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ラフ&スムース 風刃の儀(中編2) 初稿

一応ぽちぽちと書いてみて出来上がったのですが

なんかこう、思ったのとちょっと違うような?(汗)

もう少し手直しが必要かもしれん気がしないでもない。


というわけで、本編にアップする前にこっちに投稿してちょっと寝かせておきます。

納得いかず大幅改稿するかもしれませんし、しないかもしれません。




「ラフ&スムース」






道場にて。


大婆様と来賓客ら三人は

一息入れるためお茶会を開催していた。


何故か来賓客の付き人が

全て持参し用意してくれていたとのこと。


後から合流した師範代もそれに加わり

板間の脇にある畳のスペースで

皆和気あいあいとしながら

深雪が戻ってくるのを待っていた。



「あ、あのお……」



おずおずと、出入り口付近で遠慮気味に言葉を発する者が一人。

それはバスタオル一枚で姿を現した、深雪その人であった。


「なんじゃ、裸ではないか!

白装束はどうした?」


「そ、それが……

どこを探しても、見つからず……」


「……あ!

大婆様、私、ちゃんと持って来ていますよ!」


師範代の先生が傍らに置いてあった

白装束を拾い上げ、皆に見せる。


「いや、どうしてこっちに持って来とるんじゃ!?

深雪は身を清めとると言うたじゃろう?

風呂場の脱衣所に置いといてやらんか!」


「……あ……! すす、すみません! 

完全に失念しておりました!」


「……ぷっ!」


大婆様と師範代のやり取りを見て吹き出す来賓の女性。


いや、でも一番恥ずかしいのは私なんだけどね!


ていうか、めっちゃ寒い!

立春はもう過ぎて一応季節の上では春なんだろうけど

正直真冬並みに寒かった。


母屋から道場までは同じ敷地内だから

距離的には大したことはなかったんだけど

それでも流石に薄布一枚ではきつかった。


途中、なんかお隣の茶道教室の方から

茶道の先生がカミナリ混じりに

ガミガミ怒ってるのが聞こえた気がしたが

何かあったのだろうか? まさかね……

いや、今はそんなの気にしてる場合じゃないんだけど。


さっさと着替え……じゃなく、着てしまわないと!



今からまた母屋の脱衣所に戻るのは

ちょっと耐えられそうになかったので

私は道場の隅っこの暗がりでこそこそと白装束を着込んだのだった。



「準備はよいか? 深雪よ」


「は、はい……」


師範代が

目の前に、木箱を持ってこられた。

幾重にも巻かれている縄をほどく。

そしてそっと木の蓋が持ち上げられた。


「…………」


初めて見る。

これが――――風刃。


そこまで刀剣に詳しいわけではないが

見た感じ、テレビとかで見るような

一般の武士が使っている刀と

特に何も変わりないようにしか

見えないけれど……


それにうっすら錆びてるし、色も若干くすんで見える。

博物館などに展示されている刀剣のように

十分に手入れが行き届いているわけでもなさそうだし

そのせいか大して美しくも見えない。


これでいったいどういう風に選ばれるというのだろう?


「お、大婆様……?」


何もわからない私は深山家の現TOPに上目遣いで指示を仰ぐ。



「うむ、では……………………刺せ!」



「……え?」


「今から、その刀身をお主の身体に突き刺すのじゃ」


「……は、はあ………………て…………えっ?」


「切腹とか、テレビや映画で見たことはあるじゃろう?

その見よう見まねでええ。

その身体に、風刃を突き立てよ」


「っ!? こ、これを……私の……身体、に……!?」


「そうじゃ」


「…………」


「理解できたか?」


「…………えと、もちろん、突き刺す、

”ふり”……とかでいいんです……よね?」


儀式なんだし、そんな感じで進行していくのかなー? なんて


「ふりではない。 実際に突き刺すのじゃ」


「…………」


「儀式は、それだけじゃ。 実に簡単じゃろう?」


「…………あ! あー! 

少しだけ傷をつけてちょっとだけ血を出してみる、とか?」


「なにをみみっちいことを言うとるんじゃ?

腹から背中まで突き抜けるつもりで行かんかい!」


「…………」


え? いやいやいや!


だってこれって……刀、だよね? どう見ても、本物の。

ん? 刀だからこそ切腹しろって言ってるの?

確かに刀だから切腹はできるし、

用途としちゃ間違ってはいないよね…………


…………


いや! そうじゃなくて!


……切腹!?


え? 私、死ぬの?


普通、切腹って勝者がやるものじゃないよね?

戦で負けて敗者がやるとかならまだわかるんだけど。


え? やっぱり私、負けてたの!?

勝ちって言ってたの、実は皮肉で言われただけだった説!?


