冒険者の登録
執筆スピードが遅くてごめんなさい
精霊魔法を使うようになってから1年が経過して歳は11歳になった
「水の精霊よ我が魔力を糧にして力を与えよ! 純 水 生 成 」
俺は練習を兼ねて村長の許可をもらって湖に魔法を発動する。さすがにこの体の魔力量にも慣れてきたおかげで湖一杯丁度の水を生成できた。湖面ギリギリで発動しているから状況を知らない人が見たら急に湖面が上昇したように見えるだろうな
「おお、すまんの。最近雨があまり降らんからな…」
村長が軽く頭を下げながら言う
確かにそうだな…最近雨が降ったのは3ヶ月前が最後だったかな。確かにこの暑くなり始めた時期にしては少なすぎる気がする…
水不足は俺やリリアがいるから問題はないとしても、ここまで雨が降らないのは異常だ。
「お、セシルご苦労さん!」
魔法がちゃんと魔力を使い尽くして消失しているか確認していたら、後ろの方から声をかけられた。気配を消すことなく近づいていたのでわかっていた。
「父様!帰ってたんですね!」
ジットは軽装備ではあるものの革製の鎧と刃がちゃんと研がれた両刃剣を鞘に納めた状態で持っていた。討伐クエストに行くときの格好であり、今回は2日も家に帰ってこなかったのだ。
「ああ、遅って悪かったちょっと予想以上に魔物がいてな、手こずっちまったよ」
「今回は雨蜘蛛の討伐でしたよね?そんなに強敵なんですか?」
雨蜘蛛…湿気の多い地帯や山の中に生息する足を含めない体長1メートルほどの巨大蜘蛛。レベル10程度の少し力自慢の駆け出し冒険者と同じくらいで、いくら弱くなったジットであっても手こずるなんてことにはないはず…
「いや、個々のレベルは11で、討伐ランクはF以下なんだが、その数が異常でな。索敵魔法を使った奴の話によれば10万匹以上いたらしいんだ」
10万?いやいや、おかしい、おかしすぎる。雨蜘蛛の生殖能力はそこまで高くない。数年に一度生まれる蜘蛛の王の存在があったとしても1万にも満たないはず…
「それで、その蜘蛛はどうなったのですか?」
「当然全滅させたさ、腕がなまってたけど、久々にいい運動ができたぜ、で、今日はご馳走だぞ!早く帰ってリリアに作ってもらうぜ!」
家に帰ると同時にジットはリリアにぶっ飛ばされた。連絡をよこさなかったことに怒っているらしい、昨日の夜にも特段変わった様子はなかったのだが、俺に気を遣っていたのだろうか…
だがそれも、全員で食卓を囲む頃には収まっており、笑顔でご馳走を目の前にしていた。
クエストの報酬が思いの外高額だったらしく、ジット自身の新しい装備の他に、俺のサイズにあった装備が床に並べられた。
「父様、こちらの鎧は子供サイズに見えるのですが…もしかして僕のですか?」
そう聞かれるのを待ってましたと言わんばかりに、にやりとした表情で大きく頷いた。
「そう、セシル!お前には冒険者見習いとして、俺のクエストについてきてもらいたい!!」
「ぼ、僕がクエストにですか!!」
ジットの発言にリリアがなんにも言ってこないところ見るに、相談済みで同意したと言うことだ。そうなればこの事案は、俺が極度に拒んだりしない限りなしにはならないだろうし、拒む理由もない。
当然クエストなんてものは対象になったことはあっても、実際に受けたことはない。
ジットからの話で大まかに知っているが、本などを見ると多くのロマンにあふれた、夢のある仕事のような扱われ方をしている。
「そうだ、多少の危険はあるかもしれないが、お前のことは俺が守るし、戦闘には参加させないつもりだ。まずはどういうものなのかをしっかりその目で見るんだ!」
「はい!父様!!」
ジットが帰ってきてから1週間が経過した。晴れた日、俺はジットからもらった装備に身を包んでいた。一般的に流通しているもの鉄製のものよりもワンランク上の鋼鉄製のもので、さらに魔法耐性も付与されている高級品であった。関節部分のつなぎ目には、下位竜の皮が使われており、防御力と言う面で見れば最高クラスの代物だった。
鞘から抜けば美しく輝く刀身がその手にあった。子供用に作られた小さい両手剣であったが刃は完璧に研がれており、切れ味は大人たちが使っているものと遜色ない。
「準備できたか?」
自室にある鏡の前で、装備を眺めている俺の元にジットが声をかけた。頷いて答えると、ジットは何も言わずついてこいと言わんばかりに振り返って歩き始めた。ジットの体に装備されている鉄製の鎧が擦れる度に甲高い金属音が鳴る。
「母様、行ってまいります」
ジットはアイコンタクトだけでリリアに合図を送っていたが、俺はしっかり言葉で伝えた。いつも通りの笑顔を見せるリリアの表情の奥には少しだけの不安が見て取れた。
「無茶はしないようにね。幸運を祈ります」
リリアが祈るように両の手を握り合わせ祈る。普通の人間がこれをやっても加護も何も発生しないが聖女である、リリアが祈ったならば、その者の生存確率は1週間の間90%になるという付与効果が与えられる。この能力のおかげで、勇者相手には割と無茶しても死ななかったのだ。
「ありがとうございます」
一つ礼をして、先を歩くジットの方へと向かう。
村から出ると周囲はポツポツと背の高い木が生える程度で視界一杯に草原が広がっていた。中心都市よりも離れた位置にあるこの土地は、とある理由から大国さえも手をつけず、魔物さえも近づかない。そのおかげで、あの村は誰にも邪魔されず、戦争が起こったとしても平和でい続けられるのだ。
