!」
「ナンヤァァァ!!!ヤンノガゴルァァォァアア!!!!」
「君達、チンピラごっこは外でやってくれよ」
いつからいたのか。Dr.ポーが冷めた声で注意してきた。
「あ、すいません。つい暇なもので」
「暇だからって青筋立てて罵倒合戦を繰り広げられるのはいい迷惑なんだよね。確かに病室には防音処置もついているけど、それとこれとは話が違うよ」
「あ、いえ……ほんとすいませんでした」
割とガチのトーンで怒られた。怖い。
「で、さっきから君の病室にサポートロボが出入りしてるから何事かと覗いてみれば。ついにダイブデバイスまで持ち込んだのかい。君の傍若無人ぶりには呆れるね、ここはコンドじゃないんだけど」
「だから言ったろタガロー、絶対許可される訳ないって」
「いやなんで俺に話を振る」
どの口が言ってんだよ
「あー系次くん、別にこれの持ち込みを止めたいわけではないよ。むしろ今の君には丁度いいんじゃないかな」
「へ………?」
驚いた。てっきり撤去一択だとばかり
「系次さんのここ数ヶ月の奇行ぶりは病院でも有名でね。廊下でニンニクを潰して練っているのを見た時は正直殴りつけてやろうかと思ったよ。……まぁそれは置いといて、とにかく君は放って置いたら何をしでかすかたまったものじゃないからね。フルダイブのゲームなら院内でトラブルは起きないだろうし、君の暇潰しも兼ねられる。まさに打って付けじゃないかな?」
「は、はぁ」
知らない間に担当医に殴りつけられるところだったらしい。
「思う存分楽しんで、立派なゲーム廃人になるといいよ、ははは!」
そう言ってDr.ポーは病室から出て行った。
もしかして俺、ドクターに嫌われてる?
閉まるスライド式の自動ドアは何も答えない。
アイウォールタワー
1000m級のビルが立ち並ぶロサンゼルスで異常な存在感を放つ正真正銘の摩天楼。
高さ4255mというこの脅威の高層ビルはロサンゼルスの最も有名なランドマーク。というよりデカすぎて目に入らない事の方が稀。
また、ガラスで出来たピラミッドを捻り上げたような形をしている為横幅も大きく、外からの威圧感はさらに増している。
内部は
1〜300階が商業施設
301〜349階がアイウォールの関係企業オフィス
350〜400階がアイウォール社の専用スペースとなっている。
300階は丸ごと展望台のフロア。観光名所。
241〜299階はホテルやコンドミニアムなどの居住区。アイウォール社の社宅もここ。
1〜240階は商業施設。ほぼありとあらゆる商業施設が収められている。託児所とガンショップとSUSHIバーと弁護士事務所が同じ階に存在するビルなどここくらいだろう。
資源の生産を除きビル内で全ての日常生活を完結可能なことから、アイウォールタワーは半アーコロジー型建造物と言われている。所有者であるニトロ=オッズマン氏がどういう意図を持っているかは不明。
同氏の認知度の高さから、俗称として"ニトロタワー" "ニトロピラミッド"の名称も広まっている。