「なんじゃ、さっさとせんか」


「え……で、でも……」


「…………」


「…………」


私も大婆様も微動だにせず、しばらく沈黙が続いた。


え、マジ? これひょっとして本当に大真面目に言ってるの?

薄々は感じてはいたんだけれど

深山家ってやっぱり実は、そこまでやばいお家柄だった?


「…………」


「…………」


更に沈黙が続く。



「…………ぷっ! あ、あははははっ!

もう! いじわるですねぇ大婆様はあっ!」


来賓の女性が笑いながら沈黙を破った。


「……え? えっ?」


「ふぉっふぉっふぉっ、いやすまんすまん深雪!

あんまりにも何も知らんみたいじゃから

ついからかってしもうたんじゃ、許せ」


「…………な、な~んだ! そうだったんですかあ~」


「大婆様あ、ちゃんと説明してあげてくださいよ。

深雪さん、困ってるじゃないですかあ~」


「あ、あはは! ……そうですよ、まったくう~。

やっぱり冗談だったのかあ。

そりゃそうですよねえ、いくらなんでも身体に突き刺すなんて

そんなわけ……」



「いや、それは本当じゃ」


「…………」



またしても、場の空気が凍った。



「心配せんでいい、深雪。

その刀は偽りの姿じゃ。

本当の刀身は実であり、虚である。

今はまだ、解放されてはおらん」


「…………は、はあ……」


何が心配いらないのか、よくわからない説明だった。


「えと、大婆様? 僭越ながら私から説明させてもらってもいいですか?」


「……む? まだわかりづらかったかの?」


来賓の方がなんかフォローを入れてくださるようだった。

この人、若いのに物知りなんだなあ


「えと、すみません大婆様。

こちらの……方は……?」


紹介も割愛されていたので未だ誰だかわからない。

そういえばお忍びとか言ってたような……?


「あ~、そちらのお方はな……」


「oh! これは失礼! 申し遅れました。

私、ヒナタと申します。 気軽にヒナタちゃんって呼んでね!

大婆様にはいつも大変お世話になっているんですよ。

以後よろしく~ねっ!

ええと、私も深雪ちゃん……って呼んでも、いいかなー?」


「は、はい! もちろん!

よろしくお願いします! ひ、ヒナタ……さん」


「ぶー! ヒナタちゃんだよおー!」


「は、はい……じゃあ、ひ、ヒナタ……ちゃん……」


「はい! よろしくね、深雪ちゃん!」


そうにこやかに言いつつ彼女は右手を差し出してきたので

私も右手をそれに添えた。

すると、より笑顔になった彼女は左手も被せてきて

ぶんぶんと両手を上へ下へと振り回す。


なんだかとても人懐っこい人だなあ。


深雪ちゃん……か……

どうやらこの人私よりも少し年上のようだし

まあ、いいんだけど。


そういう風に呼ばれるの、これで二人目、だな……


でも、大婆様と対等以上にお話ししてるところを見ると

立場的にはかなりのお偉いさんなんだろうな。


その辺のことはよく知らないのだけれど。


「大丈夫だよ」


「……え?」


「もうこれで私たち、友達だからね!

これからもずっと仲良くしようね!」


「は、はい……」


表情に出ていたのだろうか?

それとも勘がいいのか察しがいいのか



「……あ、それでね! 説明に戻るんだけど

深雪ちゃんにはちょっと信じ難いことかもしれないんだけど

実はこの刀、「風刃」には定まった形が無いのですよ!」


「えっ? では今、私が見てるこれは……?」


「擬態、カモフラージュね!

この子は主との契約を経て、解放されてそこで初めてその姿を現す。

その形に法則はなく、はっきり定まってはいないの。

それはその時代、状況、持ち主によって様々だと言われている」


「えと、でもこれ一応、刀……なんです、よね?」


「そうだね。 基本はその認識でいいと思いますよ。

だからこそ深山家は”深山流剣術”という多くの技を確立させたのだから」


ああ、なるほど、だからか……


「…………違和感が、ありました」


「うん、わかるよ。

だって、深山流剣術は、

妖刀の使用をも想定して創られた剣術だからね」


「…………」


そういうこと、だったのか。

深山流の技には通常の剣では実現が難しいものも

いくつか含まれている。


それは師範代も、型自体は教えてはくれるものの

実際の立ち合いではまったく使用することがなかったものだ。


それは、この剣、風刃をもってして

初めて体現し得ることができると、

そういうことなのか……


「必要に応じて、実をも虚をも切り伏せることができる。

この剣は常に現世と異界とを行き来している……とも言われているんですよ」


「な、なんですかそれ!?

