精霊の魔法
遅くなりました!
累計200PVありがとうございます!!
「ほらそこ!!魔法構築が遅すぎ、そっちは魔力の出力が多すぎ。村長さんはさすがと言ったところですが、全体的なバランスがわずかにずれていますね。ジット!あなたはまず、基礎的な魔法知識が圧倒的に足りてません!」
俺が8歳ぐらいの頃から始めたリリア直々の魔法教室が湖の近くにある開けた場所で行われている。1年経つ頃には暇な村人が来て一緒に、魔法の練習をするというのが毎日の光景となっていた。
リリアの説明によると魔法とは、大きく分けて3つの構成で成り立っているとのこと
まず魔法構築、強固なイメージとそれを現実化させるために必要な理を組み立てる。この魔法構築を速く正確に行うことで、魔法戦を制することができる。
2つ目に魔力注入。これは魔法構築によって作り出した、魔法を放つための砲台のようなものに、魔力という名の砲弾を詰める作業だ。魔法構築の強度よりも大きな魔力を注げば暴発、少なすぎれば魔法自体が発動しなくなってしまう。
そして最後は魔法射出であり、弾を込めた砲台に着火する行為だ。まぁイメージ的には空気で押し出すような感じなので、着火というよりは圧力をかけると言った方が伝わりやすいかもしれない。
「ってもよう、男なら我が身ひとつで戦ってくもんだって」
「言い訳無用!セシルを見習いなさい、魔法構築速度はもしかしたら私よりも上よ?最初はまったくのだめだったのに…」
さすがに最初っからできていたらおかしいと考えていたのだが、今の魔法構築のレベルは魔王時代よりも上というのだから不思議だ…これが称号の力なのだろうか…
「村長さん、少しご相談が」
「なんじゃ?」
少し影のとこでリリアが村長と話していた。
だが俺はそれを無視して、魔法の基礎を反復する。
構築して、魔力を注ぎ、射出する。この三工程。
少なく思えるが、魔法が人類によって発見された最初の頃と比べると圧倒的に無駄が削られて短縮されている。それに人間の間にも天才的な者が時折生まれ、魔法技術を飛躍的に進歩させてきた。
そのおかげで魔法には系統別、難度別に分けられた。
系統別に分けられたことで、個人個人に得意な系統魔法があると判明し、魔法を学ぶ学校や、軍の魔法訓練の効率も上がったらしい。
しかし6000年もの間たった一人で魔法の研究をすること以外やることがほとんどなかった俺にとっては、それらさえもまだ序の口だといえよう
「セシル!昨日言った通り、今日から本格的な魔法を練習していきます。まずはじめに水系統魔法をやっていきます」
「はい!しかし母様、なぜ水系統魔法なのですか?魔法関係の本のほとんどは火系統魔法から記されていますが。」
俺は誰かに魔法を教わったことはなく、ほとんどが独学でやってきたため、順序よく学ぶという意味がよくわからない。だが水系統魔法ならいくつか使えていたはずだ
「確かに、魔法とは主に攻撃手段に用いられます。そのため最も攻撃力が高く、範囲攻撃に適した火系統魔法を最初に学ぶというのは、戦いに置ける訓練や学校であれば優先すべきことです。ですが今回は戦いではなく生きるのにに必要不可欠な水を自在に生成できる” 純 水 生 成 ”を教えます」
なるほど…確かに火系統魔法は薪に火をつける小火くらいしか生活魔法はなく、そのほかは軍用魔法、戦略魔法などに分類される。それに比べれば水系統魔法の大半は生活魔法が占めているから理にかなっていると言えるだろう。
「それではまず、私が実際にやってみます」
リリアが大きめの壺を地面に置くと自然体のままで杖も持たずに構える。
おそらくリリアクラスの魔法使いであれば、タイムラグやインターバルを必要としないはずだが、俺に見せるためにわざとゆっくりやってくれているのだろう…
「水の精霊よ、我が魔力を糧にして力を与えよ、 純 水 生 成 」
するとツボの中に水が生成されちょうど壺の内側ギリギリまで満たされると生成はピタリと止まった。