「とりあえず、お前のことを冒険者機関に登録しないとな。いくら見習いって言っても、証明書を発行しないと危険地には、入れないからな。」
「冒険者?それって父様と同じなのですか?」
「そうだな。今の時期は、ちょうど冒険者登録試験を行っているからな。今のお前の実力ならDランク冒険者くらいにはなれるだろ。なぁに俺がDランク冒険者になったのは17歳の時だ。それに比べればお前は天才だセシル!行くぞ!!」
ジットは急に走り出し、俺はそれについていく。初めて村の外にでて改めて思うが、世界は広く輝かしいものだ。魔王として君臨していた時に何度も思い、何度も守ろうとした。
いくら牙を剥かれようとも、信じられなくても、この世界を俺は救いたかった。
しばらく走っていくと、そこまで大きくはないが、人間となって初めての街へとたどり着いた。まだ村から2時間は経っていない地点のため、都市からの距離もかなり離れているが、国家に仕える者が統率者として存在する、管理された場所なのだ。
ここで住むためには、毎月税金を払う必要があるが、冒険者機関を含めた様々な施設が存在する。魔王時代にはこうやってゆっくり街を見ると言うことは不可能だったため、本来の目的を忘れてウキウキした気持ちで街中を見ていた。
地面には、大小様々な石が綺麗に敷き詰められ、通路の両端には、美しい花々を咲かせた花壇が並んでいる。建物自体も村とは比べ物にならないほど丈夫で高いものがずらりと並んでいた。
「どうだセシル!小さな街だがすげえだろ!ここはティリアっていうんだけどな、石の加工技術に特化してて、装飾類なんかはセントラル国にも納められるほどなんだぜ」
「たしかに、美しい石造りですね!建物もこの床も…ところであの一際大きな建物は一体…」
街の中に入った時から見えていた、周囲の建物よりもふた回り以上大きな赤塗りの建物があり、俺はそれを指差してジットに訪ねた。
「おお、あれか!あれはこの街の統率者が住んでいる謂いわば城のようなものだ。まぁ今回はそこじゃなくて、こっちの冒険者機関に用があるんだ」
そういって自分の後ろを親指で示したジットの背後には、赤塗りの建物ほどではないが周りよりも頭一つ抜けた石と金属を組み合わせた丈夫な建物が建っていた。
「こ、ここが…」
押して開くタイプの扉をジットが開けると、それに続いて俺も通る。
冒険者機関の建物内部はたくさんの机と椅子が並んでおり、その奥には3箇所カウンターがあった。
カウンター上部に釣り下がっている木の板には左側から
『登録』『受付』『金』
と書かれており、ジットは左側のカウンターへ向かった。
「あ!ようこそいらっしゃいましたジット様。先日討伐していただいた雨蜘蛛ですが、また発生しているようですよ?」
カウンターの奥には、この冒険者機関の受付担当である女性が笑顔で声をかけてきた。全体的に青を基調としたきっちり目のスーツ姿のメガネ女子だった。かなりの巨乳で、スーツの下のシャツの胸元をかなり大胆に開けられているため、立派な谷間が出来上がっていた。
「またか?だがその件はまた明日だ。今日は息子の登録にきた」
かなり色っぽい受付嬢の姿に俺はわずかに興奮していたが、ジットはリリア一途のせいなのか、慣れているからか、それともこういう色っぽい女性でななく、リリアのような幼女体型の方が好みなのか知らないが、何も気にとめることなく話を進めた。
「あら、ということは勇者様と聖女様のお子さんということですね?こういう個人的な感情は本来ダメなのですが、少し期待してしまいます!」
「そうだろ!なにせ俺の自慢の息子だからな!思う存分期待してくれて構わないぞ!!」
くそ、ジットのやつ勝手に人のハードルを上げやがって。確かに魔法のレベルはそこそこかもしれないが、聖女や勇者と比べればそこまでじゃないはず…だが、ここまできたら後には引けない!盛大にホラでもなんでも吹いて失敗した時はジットに頑張ってもらおう!!
「はい!|勇者ジット=アクセルと聖女リリア=アクセルの息子セシル=アクセルです!よろしくお願いいたします!」
すると、受付嬢は微笑みを見せながら一枚の紙を差し出してきた。
「それでは私、冒険者機関ティリア支部アゲハが案内させていただきます。こちらの紙は謂わば魔法紙と呼ばれる魔法具の一種です。この埋め込まれた魔石に触れて頂けますか?」
アゲハと名乗った受付嬢は、紙の一部を指差す。
俺は言われた通りに右手で藍色に淡く光る魔石に触れる、すると世界の石と似たようなものらしく、ほんのわずかだけ魔力が奪われた。
すると、紙が少し発光し文字が浮かび上がった。数十行あるうちの上の方は、名前や俺のステータスだが他のは個人を示す管理番号のようなものだろうか…まぁそういうのは考えても分からないからな。
「はい、これで登録は完了です!それではこれより、試験を受けていただきます。あの…」
「んー…とりあえず最低ランクのGからでいいだろ。うまくいくようなら上限まで受けさせてやってくれ」
「かしこまりました。それでは会場に案内します」
またそうやって、ジットは俺のハードルを上げてくる。
さっきの俺の登録した紙を見たアゲハの反応を考えるに、俺の能力はそこまで高いものじゃないのだろう。だが、せっかく戦うんだ、できる限り上のランクになれるように頑張ろう!!