プープー総統
「あんたなんかに期待したのが間違いだったわ!」
「待ってくれシェリー!俺の話を聞いてくれ!」
「これ以上何を話すことがあるっていうの?私達はもう終わりよチャック!」
「違うんだ!これを受け取ってくれ!」
「う、うそ……まさかこれ…指輪?」
「そうだ!結婚しよう、シェリー」
「ああ…チャック!チャック!」
「シェリー!」
「チャック!」
「シェリー!」
「チャック!」
「シェリー!」
チーーーン
お、できたできた。おぅ、ここからでもエスニックの香りが漂ってくるぜ。
「ぅん?なんだこのきっついパクチー臭は」
「タイ料理弁当。俺の昼飯な」
「うへえ、また変なもん買ってやがる…」
「いや今回のは大丈夫だって。普通に美味そうだったし」
「オメェ、『ガリゴリ君ナポリタン爆散事件』のこと忘れたとは言わせねえぞ?」
「あれは事故だってずっと言ってるだろ…」
電子レンジを開けると芳醇なココナッツの薫りがする。うん、ウマソウ
「ほれタガロー、見てみろよ。これのどこが危険物だ?」
「あぁん?これはガパオだろ?これがライスヌードルにカオマンガイ…なんだよ、普通に美味そうじゃねえか、しかも量も多い。これどこで売ってんだケージ?」
「ハ、教えるわけねえだろ!因みにこの弁当一つで500円ポッキリだ!はっきり言って俺はここより安くてウマい弁当を知らないね」
「マジかよ…食には見境いのねえお前がそうまで言うとはどんだけだよ。…ちょいと一口つつかせろや」
「あげるわきゃねーだろぉ?この弁当の味はな、テメーの足で美食を求めて歩き回った奴だけが味わえる珠玉の逸品なんだよ! 誰がテメーみたいな根腐れ野郎に食わせてやるかよ!ケツ拭いて出直して来な!」
「お?ケンカ売っとんのかワレ?食前の軽い運動くらいならいくらでもやっていいんやぞ、お?」
「あ?わての大切な弁当掠め取ろうとすんのが悪いんとちゃうんか?自分が窃盗犯って自覚あんのか?おぉ?」
「はぁ?まだ何も取っとらんのに人をドロボウ呼ばわりとは大した度胸やなワレェ。その顔おもろい事にしたってもええんやぞこの猿ぅ!」
「はぁ?」
「あ?」
「……………」
「……………」
「「…上等じゃゴルァ!!」」
「あんたらうっさいわよ!テレビが聞こえないでしょうが!」
「「すいませんっした姐さん!」」
互いにキッスができそうな距離まで顔を突き合わせていた三十路のおっさん二人は、それはそれは滑らかな動きで膝を折って頭を垂れた。土下座とは日本の由緒正しき謝罪方法なのである。
社員食堂の一角のテレビにはさっきから流れていたドラマの続きが流れている。
「フハハ!愛しのシェリーは既にこの我と融合している!つまり我を殺すということはシェリーを道連れにするということだ!貴様に彼女を殺す覚悟はあるのかぁ!!」
「クソ!プープー総統め、なんて卑怯な奴だ!だが私にシェリーは殺せない…どうすればいいんだ!」
「ヌハハハ!どうやら我の勝ちのようだな!地獄に落ちろチャッ…!!か、体が動かない、だと!?」
「聞いてチャック!私がプープー総統を抑えているうちに!私の体をその剣で刺して!」
「そんな…!僕は、僕はどうすればいいんだ!」
「ぬぅ、どこまでも小癪な小娘めぇ!我の野望は誰にも邪魔させぬゾォ!」
「はやくして!もうプープー総統の動きを抑えきれないわ!世界の命運はあなたにかかっているのよ チャーーック!!」
「ゥゥ……ぅウオオオオオオ!!」
to be continued……
??????????……え?理解が追いつかないんだけど。ナニコレ?
「いや俺たちが喧嘩してた数分の間に何があったんだよ、さっきまで昭和みてえなメロドラマしてたじゃねえかよ」
「それな」
「うーん、チャックのブレイクリングスラッシュが先か、プープー総統の拘束が解けるのが先か。展開が読めないわね……」
「まじスカ、ぱねっすね姐さん!」
「ブレイクリングスラッシュってチャック指輪壊してんじゃねーか……ておい、タガローてめえ何しれっと俺のガオマンガイ食ってんだよ!」
「はっはあ!飯からクチャクチャ一瞬でも目をクチャクチャ離したマヌケなクッチャクッチャ自分を恨むんだな!」
「……………こ………ッの!ぶっ殺してやる!!」
許すまじ!許すまじ!ガオマンガイの恨みを思い知るがいい!
「血の海に沈め!キエエェェエエエエエ!!」
「グボァ!」
オラオラオラァ!俺の鉄拳制裁からは逃れられねえぞ!
一通り殴り終わった頃に、ガチャリと食堂の扉が開く。
「チッスてめえら。休憩時間は終わりだ、仕事に戻るぞ。ん?ケージとタガロー、何やってるんだ?」
「あ、どもっすチーフ。今からこのドグサレ野郎にリンt……社会のルールって奴を叩き込むところなんでさぁ。よかったらチーフも一発どうです?スッキリしますぜ」
「殺人の片棒を担ぎたかぁねえなあ。まあ何でもいいが休み時間は終わってんだ。早く持ち場に戻れよぉ〜」
「「「「へーい」」」」
ふらふらと部屋を出て行ったチーフを続いて、皆も職場に戻っていく。
「チッ、命拾いしたな。次は確実に殺す。
ペッ」
白目を剥いて気絶しているタガローの顔に唾を吐いて、しっかり股間を踏み付けながら俺も仕事場に戻った。
その日中タガローは内股だったという。