意外とこの水量コントロールは難しく、魔王であった時も魔法の繊細さのトレーニングにやったな…まぁ出来たのは始めてから10年以上経ったあとなんだが
「とりあえずこれが水系統初級魔法 純 水 生 成 です。私がやったように壺にぴったりとする必要はありません。最初は力加減が難しいですし、あなたは今の私以上に魔力を保持していますから…この湖に向けて発動してみてください。」
「わかりました母様!」
あ、また少し緊張してきた…この体での魔法は何度か経験しているのだが、使っていたのは精霊を媒介しない、所謂無系統魔法だ、幼い体では長時間の読書やトレーニングには耐えられないからな。
つまり、精霊に力を借りる、通常魔法。細かく言えば精霊魔法を使うのは初めてなのだ。力の制御が難しく、無系統魔法であっても最初は暴走したり不発だったりしていたのに…
まぁ、多少は大丈夫だろ!不発するよりマシだ、少し多めに魔力を込めてやれ
側から見れば魔法というのは、精霊に魔力を与えれば力を貸してくれる簡単なものと思われているかもしれないし、実際リリアが教えた通り、三工程をスムーズに行えば魔法が発動できると思い込んでいる。
魔法が大幅に短縮できた原因として、人間は人間自身の進歩と進化によるものだと思っているらしいが、本当は違う。精霊たちが人間が使っている魔法を学習して魔法名を聞いてそれに近い事象を発生させているにすぎない。だからその精霊による予測や演算、イメージで魔力が消費されてしまい、本来の力を発揮できないでいる。
それじゃあ魔力構築を始めよう!
水の精霊を統括するのは水の神ウンディーネ。
ウンディーネは割と仕事熱心な神様で、それに仕える精霊たちも同様に仕事熱心だ。でも器用じゃない。回り道をしながら結果を生み出すものばかりだ、それなら道を示してやればいい。
純 水 生 成 の魔法は空気中の水素と酸素を合成することで水を作り出す。しかしそうしてしまえば周囲の空気の酸素と水素が消失してしまう。今の人間たちが使っている魔法ではこの部分が欠落しているのだ。ただ単純に消費された酸素と水素は、消費した以外の空気を持ってきて穴埋めしてやればいいだけなのだ。
だが、精霊たちはわざわざ元素から生成してしまう。
それは無駄の極みだ。ゼロから物を作り出すことは、そもそも水精霊の仕事じゃない。担当外の仕事をさせることは、大幅な魔力のロスになる。
つまり…
水素と酸素を合成し、水を作り出す。消費した部分は周囲の空気から補填。生成場所は湖の中心から10メートルくらい上。保持魔力の2%を使用。圧力は1分間で全て使い尽くすほどで
と頭の中で精霊への命令文を作成する。もっと綿密に構成して精霊語で命令文を作り出せば100%の魔法が使えるのだが、ちょっと面倒だし、そこまで問題じゃないからいいや
「水の精霊よ、|我が魔力を糧にして力を与えよ! 純 水 生 成 」
結果を先に言っておこう…やっちまった。
生成できる水の量も魔力量換算ではなく、水量で指定するべきだった。
今みんなの目の前で発動した 純 水 生 成 は空気中から轟音とともに滝の如く水が降り注いでいる。どう少なく見積もっても秒間2000Lくらい出てる…1分間の制限でやったから12万L生成されたことになるな…
その光景を見ているリリアを含めた村人たちが唖然として口を開けたまま何もない空気中から降り注ぐ大量の水を1分間丸々見続けていた。
「か、母様…僕失敗してしまったんでしょうか?」
こうなったら知らないふりで押し通す!
「やはりセシルの魔力量は常軌を逸しているみたいね…使ったのが湖の上でよかったわ。それに最近雨が少なかったから結果オーライってことで…いいですよね?村長さん!」
明らかに必要以上の魔法だったが、被害はなく、村の貯水量が多少増えたということで問題にされることなく事態は収束した。リリアの圧力があったなんてことは決してない。
ちなみにジットは息子の俺に負けたのがそこまで悔しいのか、陽が沈みリリアに怒られるまで魔法の練習をしていた。まぁ一度も発動することはなかったんだが…