一体何を相手として想定された剣なんですか、これは?」


「それは、おいおい話するとして……

まずはこの剣に貴女を認めてもらわないと、ですね」


「意志がある、ということなんですか? この刀」


「……そうですね。

まあそういう、ちょっとした超常の刀が

この”風刃”さんなのですよ」


「…………」


「そういう不思議ちゃんな剣なのですが

主の意志が働いていない今は

この剣に殺傷能力はありません」


「つまり……この剣に認めてもらうためには

腹の内を全て見せなきゃならん、ということですか?」


「ふふ、上手いこと言いますねえ、まさにその通りです!

だからですねえ、気にせず

思い切ってぷすっと行っちゃってください」


「ぷ、ぷすっとですか?」


「はい、手品とか見世物で使うびっくりナイフだと思えばいいです。

大して力も入れずに身体に入っていきますから

本当の切腹みたいに気合入れなくても大丈夫ですよ」


「…………」


どういう原理でそんなオカルトチックなものが成り立ってるのかは

わからないが、どのみち後に引く気はない。


そうすることによって深山家当主になれると言うのなら

やってやろうじゃありませんか!


「わ、わかりました」


「ふう~、まったく、

それくらいのこと前もって知っておいて欲しいもんじゃ」


「す、すみません……」


当主の座を譲る気のなかった睦月はともかく

師範代とかからもう少し情報を仕入れとくべきだった。



風刃の柄に手をかける。


パチンッ!


「……あっ……つ……!?」


「どうした?」


な、なんか、少しピリッと来た、ような……?

静電気か、何かかな?


「い、いえ…………大丈夫です」


もう一度掴み直すと、今度は普通に持てた。


白装束の前をはだけさせる。


「な、なんか、ちょっと恥ずかしいですね……」


「あ、大丈夫、私視えてませんから!」


「あっ! そ、そうなんですか!?

な、なんか……その……ごめんなさい……!」


「いえいえ~気にしないで」


そういえば、さっきそんなことを話していたように思う。

普通に振る舞ってるし、てっきり見えているもんだと……

病気や事故で視えなくなったのかな?

それとも、先天的に……?


いずれにしても不便なんだろうな……

私には想像もつかないことだけれど。



すると付き人さんがヒナタさんの隣にやって来て

ボソボソと耳打ちをしだした。


「……ほう! ……ほうほうほう! 

なるほど、はだけた柔肌は

装束以外は一糸まとわず、つまり下着もなく

つまり! ブラもしていないということなんですね?

そして! 白い、みずみずしいそのつつましやかな双丘はなんとも神々しく!」


「そ、そこまで解説しなくていいですよっっ!! 付き人の方っ!!」


なんか顔から火が出そうになった。

そういえば私、白装束以外は全部脱衣所に置いてきてたんだ。


気を取り直して、切っ先の方向を我が身に向けてみる。


……う……


柄を握ったままだと、刀の全長は結構長い。

たぶん私の腕よりも長いんじゃないだろうか?


テレビとかだと普通はこういうの、

脇差しとか短刀じゃないの?


切っ先を、ちゃんとお腹に添えられない。


仕方がないので木箱に入っていた布を刀身に巻き付け

そこを柄代わりとした。


「それでは、行きます」


切っ先を、お臍の上くらいにちょんと添える。


「…………あのお~……」


「なんじゃ、まだなにかあるのか?」


「チクチクして痛いんですけど、

ホントに大丈夫なんですか? これ」


「あはは、大丈夫ですよ。

痛いのはほんの先っちょ、先っちょだけですから

あとはすんなりお腹の中にずぶずぶ~っと分け入って

勝手に入ってきますよ~」


「…………」


な、なんか卑猥な表現なような気がした。

いや、きっと気のせいだ。 うん、そうに違いない。


「…………はよせんか」


呆れたのか額を押さえつつ、大婆様がぼそりと呟いた。


「は、はいいっ!」




「ええいっ!」


一度、風刃を脇に置き


パーーン!


両手で自分の頬を叩いた。


「…………」


気合を入れ直し、また風刃を手に取る。


ピタリと、お腹に切っ先を押し当てた。



覚悟を、決めろ!



本意ではない、あんな卑怯な手を使ってまでしてこのチャンスを得たんだ!

おそらくこんな手は二度と通じない。


それに私は今、この時のために、

そのためだけに修業をしてきたんじゃないのか!?


それ以外の人生の目標なんて、今のところ、無い。


だったら、命を懸けて当然じゃないか!


怯むな! 勇気を出せ!

これが今の私の、人生の、全て、だ!!


僅かに刀身を引き

一気に振り下ろそうとしたときに

風刃。 その刀身はポウッと僅かに赤く光り輝いた。



「……! ちょっと待っ「待って!!」」



一瞬ヒナタさんの声がしたかと思ったが

その声を上書きするように誰かが掻き消した。


「……睦月。 来たのか」







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