十歳の儀式
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俺が人間として生まれ変わって大分時間がたった。
魔王だった時と違って、時間の経ち方がゆっくりに感じられる。
それは新鮮なことばかりの濃密な時間がそうさせるのか、はたまた寿命がある人間特有の感覚なのかは分からない。
だが、俺の心臓が高鳴る。それは緊張によるものなのだろう。
それもそのはず、今日はセシル=アクセルの10歳の誕生日なのだから。
「うん!ばっちりね」
未だに若さを保つリリアは。子供用の礼服を着た俺を鏡越しで整える。魔王時代には正装を着るなんて経験はほとんどなかったからなと考えていた。
誕生日といえばちょっとした宴を催して少し豪勢なご飯を食べたりする、というのが例年のこと。
しかし今日は違う。
聞かなくても知っていたことだし、本での知識でわかっていたのだが
人間にとって10歳の誕生日というのは非常に特別なことらしく、国や地域によって千差万別に祝い方が違うのだが、
この”シズカ村”では、儀式を行うことになっている。
祭壇の間という、この村には一つしかない石造りの建物が村の中央にあった。
建物内部は、石造り特有の冷たさがあったけれど、これでもかというほどろうそくが淡く揺らめいていた。
その中心には優しい表情を崩したことのない白髪の爺さん、もとい村長が床にクッションを敷いて座っていた。
儀式といってもそんなに仰々しいものではないらしい。適当にやっていけばいいんだろ?
と軽く思っていた時代も俺にはありました。
「それでなセシル…わしのな…でそのむかし…婆さんの若かった時は…主の父も強いがわしも若い時は…」
やばい!限界だ!精神耐久力には結構な自信があったのだが村長の話は並みの呪いの比じゃない!
ジットに至っては、目を開けたまま眠っている…器用だと褒めるべきか。
なんてやつだ、勇者でもないのに魔王であるこの俺をここまで追い詰めるとは…
「おほん!まぁ前置きはこのあたりにして、そろそろ本題に入ろうかの」
あれだけの長さの話をしておいて、オチもなにもなく終わってしまった!
国を守護していた龍はいったいどうなってしまったのだ!!
俺さえも知らない話がやっと出てきたのに、詳しいことは聞けずに終わった!かなり不完全燃焼だ
というか、あれが前置き!?
本題が話終わるころには日が開けてるんじゃないだろうか?
「それじゃあセシル=アクセルよ、この祭壇の中央にある球体に触れるのだ。それは”世界の石”と呼ばれる、希少な石じゃ。勇者様、聖女様がいらっしゃらなければ、こんな小さな村にあるわけがない代物じゃ。」
言われてみて、立ち上がると真っ白な石造りの、あからさまに高級な台座の中心には青空を切り取ったような、宝石のような、とにかく美しいの一言に尽きる人間の頭サイズの球体がおいてあった。
これはなんだ?とあたりを見回し、両親である二人に助けを求めようとするが、ジットは未だ夢の呪縛から逃れられずに、眠っている。
リリアは目をつむって必死に祈っている。
なにこれ?めっちゃ怖いんだけど…いやでも、10歳になれば皆やるんだよな。この程度で臆病風に吹かれてる場合ではない!俺は魔王だったんだぞ!
そう、意を決して手を伸ばした。震える指先が少し触れると、それはちょっと暖かかった。
ほんのわずかだが、魔力が奪われた感触があったのと同時に世界の石が輝き始めた。
眩いばかりの光に、周りにいた村人たちがどよめく。
後でわかったことだが、この時の光の強さは魔力の大きさに比例するそうだ、村長に聞いたところによれば聖女である、母リリアの時よりも強い光だったとのこと。
発光がおさまると、世界の石に文字が浮かんでいた。
どうやら、今の俺のステータスらしきものが記されているようだった。
え?っていうかこれ、俺以外にも見えてるんだよね?ステータスって個人情報だよな?プライバシーとかねえの、この村?
「えーと…『魔の力を操りし者』『努力家』『探求者』『聖剣に相応しき者』これは、称号ってやつだな。」
称号っていうのは確か魂に刻まれたその生物を才能を表すって書いてあったな。
忘れていたが昔、魔王になる前に一度調べたことがあったな…その時はたしかこの、魔の力を操りし者ってのがあったな…もしかしたら魔王になる称号じゃ…
などと考察に浸っていたら、なんだか周囲が騒がしいことに気がついた。
「4つ!!?まさか、何かの冗談だろ?」
「いやいや、あの勇者様、聖女様の子供だろ?ありえなくもないだろ」
よくよく考えれば、称号が4つもあるのはおかしいのだ。両親である二人などの、所謂英雄達であっても2つしか持っていないものなのだが、俺には4つ…一体どういうことなんだろうか。
「やはり俺たちの子供だけはあるな」
さっきまで寝ていたはずのジットが、この騒ぎで起きて話を理解したのか、俺と肩を組む形となって話しかけてきた
「そうね、魔の力と探求者は私の称号の下位」
「努力家と聖剣は俺の称号の下位だからな」
ジットとリリアが俺を挟むような形で並び、村人は一斉に静まり返る。
どうやら俺が何かいうのを待っているようだ。
え?めっちゃ緊張する…なにを言えばいいんだ?
……決意表明でもしてみるか
「僕の名前はセシル=アクセル!!父に勇者、母に聖女を持つ次代の勇者となる者です。まだまだ修練が足りない身ですが、力をつけて世界を平和にできるよう尽力していきます!」
短くはっきりと言って見せたが、唐突なことでうまく喋れなかった気もするが、村長をはじめとして大いに盛り上がってくれた。
その後はかなり大規模な宴となって、成年になっている者達がほとんどのこの村では皆酒を飲み明かしていた。
ジットも村の仲間達と一緒に酔いつぶれており、普段はベンチのような役割をしている大きな岩に突っ伏していた。
俺は、だいぶ静まった村の中で、家の近くにある湖を野原に転がって眺めていた。
儀式をしたのがわりと早めだったのにすでに翌日を迎えようとしていた。
魔王城では自分の魔力のせいで空に浮かぶこの星々を眺める機会が少なかったのだが、セシルになってからはもう何度も見た景色である。
だが、見慣れたと言うにはまだ早く、見るたびに違う表情を見せる夜空は飽きるほど見るには人の生じゃ足りないだろう。
「誕生日おめでとう、セシル。ばたばたして言えてなかったね」
リリアが俺の隣で同じように寝そべりながら空を見上げる。ちなみにリリアは酒癖が悪いらしく、禁酒令を自分に科してるらしい。
「驚いたわ、でもそれ以上に嬉しかった。やっぱり私たちの子供なんだって。でもあなたはあなたなのだから自由に生きてね?」
星の淡い光では、リリアの表情を確認できないが、声には少し不安が混じっていた。
「わかっていますよ母様。僕は僕の意志で判断して決めています。ですので安心してください。」
「そっか…それなら…そろそろ本格的な魔法を教えてあげるべきなのかもしれないね」
リリアがそう言った後、なにもしゃべらなくなり、しばらくすると家の中へと入って行った。
俺は考え事をしながら眠りについた
「…魔法か…さて…どうしよ…か」